第158話 銀と青
書籍版2巻、好評発売中です!
WEB版と合わせて、是非お買い上げ下さい。
コミカライズも絶賛配信されております!
テガン・フラードはヴァロウたちが東の渓谷で出会った人類軍の遊撃部隊の隊長だった男である。
しかし、彼は人類軍の遊撃部隊とともに、ヴァロウの策略に嵌まり、部隊とともに瓦礫に埋まってしまった――。
少なくともそう思われていた。
「お前、生きていたのか?」
ヴォーギンは眉間に皺を寄せて、威嚇する。
一方でその正体不明の雰囲気に飲まれていた。
ぐっと押し込んだ牙が、かすかに震えている。
ヴァロウと同じく表情の読めないテガンだが、それとは違った何か不気味さが漂っていた。
そのテガンが動く。
腕を広げ、手を開いた。
「勝手に殺さないでくれますか? ほら、見てくださいよ。足がちゃんと付いてるでしょ?」
雪上を踏み抜いた足を上げて、戯けて見せる。
その態度を一言で表すなら、余裕だ。
周りには最強の獣人傭兵団『ベヒーモス』がいるというのに、微塵も恐れていない。
テガンにとって大ピンチの状況にも関わらず、明らかに楽しんでいた。
そもそも誰もテガンに襲いかかろうとしないのもおかしい。
様子を観察しているヴァロウはともかく、ヴォーギンですら1歩も動いていない。
立っている地面が深い積雪の上ではなく、何か底なし沼にはまったかのように足が重たい。
それほどテガンには、雰囲気があった。
認めたくないが、強者のそれだ。
「ぶおおおおおおおおおおおお!!」
均衡を破る者がいた。
ブロルだ。
大きな雄叫びを上げると、雪を蹴り飛ばし突進する。
人類軍の将を示す甲冑を着た男に襲いかかった。
爪を振りかぶり、横に薙ぐ。
空間すら消し飛ばしてしまいそうな強攻撃に、皆が戦慄する。
しかし、すでにそこにテガンはいなかった。
ブロルは完全に見失う。
前後、そして左右を見渡すが、テガンの姿は見当たらない。
「ブロル! 上だ!!」
ヴォーギンが微かな匂いを頼りに、テガンを捉えた。
その元を辿り、巨躯のブロルよりも遥かに上に飛んだテガンを見つける。
手には細剣が握られ、表情は悪魔のように歪んでいた。
ブロルは反射的に身体を捻る。
それは獣人だけにあるという野性的な本能に近い。
瞬間、テガンが落ちてきた。
その衝撃とともに、細剣がブロルの厚い肉壁を貫く。
細剣が深々とブロルの肩に刺さり、鮮血が飛び散った。
だが、かろうじて急所を外す。
ブロルの反応が少しでも遅ければ、頸動脈付近を抜かれていたことだろう。
「ちっ! 死んでいればいいんですよ、デカブツ」
テガンは軽く舌打ちする。
ブロルの肩から細剣をあっさりと引き抜いた。
狙いを改めて、急所に向ける。
「させるかよ!!」
ヴォーギンが襲いかかる。
鋭い爪を伸ばし、テガンを襲撃した。
一瞬にして間合いを潰し、謎の人類軍隊長の前に躍り出る。
だが、その視線と細剣の先は、まるでその動きを読んだかのように、ヴォーギンへと向けられていた。
「待ってましたよ」
テガンの細剣が伸びる。
ヴォーギンは顔をしかめながら、身体を無理やり捻った。
しなやかな身体が限界以上に曲がると、かろうじてテガンの攻撃を躱す。
それでも肩口を切られ、鮮血が飛び散った。
ヴォーギンの奇襲は失敗に終わった。
あえなく落下を始める。
「さて……」
テガンは膝を突いたブロルに向き直る。
ブロルは手の平を広げると、鞭のようにしならせた。
肩に付いたテガンを蠅のように叩こうとする。
「ぐぼぼぼぼぼぼぼぼぼ!!」
ブロルの絶叫は再び響き渡った。
その手の平にはテガンの細剣が、またもや刺さっている。
大熊族の巨躯からすれば、注射針を刺すようなものだったが、苦痛であることは間違いない。
ブロルは反射的に手を引き、悶絶する。
雪原が朱に染まった。
「ちょこざいですよ。さあ、まずはデカブツ……。お前からだ」
「いや、てめぇだよ!!」
声が聞こえた。
それはテガンの上からだった。
鈍重な雪雲に隠れるように白い毛の狼が口を開けている。
手から爪が大きく伸びていた。
「まさか!! あの時か――――」
テガンが言う『あの時』というのは、ほんのついさっきである。
ブロルが肩に立つテガンを叩いた時だ。
あれはテガンを叩こうとしたわけじゃない。
落下していたヴォーギンをさらに上に飛ばすための動きだったのだ。
もちろん、ブロルの攻撃もヴォーギンから目を逸らすための陽動だった。
「こんなデカブツに、こんな知能があるなんて!!」
「俺とブロルはな。いつも戦場のど真ん中で背中預け合って戦ってきたんだ。これぐらい連携は朝飯前だっての!!」
詰みだ!
とばかりに、ヴォーギンは再びテガンに襲いかかった。
テガンの動きも力も人知を越えている。
しかし、ヴォーギンとて獣人だ。
その敏捷性は魔狼族ですら舌を巻く。
「獲った!!」
「いや、それはまだ早い!」
テガンは笑ったままだった。
ヴォーギンの2度目の奇襲になんなく反応する。
さっきよりも速い。
いや、気付けばヴォーギンは背後――つまり、上を取られていた。
「なにぃ!?」
もう驚愕で目を見開くことしかできなかった。
ヴォーギンができたことといえば、匂いでその位置を掴む事だけだ。
「そっくりそのままお返ししますよ、ヴォーギンさん。詰みです――――!!」
テガンは細剣を振るう。
もはやヴォーギンには為す術がない。
背中を切り刻まれた。
鮮血が雪国の鈍重な空に飛び散り、雪原を汚す。
火鋏を押しつけられたような痛みに耐えるだけで精一杯で、ヴォーギンはあえなく雪の地面に落下する。
「ぶおおおおおおおおおおおお!!」
激しく吠えたのは、ブロルだった。
雪原を蹴って、テガンに迫る。
その圧力は凄まじく、巨大な壁が襲ってくるようであった。
「ふん! 所詮は獣ですね」
テガンもまた雪を蹴る。
真っ直ぐブロルに向かっていくと、交錯した。
光が閃く。
次の瞬間、鮮血が飛び散った。
ブロルの方だ。
無数の裂傷が刻まれ、黒い体毛がさらに黒く滲んでいく。
瞳から生気が失われると、まるで巨木が倒れるようにその場に伏した。
「くくく……。所詮は獣。ただデカいだけでしたね」
テガンはブロルの横っ腹を蹴り上げる。
それでも、ブロルが再び起き上がることはなかった。
「ヴォーギン!! ブロル!!」
フォービルの悲鳴が響く。
雪狐族の目は大きく開き、珍しく大口を開けて吠えた。
「お前!!」
「そういえば、雪狐族の副長さんなんていましたっけ? 心配しないでください」
ここにいる獣人全員殺してさしあげますから……。
澱んだ殺意が周囲に振りまかれる。
団長がやられ怒り心頭だった獣人の気持ちが一気に冷えていった。
獣人だけではない。
一連の行動を見ていた人類軍も、テガンの濃厚な殺意に足を止める。
すると、テガンは細剣を空に向かって掲げた。
強大な魔力が自ら捻りだすと、剣に纏わり付かせる。
鋭い音を発しながら、次第に雷属性が付与された。
それはさらに広がり、空に浮かぶ雲すら裂き、1本の長大な剣となる。
嵐すら呼ぶ魔法剣技に、ヴォーギンがやられ怒髪天に衝くフォービルですら、恐怖に震え、その尻尾の先を下へと向けた。
「さあ、みなさんで全員吹き飛ばして差し上げましょう」
テガンは大きく細剣を振りかぶる。
その時であった。
雷精の魔法剣の前に現れたのは、それもまた魔法剣だった。
テガンの魔法剣が銀色に発光するならば、それは青白い光を湛えている。
「ヴァロウ……」
雪原に蹲りながら、ヴォーギンが顔を上げる。
目の前を歩いていく男を見て呟いた。
雪を踏みしめ、ゆっくりとした足取りでテガンに近づいていく。
その持った手の先には、青白い刀が握られている。
やがて鈍重な空に向かって掲げた。
「ふん……!」
1つ息をすると、刀に一気に魔力が注がれる。
青白い炎のようなものが空へと昇り、テガンの魔法剣と同じく雲を穿った。
2つの嵐と嵐がぶつかり合い、雪が舞う。
突如として猛吹雪が生まれ、戦場を白く濁らせた。
その最中――テガンは笑う。
いや、元から笑っていた。
「もっと観察してから、私の前に出てくると思ってましたよ、ヴァロウ」
「観察? そんなものは必要ない」
ここでお前を叩きつぶす。
そしてヴァロウはヘーゼルの瞳を光らせ、その言葉に裂帛の気合いをねじ込んだ。
ストームブリンガー!!!!!!!
サーガフォレスト5周年フェアの対象商品に、
『叛逆のヴァロウ』が選ばれました!
BookWalker様など、各電子書店にて電子書籍をお買い上げいただくと、
特典SS「水着回」を読むことができます。
真面目なダーク戦記ファンタジーの一服の清涼剤として、是非ゲットして下さい。
フェアは7月15日から開催ですよ!(「から」ですよ)
是非よろしくお願いします。




