第162話 雪原の懺悔
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激しい鮮血――いや、火花が飛び散る。
キラビムMrkⅡの大剣は間違いなくテガンを捉えた。
左肩から右脇にかけて袈裟に振り下ろす。
完全にキルゾーンに入っていたテガンは為す術がない。
誰もがそう思っていた……。
ギィン!!
鋭い金属音が鳴り響く。
そのまま天使と魔導兵器がもつれ合う戦場を飛び出した。
空気を斬り裂き、最後に雪の上に突き立つ。
それは大剣の切っ先であった。
「えっ?」
アルパヤは潜望鏡を覗き込みながら、息を飲んだ。
キラビムMrkⅡが握る大剣はただの武器ではない。
装甲はキラビムMrkⅡと同じ作り方で、より先鋭化させた魔法鉱石の塊みたいな剣だ。
今や世界一の高度を誇ると言って過言ではないだろう。
それが折れたのである。
「そんな――――がっ!!」
直後、強い震動が操縦席のアルパヤに襲いかかった。
馬10頭以上に及ぶ巨体が軽々と宙を舞う。
それでもアルパヤはキラビムMrkⅡを制御しようとした。
姿勢制御を行い、なんとか雪原に立とうとする。
「まだまだ! 剣は折れたけど、ボクにはまだキラビムMrkⅡがある!!」
ドワーフの少女は裂帛の気合いを放つ。
迫り来るテガンの背後にあるノースドームを視界に入れた。
あそこには20万人の人がいる。
自分たちに期待してくれる人たちがいる。
キラビムMrkⅡで救わなければ、最初の20万人がいる。
助けなきゃ……。ボクとキラビムMrkⅡで……。
スロットルを思いっきり押し込む。
たとえ剣が折れたところでそれがどうしたというのだ。
約束がある。
ヴァロウとの約束が……。
もう2度と裏切るわけにはいかない。
アルパヤの願いに、キラビムMrkⅡは同調する。
唸りを上げ、激しく発光した。
「いけえええええええ!! キラビムMrkⅡ!!!!」
ピ――――――――――――――ッ!
謎の音が操縦席に鳴り響く。
開発者であるはずのアルパヤですら、その異音がなんなのかわからなかった。
だが音がなった途端、機体を覆う魔法の発光が消えていく。
操縦席の明かりすら消えて、光っていたのは潜望鏡のレンズだった。
「まさか――――」
暗がりの中、アルパヤは必死で目を凝らした。
ドワーフは暗い地中で暮らすため、夜目が利く。
故にはっきりと見て取れた。
「魔力量ゼロ……」
キラビムMrkⅡの燃料は、ずばり魔力である。
2つの高純度化魔法鉱石に魔力を注ぎ込み、魔法式によって起動させ、反発する2つの高純度化魔法鉱石が回転する現象を利用することによって、空気中の魔素を圧縮して動力としているのである。
最初搭載される魔力は、キラビムMrkⅡを動かすための魔力の約数千分の一。
それを心臓部である魔炉を動かすことによって、増幅させるのだ。
魔導工学とは、少ない魔力によって如何に効率的に、高い動力を得るかという部分に重きを置く。
だが、如何にキラビムMrkⅡとて、根っこの魔力がなければ、ただの金属の塊でしかない。
操縦席の中で、アルパヤは半狂乱に鳴りながら叫んだ。
「なんでだよ! キラビムMrkⅡ! これからだろう! ボクたちはこれからなんだ! こんなところで立ち止まってちゃダメなんだ。だから――」
動いておくれよ!!
アルパヤの声は虚しく極北の空に響く。
だが――――。
「ギャッッッッッッッ!!」
アルパヤの悲鳴が響く。
キラビムMrkⅡは再び宙を舞った。
【耐衝撃】の魔法などで補強されていた操縦席が、大きく揺れる。
安全ベルトが切れると、そのままアルパヤは機体と一緒に雪原に投げ出された。
「ぐはっ!!」
背中を強打する。
ドワーフは比較的な身体が頑丈で、地面は雪原。
それでもなお身体の内臓が飛び出るような痛みに、アルパヤはただ耐えるしかなかった。
口から吐血し、点々と雪原に散らばる。
時折痙攣しながら、息を繰り返した。
そこに迫ったのは、テガンである。
肩の辺りを切り裂かれ、手負いとなった天使は妖しい赤光を閃かせていた。
「こんな小さなドワーフが乗っていたとはな! よくもやってくれたな、小僧」
テガンはアルパヤに細剣の向ける。
細剣と言うにはあまりに大きいそれは、アルパヤからすれば砲弾の口を見ているかのようだ。
死神の鎌が迫っていた。
だが、アルパヤは口から血を垂らしながら、薄く笑う。
「し、失礼だな、天使様。ボクはこう見えても女の子だよ」
「それは失礼した。だが、どうでもいいことだ。イモリなのか、蜥蜴なのか、その程度の違いですよ。人類全員ね」
「でも、気持ちわかるんだよ」
「は?」
「よくボクは男の子に見間違えられてた。なんでだろうね。自分でもわからないんだ。まあ、それだけ魅力がないからだと思うけど……。料理だって下手だったし。炊事場にすら立たせてくれなかった。毎日お父さんと一緒に穴掘りを手伝ったけど、それもあまりうまくならなかった。たぶん、ボクはドワーフとしても、女としても欠陥品だったのだと思う」
「何を1人語っているのですか? 懺悔のつもりですか? 私は天使です。そういうのは、ほら……あそこにいる信者たちにでも聞いてもらえばいいじゃないですか?」
テガンはノースドームを指し示す。
今も20万人のアズバライト教の信者が立てこもる山だ。
アルパヤはやや濁った瞳をノースドームに向ける。
正直見るのも苦痛だった。
結局、自分の手では守れなかったからだ。
「懺悔なんて恰好のいいものじゃないさ。後悔なんて山ほどある。ボクの人生は毎日失敗の連続だからね。でもね。そんなボクでも認めて、褒めて、期待してくれている人がいるんだ。ボクはただボクよりちょっぴり諦めが悪い人たちの声に応えるだけなんだよ」
すると、アルパヤは腕を伸ばす。
曇天の空から雪が降り始めていた。
それは彼女には、真っ白な黒板のように映る。
「ねぇ、天使様……。教えてあげるよ。キラビムMrkⅡはね。未完成なんだ」
「なんですか、それは? 未完成だからなんだというのです。未完成だから、自分は負けたというのですか」
「有り体に言うと、そうさ。正直に言うと、開発時間が短すぎた。いや、時間の問題じゃないな。あれの改良には新しい発想は必要なんだ」
「何を――――」
「今のままじゃどうしても、機体が重くなりすぎる。積載できる魔力量も少なすぎる。全力稼働は保って15分というところだろうね。これじゃあ、200万人の人類を殲滅させるなんて夢の夢だ」
「ああ、うるさい。そろそろその口を閉じてくれませんかね」
再びテガンは細剣を突き付ける。
しかし、アルパヤは口角を上げて、怪しく笑うのみであった。
「わからない? 忠告してあげているんだよ。現状、キラビムMrkⅡに乗っている動力炉は理論上、最高の変換率を叩き出している。あとはね。出力と容量の問題なんだ。けれど、今のところ高純度化魔法鉱石よりも、高純度精製できる技術はない。少なくともボクたちにはね」
「だから、何を言っているのですか、先ほどから」
テガンは苛立つ。
アルパヤは血を吐きながら、笑った。
「仮定の話は好きじゃないかい? でも、心配しなくてもいいよ」
たった今、ボクのキラビムは完成したからさ……。
「なんだと!!」
テガンは振り返る。
その瞬間、無人のはずのキラビムMrkⅡが再び光り輝いた。
しかも、ゆっくりと機体が起き上がっていく。
「なに! まだ魔力が残っていたのか?」
「違うよ、天使様。残っていたんじゃない。充填したんだ」
「充填!?」
テガンは目を細めた。
一瞬、寒気が襲う。
「馬鹿な!!」
自分は天使である。
人間が作ったものに恐れをなすことなどあってはならない。
いや、そんなことはない。
「だが、あれは……。それに一体、誰が乗っている?」
「高純度化魔法鉱石よりも確かに純粋は魔力結晶体は今のところないよ。けどね。それよりも高純度な生物がいることを、ボクたちは知っているんだ」
「まさか!! 貴様ら……」
「ああ。やっと気付いたんだね、天使様。意外と頭が悪いね。あの人は一瞬にして理解できたのに。そんなことだから、人間や魔族に出し抜かれる」
あの人の手の平の上で踊らされるんだよ……。
アルパヤはニヤリと笑う。
最後に言葉を残した。
「あとは頼んだよ、ヴァロウ」
そして気を失った。
雪原に倒れたキラビムMrkⅡの操縦席に、ヴァロウの姿があった。
すでに火が入った操縦席は、青白く発光している。
彼の前にならんだ計器は、すべて最高の状態を示し、魔力が高まりすぎて、計器の横から溢れていた。
「すべて正常……」
ヴァロウはスロットルを握る。
潜望鏡にヘーゼルの瞳をセットした。
「行くぞ――――」
アイギス……。
『はい! ご主人様』
凛々しい声が操縦席内で響き渡る。
その瞬間、風の精霊を動力源としたキラビムMrkⅡ改め、アイギスは雪上を爆走するのであった。
本日コミカライズ更新日です。
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