表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【WEB版】叛逆のヴァロウ ~上級貴族に謀殺された軍師は魔王の副官に転生し、復讐を誓う~  作者: 延野正行
16章 次なる一手

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

180/190

第166話 優しき断罪

本日はコミカライズ更新日になります!

 女同士のかまびすしい声が隣の女湯から聞こえてくる。

 キャッキャウフフ、とばかりに騒がしく、そして華やいでいたのだが、男湯に浸かったザガスには耳障りだったらしい。

 湯船に持ち込んだ樽いっぱいの酒を、機嫌良く柄杓ですくって飲んでいたのだが、甲高い声を聞いて、眉根を顰めた。


「うっせぇえなあ……。人間の女ってのは、どうしてああ煩いんだ? なあ?」


「俺に同意を求めるな。ついでに気安く喋りかけるな」


 神妙な顔で言い放ったのは、キッザニアである。

 ザガスと違って、柄杓で直接というわけではないが、杯に酒を注ぎ、チビリチビリと味わっていた。


「別にいいじゃねぇか。一緒に戦った仲だろう? お前はどうかわからねぇがよ。オレ様はお前のことを結構気に入っているんだぜ」


「俺はお前のことが好かん。アズバライト教の誓いと、その信者たちを馬鹿にしたこと、俺は許すつもりはないからな」


 キッザニアの鋭い視線が飛ぶ。

 明確な怒気と殺気を混ぜたのだが、ザガスには暖簾に腕押しだ。

 柄杓で酒をすくうと、豪快に飲み干した。


「で? どこまで聞いたんだっけ?」


「興味がないなら、この話は終わりだ。そもそもお前が振ってきた話題だろう」


 犬猿の仲であるキッザニアとザガスが、こうして肩を並べて湯船に浸かっているのは、酒と温泉以外に理由がある。

 キッザニアを第六師団に引き入れようとしていたからだ。

 これはヴァロウからの命令であった。

 勿論彼から話をすべきなのだが、この話をザガスに振ったところ、「自分がやる」と言い始めたのである。


 キッザニアのガードが堅かった。

 だが、ザガスもしつこかった

 その理由を話せと凄むと、キッザニアは少し長い話を始めた。



 ◆◇◆◇◆ キッザニア 視点 ◆◇◆◇◆



 もう21年以上前になるか。

 俺は魔族軍第六師団の人鬼族(いちいん)だった。

 その頃にはゴドラム様が、師団長の席に着き、その指示の下で、俺たちは人間たちの集落を荒らし回った。


 第六師団の力は圧倒的で、そして無敵だった。

 俺もゴドラム様も若く、おそらくその頃が師団の全盛期だっただろう。


 だが、俺たちの勢いはあるところで躓く。

 ある集落を襲撃した時だ。

 そこは純血(ピュア)エルフの集落だった。


 純血(ピュア)エルフは身体的に人間よりも弱い。

 加えて、人間や魔族が保菌する菌に感染するだけで、死んでしまう。

 その代わり、魔力は魔族の上位クラスに匹敵するほどの力を持っていた。


 体力勝負の俺たちにとって、魔力に特化した純血(ピュア)エルフは天敵だ。

 たった100人程度の集落だったのに、1万以上いた俺たちはあっという間に半分にまで減らされた。


 俺はその時、初めて戦いが怖いと思ったよ。


 それでも、俺たちは体力が続く限り戦い続けた。

 結果、第六師団は勝利する。

 気付いた時には、知り合いの人鬼族が全員死んでいた。

 辛勝というヤツだ。


 俺のように戦いに疲れて項垂れるヤツもチラホラいたが、それでも勝利に酔いしれ、はしゃぎ回るヤツがほとんどだった。

 先輩の人鬼族は純血(ピュア)エルフの死体を見つけては、弄んでいたな。

 ゴドラム様も純血(ピュア)エルフを頭から食らって、「まずい」と感想を漏らしていた。


 俺はそんな惨状が嫌になって、師団から少し離れたところで休んでいた。

 そして聞こえたのだ、赤ん坊の声が。


 赤ん坊がいるということは、そこに生き残りがいる。

 俺は警戒して近づいたが、大樹の木のうろに赤ん坊が隠されているだけだった。

 玉のような――という表現があるが、まさしくその比喩にピッタリな赤ん坊だ。


 俺はどうしようかと悩んだ。

 近くに純血(ピュア)エルフの残党はいない。

 単純に殺すことも、弄ぶことも、そして食べることもできた。

 赤ん坊の生殺与奪は俺の手の中だった。

 いずれにしろ、殺さねばならないことは確かだ。


 なのに、不思議だ……。


 その赤ん坊は俺を見るなり笑った。

 手を大きく広げ、見たこともないような笑顔を俺に向けた。

 たった今、その同族をなで切りにした俺に……。


 俺は必死だった。

 赤ん坊に殺気をぶつけても、怒気をぶつけても、牙を見せて威嚇しても、赤ん坊をさらに喜ばせるだけだった。

 次第に何か落ち込んでいる俺を励ましてくれるような気がして、俺は思わず赤ん坊を抱きながら、涙を流してしまった。


 その時、俺は思ったのだ。


 負けた、と……。


 それが俺の初めての敗北だった。


 それから俺は赤ん坊を携えて、第六師団から抜け出した。

 ゴドラム様が逃亡兵である俺を許さなかった。

 何度も俺に刺客を差し向け、命を狙い続けた。

 俺は必死に赤ん坊と自分を守り、なんとかこの極北の地に辿り着く。


 そしてアズバライト教の神官に、赤ん坊を預けて俺は去って行った。


 それから魔族であることを隠しながら、各地を転々とした。

 魔族領や、人間の国も訪れたことがある。

 そして月日は流れ、俺はアズバライト教の誓いの大切さを知り、そして今から3年前に再び極北の地に戻ってきた。


 俺はあの赤ん坊のことを意識しないようにしていた。

 が、結局無意識のうちに目で探していた。

 思いの外あっさりと赤ん坊は見つかった。


 リーゼロッテという名前を与えられ、立派に成長していたのだ。



 ◆◇◆◇◆



「俺にはリーゼロッテ様を守らなければならない義務がある。彼女は俺を最初に負かした人物だ。そして荒んでいた俺の心を癒やしてくれもした。……気付いたのだ、俺にとって彼女は拾った赤ん坊以上に、大切な存在なのだと」


 キッザニアは話を終えた。

 乾いた喉を潤そうとしたが、生憎と杯は空だ。

 樽から掬おうとするも、その前にザガスが柄杓を使って、キッザニアの杯になみなみと酒を注いでいた。


 まあ、飲めよとばかりに促す。

 話を聞いても一向に雰囲気の変わらないザガスを見て、キッザニアは少し眉を動かした。

 だが、結局無視して注がれた酒を呷る。

 アズバライト教では、酒は御法度というわけではない。

 ただ酒を呑むと暴力的になることから、信者の間では自らに禁酒を課している者も少なくない。

 そのためあまり酒が流通しておらず、キッザニア自身もかなり久しぶりの酒の味であった。


「それに俺は逃亡兵だ。魔族軍に戻れば、軍法会議にかけられるだろう」


 その飲みっぷりを湛えながら、ザガスが口を開く。


「軍法会議云々ってのは、気にしなくてもいいだろ。うちの大将をあんたを欲しがってる。どうにでもなるだろうぜ」


「しかし、俺には――――」


リーゼロッテ様(ヽヽヽヽヽヽヽ)のことだろ。わかってるよ。そんなもんな、すぐに解決できらぁ」


「単細胞なお前の頭と違って、これはデリケートな問題なのだ!」


「何がデリケートだよ。21年もかかって、いまだにわからねぇお前の方が、よっぽど頭はわりぃっつの」


 ザガスは柄杓を樽の中に放り投げると、自分は湯船から出て行く。

 すると湯殿の壁の方に向かって歩き、忠告した。


「おい。離れてろよ。怪我するぜ」


「貴様! 何を――――」


 キッザニアが忠告する前に、ザガスの強打は湯殿の壁をぶち抜いていた。


 現れたのは、隣の湯殿と、一糸まとわぬ女たちの姿だった。


『きゃああああああああああああ!!』


 絹を裂いたような悲鳴が響く。

 女性陣は身体を隠したが遅く、蹲るか、湯船の中に逃げることしかできなかった。


「ちょ、ちょっと! ザガス! なんてことしてくれるのよ!!」


 エスカリナが床に小さく蹲りながら、腕を振り上げる。


「ケッ! 心配すんな。おめぇみたいなちんちくりんな身体を見ても、何もそそらねぇよ」


「う、うっさいわね! わたしはまだ成長途中なのよ!!」


 さらにムキになって抗議の声を上げる。

 怒りを示したのは、エスカリナだけではなかった。


「ザガス! 貴様、何をしているんだ?」


 キッザニアも湯船から出て目くじらを立てる。

 ザガスは悪びれることもなく、ただ両手を上げるだけだった。


「オレ様はお前の話をもう少し聞きやすくしてやっただけだ。……どうやら、オレ様以上に熱心に聞いていたみたいだからな」


「まさか――」


 キッザニアが息を飲んだ。

 視線の方向を変えた時、黄緑色の髪と、長い耳を持つ少女が進み出る。

 リーゼロッテだ。

 あの玉のような赤子だった純血(ピュア)エルフの肌は、まさに玉のように滑らかで白かった。


 思わずキッザニアは頬を染める。

 慌てて後ろを向いた。


「す、すみません、リーゼロッテ……様」


「い、いえ。それはいいのです。ただ――キッザニア。確認させてください。先ほどの話は本当のことですか?」


 白い湯気が立ち上る湯殿は、独特の緊張感に包まれる。


「それは――――」


 キッザニアは口を噤む。

 首を傾げたのは、ザガスだった。


「おいおい。ここに来て、(だんま)りかよ。そんなもん隠してどうすんだ? まさか黙ってることがカッコいいなんて思ってねぇよな。だったら、飛んだナルシスト様だぜ」


「ちょ、ちょっとザガス。あんまり言い過ぎると――――」


 エスカリナは制止するが、それぐらいでザガスを止められるなら、苦労はしない。

 さらにザガスは、キッザニアを挑発し続けた。


「こいつはてめぇ()の問題であって、てめぇの問題じゃねぇ。2人で決めることだ。それにな。リーゼロッテ()を守る事が、お前の贖罪だと思ってるんなら大間違いだろう。オレ様からすれば、お前は逃げてるだけだ。21年間この嬢ちゃんに断罪の機会を与えずにな」


「すごい……。ザガスがまともなことを言ってる」


「てめぇは黙ってろ、小娘(エスカリナ)


 皆の視線が自然と背中を向けるキッザニアに向かう。

 その肩は小刻みに震えていた。

 まるで21年前のあの時が蘇ったかのようだ。

 木のうろにいた赤ん坊を発見した時のような……。


「キッザニア……」


 リーゼロッテから声をかけられる。

 キッザニアの背中がさらに震えた。

 そのまま何も言い出せず、キッザニアはリーゼロッテの先制をそのまま許すことになった。


「なんとなくですが、気付いてはいました。いや、そうだったらいいな――と思うこともありました」


「――――ッ!!」


「あなたの話は聞かせてもらいました。言いたいことは、先ほどザガスさんが言ってくれた通りです。だから、私から1つ言わせて下さい」



 ありがとう……。



「え?」


 キッザニアは振り返った。

 視線の先のリーゼロッテは微笑んでいる。

 本当に人間が理想とする女神のようにだ。


「私はあなたを許します。そもそも私はあなたを裁くつもりなんて、これっぽっちもなかったのです」


「しかし、俺はリーゼロッテ様の故郷を……」


「はい。ですが、あなたは軍規に背いてまで、私を助けてくれました。今は戦争の時代です。命を奪い、奪われることは、残念ながら致し方ないことです。ならば、1つの命を救うというあなたの行動は、恥ずべき事なのでしょうか? ザガスさんは、あなたが逃げていると仰いました。ですが、私はそう思いません。私にとって、あなたは今も昔も“勇者”様なのですから」


 それを聞いた瞬間、キッザニアはすとんと膝から落ちた。


 湯床に落ちたのは、涙だ。

 気付けば、キッザニアの目から涙が溢れる。


「おおおおおおおお!」


 ケダモノのように吠えると、床に蹲った。

 そして喉を絞るように言葉を吐き出す。


「ありがとうとざいます!」


 そしてまたキッザニアは泣いた。

 ずっと……ずっと怖かった。

 だから、ずっと逃げていたのだ。

 故にそんな自分が1番嫌いだった。

 周りも同じだと思っていた。


 だけど、違った。

 自分を許す者、感謝する者、そしてその力を欲す者。

 責めていたのは、キッザニア1人だけだったのだ。


 年甲斐もなく泣き崩れる人鬼族を見て、ザガスは笑った。

 その頭に手を置き、子供の褒めるようにわしゃわしゃと撫でる。


「キッザニア! もう2つほどてめぇに言っておくことがある。うちの大将はゴドラムみたいな馬鹿じゃねぇ。だから、集落襲撃なんてケチな戦さは絶対しねぇ。あとな。その大将から伝言だ。それを聞いた時には、なんだそりゃ? って思ったけどよ。今ならわかるぜ」



 俺は逃亡兵などいらない。欲しいのは、軍の先頭に立って戦う勇者だけだ。



 キッザニアだけではない。

 その場にいた全員が、ヴァロウの伝言を聞いて固まった。

 ザガスの口角が上がる。


「あの野郎……。この結末まで手の平の上なのかよ」


 たまらねぇなあ。

 とばかりに、ザガスは己の頭も掻くのだった。


本日『叛逆のヴァロウ』のコミカライズ更新日になります。

今回の第5話は「これぞダークファンタジー!」という迫力あるシーンが描かれております。

ニコニコ漫画、pixivコミック、コミックポルカなどで、

掲載されておりますので、是非是非チェックして下さい!!


下記にて、シーン一部を掲載しました。

そちらもチェックしてくださいね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作投稿しました! よろしければ、こちらも読んで下さい。
↓※タイトルをクリックすると、新作に飛ぶことが出来ます↓
『前世で処刑された大聖女は自由に暮らしたい~魔術書を読めるだけなのに聖女とかおかしくないですか?~』


コミックス1巻、好評発売中です!
『叛逆のヴァロウ~上級貴族に謀殺された軍師は魔王の副官に転生し、復讐を誓う~』

↓↓表紙をクリックすると、コミックポルカ公式HPへ↓↓
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large

ニコニコ漫画、pixivコミック、コミックポルカ他でコミカライズ絶賛連載中!
↓↓表紙をクリックすると、コミックポルカ公式HPに行けます↓↓
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large

小説家になろう 勝手にランキング

ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ