第161話 出撃
今日の話を書きたかったから、『叛逆のヴァロウ』を書いたと言ってもいい!
「油圧……安定。冷却液の温度……よし。魔力流速度……安定。魔力抵抗値……10.2……規定値内。――――問題なし」
アルパヤは必死に目の前にある計器を睨んでいた。
指を差し、口は冷静に計器の数字を読む。
しかし、パニック寸前の頭の中をなんとか抑え込んでいるといったところだった。
徐々に駆動音が高くなっていく。
それとともに、周りで作業をしていたドワーフたちが離れていった。
最後に外のスタッフが、頭の部分に取り付けられた潜望鏡のレンズを叩く。
何かを喚いていた。
おそらく最終確認の報告だろう。
自分のやるべきこと、そして今からやるべきこと。
もう精一杯だったアルパヤはすべて聞き流す。
その報告が終わらぬうちに安全弁を解除した。
2万行に及ぶ魔法陣と魔法文字の読み込みが始まる。
一対の高純度化魔法鉱石が、共に相互干渉をしながら円運動を開始し、その心臓部である魔炉に魔力が充填されていく。
魔力は霊化水が通った管を通して、各駆動機関に伝達。
その刹那、機体は光で満たされ、唸り上げる。
操縦席に座っていても、ひっくり返りそうになるほどの震動がアルパヤを襲った。
一瞬心が乱れたが、すぐに自分の胸ポケットを触り、落ち着かせる。
その中には、ノースドームでもらった花が収まっていた。
「今、ボクがやらなければ、あの子たちは殺される。今、あの子たちを助けられるのは、ボクしかいないんだ。だから――――」
アルパヤは顔を上げた。
鉄のように熱く輝いた瞳を、ゴーグルの中に収める。
そこにいるのは、土いじりが好きなドワーフでも、発明家を自称する科学者の卵でもない。
一端の戦士であった。
「行くよ、キラビムMrkⅡ!!」
スロットルを押し込む。
全速力を命じられたキラビムMrkⅡは、周囲の機材と雪を蹴散らす。
爆発的な速度とともに、森を駆け抜けて――森そのものをなぎ倒していった。
吹き飛ばされ、雪を被ったドワーフたちは頭を抱えながら、なんとか起き上がる。
苦労してシュインツ城塞都市から持ち込んだ機材が、バラバラになっているのを確認した。
「あのバカ!! 最初から全力でいったら機材が吹っ飛ばされるから、離れてからスロットルをふかせといったのに……!」
「あの~、これどうします?」
「とりあえず回収しておけ。はあ……。またあの守銭奴の人族に怒られるよ」
ドワーフのスタッフたちはため息を漏らすのだった。
一方、アルパヤは操縦席の中で叫んでいた。
「ぎゃあああああああああああああ!!」
鬨の声でもなく、己を鼓舞するためでもない。
単純に悲鳴を上げていた。
とんでもない速度で景色が流れていく。
木があっても回避ができない。
いや、回避しようにも、旋回性能が神経質過ぎて、真っ直ぐ走ることすらできなかった。
だが、キラビムMrkⅡの耐圧性能は抜群だ。
魔法鉱石と青銅の合金は正解だった。
強度、硬さに定評がある魔法鉱石と、粘り気のある青銅によってお互いの弱さを補うとともに、金属そのものに【圧力耐性】の魔法がかかっているため、少々の衝撃でもビクともしない。
無敵だ。
「行ける!!」
そのうち道が開けた。
雪原に出る。
戦場から煙が上がっているのが見える。
あらかじめ読み込んでおいた【遠見】の魔法を起動し、戦場の状況を確認した。
予想通りだ。
ヴァロウたちは危機に陥っていたのだ。
「いけぇえええええええええ!! マークⅡぅぅうううううう!!!!」
雪煙がまるで噴煙のように空に上った。
キラビムMrkⅡはさらに加速を始める。
そのまま戦場に躍り出ると、翼の生えた天使に直行した。
相手がこちらを向く。
だが1歩遅い。
そのままアルパヤはスロットルを緩めず、天使に体当たりした。
世界一と称して良い砲弾は、天使に直撃する。
「ぐお!! なんだ!!」
悲鳴を上げると、そのまま雪原を滑り、近くの湖の中に突っ込んだ。
そしてようやくキラビムMrkⅡは止まる。
加速によって生じた摩擦熱が装甲を温めると、白い湯気が立ち上った。
バランスを取るため微かに微動する様は、まるで息をしているかのようだ。
「あれは――」
「まさか……」
「なんだ? あの金属の塊は……」
「おいおい。あれがヴァロウの策かよ」
皆が驚いている。
その中でヴァロウだけが、冷たいヘーゼルの瞳を光らせていた。
「あれが200万の人類を殺す兵器――キラビムMrkⅡだ」
それは白銀の鎧を着た騎士のようであった。
細かい作業に適し、独自に稼働できる3本の指。
機体重量を上げる一番の原因となっていた騎馬型の形を排除し、足を2本にし安定性を向上させるために短足でどっしりとしたデザインに変更した。
まるで団栗のような胴体には、ヴァロウの指示によって居住性能を一切排した操縦席と、極限にまで無駄を省き小型化された心臓部が積載されている。
こうしたアルパヤの涙ぐましい努力によって、機体性能は初代キラビムの10倍以上を生み出すことに成功していた。
「(しかし……)」
ルミルラは遠目から新しいキラビムを見つめる。
「(助けてくれた手前、あまり大きくはいえませんが……)」
メトラは苦笑する。
「だせぇ……」
ザガスは本音を漏らした。
アルパヤは操縦席の中で、制御板を叩く。
「な、何を言ってるんだよ! 兵器の価値はね。性能なの! ザガスにはこの機能美がわからないの!!」
ムキになって反論する。
どうやらアルパヤにも思うところはあるらしい。
すると、水柱が立ち上る。
あの天使がふわりと水中から浮き上がってきた。
「あの天使……。空を飛べるのって……。そう言えば、ダレマイルって人も飛んでたっけ」
「ヤツの名前はテガン。上級貴族の1人だ」
「やっぱりそうなんだ」
アルパヤはスロットルを睨む。
潜望鏡を覗き込みながら、今一度気を引き締めた。
「なんだ、その醜悪な金属の塊は!!」
「な! 君までそんなことを言うの!! 君だって弱っちい身体をしてる癖に!!」
アルパヤの頭は一瞬にして沸騰する。
再びスロットルを押し込んだ。
腰の大剣を3本の指で握り、テガンに迫る。
その動きを見て、テガンも動いた。
細剣を構えると、魔力を集束させる。
「おい! アルパヤ! 逃げろ!!」
「へっ!!」
瞬間、テガンの魔法剣が炸裂する。
収束された魔砲撃がキラビムMrkⅡに襲いかかった。
激しい魔力の流れに為す統べなく飲み込まれていく。
キラビムMrkⅡの性能なら回避できたであろうが、生憎と操縦者は戦闘のプロではない。
反応ができなかったのだ。
「ふはははははは! 金属の塊め!! 我が魔法剣の前に消えよ!!」
テガンの哄笑が響く。
しかし――――。
「消えないよ」
「何!?」
突如、アルパヤの声が戦場に響く。
一瞬絶望の淵に立たされた魔族軍の顔が華やぎ、あるいはその性能に驚愕する。
その姿が現れた時、それはもうテガンの目の前だった。
魔法剣を放つ細剣の尖端を掴む。
その魔法圧力は極限に達していた。
それでもキラビムMrkⅡは無傷のまま稼働し続けていた。
「それぐらいの魔法圧力がどうしたって言うんだ!! この装甲はただの魔法合金された金属の板じゃない。1万2千枚――薄く折り固められた板を何層に重ねて作られているんだ」
「1万2せ――――」
「それだけじゃない! ドワーフたちの技術と努力、そして願いと約束が込められているんだ。たとえ、天使だって壊せやしない!! ボクたちには、ヴァロウっていう軍神が付いているんだ!!」
キラビムMrkⅡはゆっくりと振りかぶる。
そのままキラビム用に鍛えられた大剣を振り下ろした。
「バイバイ! 天使様!!」
「ぎゃ! ぎゃああああああああああああああ!!!!」
キラビムMrkⅡの大剣は、テガンを切り裂くのだった。
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