第163話 聖地防衛戦終幕
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操縦席の中でヴァロウは風の精霊を呼び出す。
すでにアイギスを依り代にしていた純魔法鉱石の刀は、テガンとの戦いで折れている。
次にアイギスが依り代にしたのは、キラビムMrkⅡだ。
正確にいえば、その中に搭載された一対の高純度化魔法鉱石である。
アイギスを降臨させたことによって、一気に計器が回復していく。
魔力が溢れ出し、燐光が青白く輝いた。
「行けるか……」
実はアイギスをこうしてキラビムMrkⅡに搭載したのは、初めてだ。
精霊は魔力の塊のような存在である。
その純度も、人間が精錬できる限界値を遥かに越えている。
それをさらに魔導工学の力によって、何十倍にも引き上げるのである。
相応の強度が必要だ。
その最終調整は、この極北の地まで来て行われていた。
ヴァロウが、上級貴族――天使との戦いを想定していたからである。
その甲斐はあった。
いや、時間と言うよりも、この今の今までキラビムを研鑽し続けた――アルパヤの執念の勝利と称しても、過言ではないだろう。
ヴァロウが設定した納期からは大幅に遅れたが、ギリギリで間に合った。
「あとで褒めてやるか」
ヴァロウはニヤリと笑う。
すると、声が聞こえた。
耳の側で鈴を鳴らしたような可愛らしい声だった。
『どうしました、ご主人様』
「アイギス、お前喋れるようになったのだな?」
『アイギスの魔力は、この機体のあらゆる部分に満ちています。機体についているかくせーき? というのですか。そこを通して、喋れるようです』
「ほう。そうか」
『お、おかしいでしょうか?』
「いや、良い声だ」
『あ――――ありがとうございます!』
思いも寄らぬお褒めの言葉に、高純度化魔法鉱石の中にいるアイギスは、頬を赤らめた。
そしてヴァロウは操縦桿を握る。
潜望鏡を覗き込み、アルパヤをいたぶる天使に狙いを定めた。
「行くぞ、アイギス!!」
『はい! ご主人様!!』
瞬間、アイギスを搭載したキラビムMrkⅡが発進した。
大きく雪煙を上げて、テガンへと迫る。
いきなり動き出した機体に、テガンの対応が遅れた。
「動力源を精霊にするだと!! 小癪な!!」
テガンは細剣を振り上げる。
対して、キラビムMrkⅡが持っていたのは、折れた大剣である。
しかし――。
「アイギス!!」
『はい!!』
アイギスの魔力が大剣に宿る。
緑光を纏ったかと思えば、青い炎が噴き出す。
それは暴風のように荒れ狂い、一振りの大剣となった。
「おおおおおおおおお!!」
『でああああああああ!!』
ヴァロウの裂帛の気合いが、操縦席に響く。
そこにアイギスの声が重なった。
大きく振り下げた大剣は、見事天使の攻撃を払う。
テガンは面を食らった。
先ほどまでの出力とは雲泥の差だったからだ。
「この――――!!」
ムキになってやり返す。
その時、すでに天使の表情から余裕はなくなっていた。
最短最速で機体の胴を狙った敵の刺突を、ヴァロウとアイギスが操桿するキラビムMrkⅡはあっさりと弾く。
さらに踏み込み、がら空きになった脇に青白い魔力を纏った大剣を滑り込ませた。
「なめるな!!」
テガンの一つ目が大きく光り輝く。
左手を伸ばし、素手で止めようとした。
だが、その防御は今のキラビムMrkⅡの攻撃を防ぐには、あまりに脆すぎる。
キラビムMrkⅡの大剣に触れた瞬間、あっさりと破砕した。
甲高い金属音に似たそれは、もはや生物の皮膚が削られるものとは違う。
「ぎゃああああああああああああああ!!」
テガンの悲鳴が戦地を貫く。
その圧倒的な出力に、敵味方問わず、おののいていた。
笑っていたのは、雪の上に倒れたアルパヤだけだ。
「貴様!! 調子に乗る――――」
テガンが反撃しようとする。
しかし、キラビムMrkⅡの機動性能よりも、1歩も2歩も遅い。
1手――テガンが攻撃しようとすると、ヴァロウたちは2手詰めてくる。
次第に、美しく光り輝いていた天使の身体がボロボロになっていった。
それでもテガンは諦めない。
武官という役職にある者の矜持なのか。
戦場というフィールドにおける、強い覚悟のようなものを感じた。
テガンの外装は切り刻まれ、金属をうじゃうじゃと詰め込んだような身体が露出している。
垂れている液体は、もはや血なのか、機械油なのかさえ不明だった。
だが、テガンは戦い続ける。
「これで!!」
テガンは高々と細剣を掲げた。
雷精が唸りを上げて細剣に纏う。
火山の噴火のように噴き出した魔力は、空を裂き、曇天を貫いた。
ヴァロウのストームブリンガーを圧倒したあの魔法剣である。
対するヴァロウとアイギスも黙ってはいない。
大剣の柄を掲げ、ヴァロウは使役する風の精霊に命じた。
「アイギス!!」
『はい!!』
アイギスは叫ぶ。
すべての魔力を大剣に注いだ。
青白い光が竜のように吠えると、天へと上っていく。
その勢いは凄まじいの一言に尽きる。
曇天の空を一瞬にして払い、極北の地に青い空をもたらし、光を与えた。
燦々と降り注ぐ光に、ドワーフたちの技術の粋を尽くし、アルパヤの執念が結実したキラビムMrkⅡが照らされる。
白銀の装甲は輝き、神の尖兵に相応しい。
しかし、その操縦席に座るのは、神すら恐れた悪魔であった。
「しねぇええええええええええ!! 虫けらぁあぁぁぁぁああぁあぁぁあ!!」
テガンの絶叫が地平の彼方まで響く。
同時に巨大な緑光が振り下ろされた。
ヴァロウたちも反応する。
すべての力を大剣に注ぎ、ヴァロウは1つ弁舌を振るう。
「震えよ、神よ。これはお前らを殺すための一撃だ……」
天を衝き、地を掬い上げる魔法剣は振り下ろされた。
ゴッド・イータァァァァアァアアアァァアァア!!!!
ついに神を喰らうと宣言した一撃は、テガンに襲いかかる。
天使が吐き出した魔力をあっさりとはねのけると、文字通り光が天使を喰らう。
その中から聞こえてきたのは、今にも猛獣に食われそうになっている小動物の嘆きであった。
「ぎ、ぎゃああああああああああああああああ!!!!」
膨大な魔法出力が放たれ、雪煙はすぐに蒸発し、白煙へと変わる。
その中で、テガンの断末魔の叫びと思われる声だけが響いていた。
大地が割れるのではないかという一撃は、やがて終息の時を迎える。
白い靄がかかったような戦場の中で、不気味な赤光が明滅を繰り返していた。
一方、キラビムMrkⅡもまた活動を停止していた。
大剣を薙いだ状態で固まっている。
瞬間、勢いよく蒸気が上がると、光を失い、完全に停止した。
すべての力は放出したアイギスは、実体化する力もなくなり、大気の中に消える。
冷却機能を最大限にしても、【神喰らい】の魔法出力に機体が耐えきれなかったらしい。
一部が融解し、操縦桿が溶けてゲル状になったものが、ヴァロウの手に貼り付いていた。
仮に人間であったならば、ヴァロウはこの操縦席の中で焼け死んでいたかもしれない。
「よくやったな。アイギス」
一時的に消滅したアイギスを労う。
なんとか操縦席から出ると、ヴァロウに向かってメトラが飛び込んできた。
「ヴァロウ様! よくご無事で!!」
歓喜の悲鳴を上げる。
すでに赤い眼からさめざめと涙を流していた。
「お前もな」
メトラを強く抱きしめ、安心させる。
そして、彼女を伴い、ヴァロウは誘われるように赤い光の前に立つ。
そこにあったのは、テガンの頭の一部だった。
哀れな姿になっても、天使としての矜持は忘れない。
光を点滅させながらも、まるで笑っているように見えた。
「これで…………勝った…………と思う、なよ」
「お前たちこそ勝てると思うな」
上級貴族は全員、根絶やしにしてやる……!
その言葉に強い決意が表れていた。
テガンは何も言い返さない。
ただ「ふっ」と小さく嘲笑ったような気がした。
もはや鉄くず同然となったテガンに背中を向け、ヴァロウは歩み出す。
戦場の中心で、ボロボロになった手を掲げた。
「聖地防衛は果たされた! 我々の勝ちだ!!」
宣言する。
その声にザガスが反応し、ルミルラに介抱されたアルパヤが力無く手を挙げた。
「勝ち鬨だ!! 野郎どもおおおおおおおおおおお!!!!」
うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!
聖地防衛戦は、これにて終幕した。
人類軍の損害。
死傷者4500名(指揮官、テガンが連れてきた増援含む)。
残り7000名は虜囚。
傭兵団ベヒーモスの損害は、死傷者12名。
残りは虜囚(扱い)
アズバライト教義勇軍。
5400名中――死傷者76名。
ほぼ完全勝利と言っていい内容であった。
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