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【WEB版】叛逆のヴァロウ ~上級貴族に謀殺された軍師は魔王の副官に転生し、復讐を誓う~  作者: 延野正行
16章 次なる一手

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第164話 慈悲

更新お待たせしました!

 義勇軍勝利。

 生き残った人類軍およそ7000人は投降。

 聖地防衛戦は事実上終結。


 その報告はすぐにノースドームにもたらされ、信者たちは歓喜に沸いた。

 老若男女問わず、手を叩き、声を上げ、抱き合い、そして涙する。

 東側の渓谷が封鎖され、人類軍の侵攻は実質的に難しくなったことも合わせて伝えられ、皆は安堵した。


 列を整え、背筋を伸ばして聖地に戻ってきた義勇軍たちは、万雷の拍手で迎えられる。

 植物が育ちにくい極北の地。

 物資も少ない。

 花吹雪も、祝う花火もなかったが、戦った戦士にとってその温かい拍手は、何よりもの労いとなった。


 今回の戦いで1番の立役者となったアルパヤは、担架に寝転がったまま現れる。

 そこに子どもたちが集まり、心配そうに見つめた。


「おねーちゃん、大丈夫」


「大丈夫だよ。すぐに治るよ、これぐらい」


「またお花を持ってくるね」

「おねーちゃんたちのおかげだよ」

「これでお外に出られるから」

「いっぱいお花持ってくるね」


「……うん。ありがとう」


 アルパヤは笑みを浮かべる。

 その目には涙が滲んでいた。




 一方、黒罪騎士たちも数名怪我人を出したが、堂々とノースドームに凱旋した。

 普段、背信者として扱われる彼らだが、信者たちは彼らにも拍手を送る。

 いつもなら蔑んだ目を送るだけの老人たちまで、彼らを囲み労った。


「ありがとう、騎士の皆様」

「よく戦ってくれた」

「本当はいつも感謝していたんじゃ」

「教えは教え……。許してくれ」


 老人たちは団長のリーゼロッテの手を握る。

 目の前に宗主アズバライトが現れたかのように恭しく頭を下げた。

 リーゼロッテは軽く首を振る。


「皆さんが我々のことを静かに応援していてくれているのはわかっていました。……だから、私たちは信者の皆さんのために戦います。だから、皆さんもまた不戦を誓い、皆さんの戦いを続けて下さい」


 老人たちの小さな肩を叩く。

 リーゼロッテの言葉を聞いて、信者たちはさめざめと涙を流した。


 まだ体調が完璧ではないキッザニアは、少し複雑な表情を浮かべる。

 聖地の治安維持のため黒罪騎士というシステムが作られた。

 教義が矛盾しないよう信者たちは、黒罪騎士に背信者という汚名を着せて、防衛のための暴力を容認したのだ。

 敵が攻めてきて、それを救った自分たちを英雄視するのはいい。

 許してくれ、と謝るのも間違っていない。


 それでも、奥歯の方で何かが詰まったような得体の知れないわだかまりが、キッザニアには残っていた。


「おじさん、ありがとう!」


 気が付けば、キッザニアの目の前に子どもが立っていた。

 表情を輝かせて、感謝の言葉を送っている。

 声に聞き覚えがあるなと思ったが、以前ザガスと戦う時に応援してくれた子どもだった。


 無邪気な笑顔を見せる子どもを見て、キッザニアはハッとする。


「(ああ、そうか。俺は俺がわからないから、心の底から納得ができないのか)」


 背信者とレッテルを押されても、ここにいる信者を守ろうとした自分自身にまだ納得できていないのだ。


 キッザニアは顔を上げる。

 すぐにリーゼロッテと目があった。

 彼女がキッザニアの方を向いていたのだ。


「(俺はリーゼロッテ様を守ろうとしただけだ。だが、それだけで説明が付くだろうか)」


 ごちゃごちゃと考えてしまう。

 頭が悪いのは自覚しているのに。


「キッザニア……」


 とうとうリーゼロッテが声をかける。


「あなたが何を悩んでいるかは、だいたい想像が付きます。あなたの中にあるわだかまりのことも……。ただ――今はあるがままを受け止めましょう。考えるのは、その後でも遅くないはずでしょ」


「リーゼロッテ様……」


 リーゼロッテは柔和な笑みを浮かべる。

 女神のように美しい表情に、キッザニアは思わず目を背けてしまった。

 だが、顔が熱いことは自覚する。


 そして再びキッザニアは目の前の子どもに向き直った。


 手を差し出す。

 子どもは一瞬、ビクリと震えた。

 手を払われたことを思い出したのだろう。

 しかし、その手が子どもの頬を叩くことはなかった。

 軽くポンポンと優しく、頭を撫でる。


「あ、ありがと」


 ぎこちなく感謝の言葉をかける。

 不安に彩られた子どもの顔がパァッと輝き始めた。


「ううん! こっちこそありがとう、おじさん」


 熱っぽい視線に、キッザニアはどう反応したらいいかわからなかった。

 さらに顔を赤くし、自分の頭を撫でる。

 その可愛い反応を見て、他の同僚がいじられることとなってしまった。


 それでも、いつも暗い雰囲気が漂う黒罪騎士に、笑顔が灯ったことは確かだった。




 隊列の先頭を歩いていたヴァロウの前に、神官たちが進み出る。


 全員揃い踏みだ。

 その場で膝を突き、戦った者たちに対して最大の敬意を示す。

 リーアンだけではない。

 義勇軍に懐疑的だったクセニアなど、人類側にある種族たちも頭を垂れていた。


「ヴァロウ様、この度はアズバライト教の聖地、そして20万に及ぶ信者を助けていただき、誠にありがとうございます」


 リーアンは最初の口上を述べる。

 さらに引き継いだのは、クセニアだった。


「この通り、数々のご無礼な言動をお許しいただきたい」


 神妙な顔で容赦を請う。


 対して、ヴァロウは首を振った。


「感謝も謝罪も必要ない。ただあなた方に謝罪をしたいという人間がいるので、連れてきた」


 ヴァロウは首を振る。

 すると、人類軍の鎧を着た女性だった。

 黒髪をきっちりと左右に分け、手には縄がはめられている。

 しかし、虜囚となった今も紺青の瞳には、些かのかげりもなかった。


 人類軍聖地占領作戦参謀長――アジェリア・デーラシアである。


 前に進み出ると、立ち上がった神官の前で膝を突く。

 助けを請うて喚くこともなければ、暴れることもない。

 そしてこれから発する言葉には、憐憫すら感じられず、ただただ潔さとアジェリアの人となりが垣間見えるだけであった。


「お目通りいただきありがとうございます。私の名前はアジェリア。人類軍聖地占領作戦の参謀長を務めておりました。有り体に言えば、あなた方の聖地を占領しようとした実行部隊の長の1人です」


 神官たちがざわつく。

 険しい顔を浮かべたのは、クセニアだった。


「人類軍の長が何用ですか? 許しを請いに来たとでも?」


 その質問に、アジェリアは首を振る。


「あなた方に対して敵対的な行動を取ったことは間違いなく事実。それが軍人の役目だとしても、何の言い訳にもなりません。リントリッド本国の法律に照らし合わせれば、即刻処断されてもおかしくないでしょう」


「しかし、ここはリントリッド本国ではない、と――」


「だから、許しを請いたいのではありません。――いや、しかし……私が言いたいこととなんら変わらないのかもしれない。ですが、あえて言わせていただきたい」



 これはあくまで多くの兵士を率いてきた長としてのわがままです。

 どうか私の命で、どうか! 我が兵に寛大なご処置を願いたい。



 アジェリアは己の額を冷たい洞穴の床にくっつけた。

 恥も外聞もない。

 今ここにいる誰よりも低く頭を垂らし、アジェリアは己の我が侭を貫き通そうとした。


 無理も無茶も承知の上だろう。

 それでも、彼女もまた守りたかったのだ。

 自分に付いてきてくれた兵たちの命を救おう。

 ただひたすら、女参謀は必死だった。


 アジェリアの態度を見て、誰も表情を変えなかった。

 軍隊を預かる指揮官が自分の兵を守るために、許しを請う。

 それは戦いが終わった戦場では、ありふれた光景であるからだ。

 自分たちを殺そうとした存在に対し、手の平を返すように優しい態度をとれる者は、ある意味希有な存在である。


 ただ誰も何も言わなかったのは、ここがアズバライト教の聖地であるからだろう。


 すると、リーアンが口を開いた。


「ヴァロウ様、あなたならどうなさいますか?」


「俺に答えを求められては困る。俺はあくまで義勇軍の長なのだから」


 ヴァロウは首を振って答える。

 リーアンは「まあ」と言って、肩を竦めた。

 少し責めるようにヴァロウを睨む。


 やがてアジェリアに向き直った。


「アジェリアさん」


「はい」


「ここは本国でもなければ、魔族の領地というわけでもない。アズバライト教の聖地であることは、あなたも重々承知の上でしょう。そうですね?」


「は、はあ……」


「宗主アズバライトは不戦を誓い、そして我々はその教義を守り続けています。それは戦いという連鎖を断ち切るためです。ですが、もし私たちあなたをここで斬れば、あなたを慕うものが強い憎悪を内に秘め、いつかここに戦火をもたらすかもしれません。それはアズバライト教にとって、もっとも憎むべき結果となるでしょう」


「では――」


「はい……」



 私たちはあなたを裁きません。



 リーアンは静かに断じ。そして安心させるように微笑んだ。

 アジェリアは逆に戸惑っていた。

 兵たちの命だけでもと思って、名乗り出たのに、お咎め無しという裁定が下されたのだ。

 望外にもほどがある。まるで奇跡を見ているようだった。


「(これがアズバライト教か。なんと慈悲深い……)」


 気が付けば、点々と床に滴が垂れていた。

 自分の涙であることに気付くまで、アジェリアは時間を要する。

 何度拭いても止めどなく流れていく。


 ただ『戦わない』と決めただけなのに、これほど人の心を動かすとは、頭のいいアジェリアですら考えてもみなかった。


「ありがとうございます」


 アジェリアはまた深く頭を垂れる。

 それが今、持ちうる精一杯の誠意であった。


本日はコミカライズ更新日となります。

ニコニコ漫画、pixivコミックス、コミックポルカ他で更新されております。

是非読んで、お気に入り入れていただけるとありがたいです。

よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新だあああぁぁぁ [気になる点] で、問題となるのは兵が許されたからと言って帰参してもあっちの国の裁量で兵やその家族が無事か という点ですね。武官の天使が倒された以上なにか理由付しないと…
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