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【WEB版】叛逆のヴァロウ ~上級貴族に謀殺された軍師は魔王の副官に転生し、復讐を誓う~  作者: 延野正行
15章 天界の騎士

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第156話 違和感

『叛逆のヴァロウ』2巻をお買い上げいただいた方ありがとうございます。

まだ手にしていないという方、是非この週末に書店へお出かけして、

是非手に入れて下さい。

もちろん、電子通販サイトの利用もいいですよ。是非よろしくお願いしますm(_ _)m

 交渉は成立した。

 ヴァロウは獣人たちを助ける代わりに、この場を見逃してもらう。

 事実上、それは人類側を裏切ることに他ならない。


 だがヴォーギンにも『ベヒーモス』にも、罪悪感はなかった。

 最初に裏切ったのは、人類側の方だからだ。

 なら後腐れなく、存分に裏切ることができる。


 それでも、すんなりと踏ん切りつけれる者は少数だ。

 そもそも獣人は今まで人類側に付き、魔族と戦ってきた。

 魔族によって、多くの友を失ってきたことも事実である。

 複雑な想いに浸る者も少なくなかった。


 フォービルもその1人である。


「本当に良かったのかい、ヴォーギン」


「そればっかり割り切るしかねぇ。今、俺たちに選択肢はねぇよ」


「でも、魔族と手を組まなくてもさ」


「魔族と手を組むのは、あのヴァロウってヤツの頭がいいからだけじゃねぇ」


「どういうこと?」


 フォービルは目を瞬かせる。


「理由は簡単だ。東の渓谷がこんな状態になった今、まともなルートは南の旧同盟領――つまり、魔族の領土を通らなければならないからだ」


「あっ――――」


 フォービルは思わず呻いた。

 そうだ。すっかり忘れていたが、人類軍の退路が断たれた今、人類圏にある故郷に戻るためには、どうしても南の魔族領を通らなければいけなくなる。


 獣人がピンチだから通してくれと頼んでも、「はい、そうですか」と言って通してくれるほど、魔族たちはお人好しではない。

 ヴォーギン1人なら強行突破もできるかもしれないが、獣人の1人や2人戻ったところで、大した戦力にはならないだろう。


「それなら、あいつと組んだ方がお得だろ」


「ま、まあ……。そうね」


「よし。お前たちもいいな」



「「「「「うす!!」」」」」



 歯切れの良い返事が響く。

 皆、覚悟を決めたようだ。


 正直に言って、この後鬼が出るか蛇が出るかは、ヴォーギンにもわからない。

 だが、手をこまねいて見ているよりは、悪魔と契約してでも故郷に戻った方が、後悔がないとヴォーギンは感じていた。


 それに不思議と心配はなかった。

 おそらくこのヴァロウという男は、アルデラが認めた魔王の副官の1人だ。

 さほどのリスクはないと、ヴォーギンの勘は囁いていた。


「こっちの話はまとまったぞ、ヴァロウさんよ」


「ならばこちらからもう1つ、俺たちがお前たちに助力するための条件を加えさせてもらう」


「なんだ、ストリップでもしろってのかよ?」


 深い毛に覆われているが、ほぼ半身を晒したヴォーギンはケラケラと笑う。

 しかし、ヴァロウの表情は至って真剣だった。

 ヘーゼル色の瞳を光らせる。


「今、アズバライト教の聖地の前にいる人類軍聖地占領作戦部隊を壊せ……」


「なっ!!」


 ヴォーギンは絶句する。

 人類を裏切ると決めた。

 その覚悟はすでにある。

 だが、いざ目の前の人類軍と敵対するとなると、さすがのヴォーギンもすぐには踏ん切りはつかなかった。


 それに短期間ではあったが、聖地占領部隊には見知った人間がいる。

 中には反吐が出るほどの糞野郎もいるが、基本的にどの人間もプロフェッショナルで、割とヴォーギンは気に入っていた。


 その部隊に『ベヒーモス』をぶつける。

 相手の兵数はたかだか8000。

 対してこちらは、残してきた兵も合わせて5000。

 兵数は人類側が有利だが、兵の質から考えれば勝利は必至であろう。


「禊ぎってヤツか」


「そのようなものだ。お前たちが、我らの側についたということを、魔族側に示してもらわなければならない」


「まっ……。確かにな、当然だわな」


「で? どうする?」


「ああ。やるよ。……お前らもいいな?」


 ヴォーギンは仲間たちに振り返る。

 否定する者も、反論する者もいなかった。

 皆、黙って頷く。


 先に裏切ったのは、人類……。

 皆の腹は決まっていた。

 獣人達の目が据わる


「――というわけだ」


「そうか。ああ……。あと、壊せとは言ったが、部隊を機能不全に陥らせれば十分だからな」


「はっ?」


「大将首を取れれば、それでいい。他は捕虜とする。使い道もあるしな」


「おま――――まさか、俺を試したのか?」


 ヴォーギンは慌てた。

 てっきり部隊を全滅させろ、という条件だと思っていたが、どうやら違うらしい。


「俺は壊せと言った。全滅させろとは言っていない。もう1度言うが、部隊を機能不全にすればいい」


「ややこしいこと言うなよ」


 ヴォーギンは腰砕けになり、その場で尻餅を付く。

 やれやれと首を振った。


「なんだ? 人類軍に気に入った女でもいたのか」


「え゛? いや~、そんなことはねぇよ」


 ヴォーギンは頭を掻く。

 否定はしたものの、その内耳は少し赤みを帯びていた。

 その煮え切らない態度に、怒り心頭な獣人がいる。


「ヴォ――ギ――ン!!」


 カッと開いた狐目に炎を燃やし、フォービルが全身の毛と尻尾を逆立たせ、怒りを露わにしていた。


「な、何を怒ってるんだよ、フォービ――――」


 問答無用でフォービルは爪を立て、薙ぎ払った。

 顔を引っ掻かれたヴォーギンはのたうち回る。

 「目がぁ! 目がぁアア!!」と呻いていた。

 団長を引っ掻いても、フォービルは素知らぬ顔だ。

 先ほど戦ったメトラやリーゼロッテに、挨拶をすると、社交的な笑顔を浮かべていた。


「まーた厄介なヤツを抱き込みやがって。うちの大将はよ」


 獣人たちのやりとりを見ながら、ザガスがケラケラと笑う。

 その顔をキッザニアが覗き込んだ。


「それをお前が言うのか?」


「あん? なんか言ったか、根暗野郎」


「な! 根暗野郎とはなんだ! わ、私は決して根暗なのではないぞ、この戦さ馬鹿め!!」


「なにぃ! もう1回言ってみやがれ、根暗野郎!」


「おうよ。何度も言ってやるわ。お前の頭には戦争することしかないんだろうが」


「て、てめぇ!! それの何が悪いんだよ!」


 ザガスとキッザニアが取っ組み合いの喧嘩を始める。

 それに新参者であるはずの獣人たちが観戦し始めると、やんややんやと盛り立てていた。故郷が大ピンチなのに、割と呑気なヤツらである。


 とはいえ、時間がないことは確かだ。


「よし! 戻るぞ!!」


 ヴァロウは声をかけて、全軍を引き締めるのだった。



 ◆◇◆◇◆



 東の渓谷を脱出し、ヴァロウは『ベヒーモス』とともに聖地ノースドームへ向かっていた。


 ヴァロウはブロルの背中に乗っている。

 さすが獣人である。

 走りにくい雪道も、ものともしない。


 足の遅い黒罪騎士は一旦置いてきた。

 後に合流する手はずになっている。


 そうこうしているうちに、戦場が見えてくる。

 いまだ魔法による遠距離戦が展開されていて、どちらの陣営にも大した被害が出ていない。


 ブロルの横で四つん這いになって走っているヴォーギンが、質問する。


「ヴァロウさんよ。このまま突っ込むのか? 大将首をあげろって言われても、このまま突っ込むと、多少兵に損害を出しちまう。この際、やむをえねぇ犠牲だとは思うが……」


「心配するな。兵士の足止めはこちらでしてやる」


「おいおい。……まさかそれも見越していたっていうのかよ。一体、どこまで戦場を読んでいるんだ?」


「真っ直ぐ進め。それ以上は望まん」


 ヴォーギンは軽く額を抑えると、『ベヒーモス』に指示を出す。


「おめぇら、紡錘隊形! このまま真っ直ぐ本陣にまで突き進む。目標は『雪達磨』だ」


「雪達磨?」


 ヴァロウは眉宇を動かす。

 雪山の上から戦場を眺めていたため、いまだ敵指揮官のことを知らないのだ。


「見ればわかるよ」


 にひひひ、とヴォーギンは笑った。

 すると、先頭から距離の報告が飛ぶ。

 接敵は時間の問題だった。


「フォービル。悪いが、留守番してるガジャンの方へ事情を説明してやってくれ。いきなり雇い主に俺たちが襲いかかっているのを見たら、びっくりしてそのままおっちんでしまうかもしれないからな」


 ガジャンは短命な獣人族の中にあって、すでに72を越える。

 本人はピンピンしているが、いつ死んでもおかしくないのだ。


「わかったよ。……でも、あのじいさんがそんな殊勝なヤツとは思えないけどね。むしろ『よくやった!』と褒め讃えそうなものだけど」


「その時はその時だ。行け!」


「あいよ!」


 フォービルは隊列から離れる。

 人類軍聖地占領部隊の後方に控える『ベヒーモス』の陣営に向かって駆けた。


「よっしゃ! 残りの野郎共は全員突撃だ!!」


「「「「おおおおおおおおおおお!!!!」」」」


 鬨の声が上がる。

 雪煙を上げて、『ベヒーモス』が敵側面に襲いかかろうとしていた。



 ◆◇◆◇◆



 おかしい――。


 アジェリアはこの戦場のおかしさに気付き始めていた。

 朝から始まった戦さは、昼になってもその様相を変えない。

 魔法による遠距離攻撃を継続していた。


 確かに硬い作戦だ。

 遠距離魔法で確実に敵の戦力を削いでいく。

 しかし、決定的なダメージは与えられていない。

 というよりは、決定的な打撃を与えるような作戦行動をしていなかった。


 そもそも不気味なのは、昨日あれだけ怒り狂っていたガラケンが微動だにしないことだ。


 作戦を具申しても聞き入れず――というよりは上の空で――この凡戦をじっと眺めている。

 昨日の戦さにおいて、功を焦るあまり九死に一生を経験することになった。

 そのため戦さが怖くなったという気持ちはわかる。

 ならば、そのまま前線に立たずとも、アジェリアに任せておけばいいのだが、決して指揮官は部下に指揮権を譲渡しようとはしなかった。


 そもそもガラケンがこんな地味で退屈な戦さを望むはずがない。

 昨日の経験があったとしても、昼頃になれば耐えきれず「全軍突撃」を命じるような男であったはずだ。


「何かおかしい……」


 いや、何かおかしいといえば、敵方もおかしい。

 こちらの戦術に付き合って、対遠距離魔法防衛戦術を敷くのは定石中の定石だ。

 しかも間隙をついては、こちらの陣に一点集中砲火を加えて、崩しにかかるのも小憎たらしい。

 よほど向こうの指揮官は優秀で、兵の練度も高いのだろう。


 ヴォーギンの読みではヴァルファル城塞都市の駐屯兵だというが、それなら納得できる点もある。


 あそこには『竜巫女』と呼ばれたルミルラ・アノゥ・シュットガレンがいた。


 いくつもの優秀な竜を育て上げた竜士。

 そして竜騎士として名を馳せ、その戦果は父であり、『竜王』バルケーノ・アノゥ・シュットガレンにも勝るとも劣らない。

 戦史に名を残すエースであることは、間違いないだろう。


 同盟領が魔族に落ちてから、その生死は不明だが、彼女が育てた兵というなら、納得がいくというものである。


 アジェリアはその敵軍にすら、何か違和感を感じていた。


 だが、どうしてもその理由を言語化できない。

 もどかしい思いでいると、東側で雪煙が舞い上がるのを見た。

 最初、風が雪を舞い上げたのかと思ったが違う。

 雪煙はどんどんとこちらに向かってきていた。


「まさか――」


 アジェリアは遠見鏡を持ち出す。

 そこに映った獣人の姿を見て、愕然とした。

 何故か『ベヒーモス』が全速力でこちらに向かってきていたのだ。


「ヴォーギン殿?」


 理由すら見当も付かず、アジェリアはただ立ちつくした。



 ◆◇◆◇◆



 東側から迫る雪煙を見て、ルミルラはすべて理解する。

 おそらく、あれは『ベヒーモス』の部隊だろう。

 そしてルミルラは、ヴァロウが彼らの説得に成功したことを確信した。


 これまで防御魔法を展開するよう指示を出してきたルミルラが、作戦変更を告げる。


「属性魔法を『炎』に変更。魔法形状、砲弾型に指定――」


 朝から頑張ってきた魔導士部隊の手もとが光る。

 紅蓮の炎が逆巻き、1発の砲弾に成形されていく。

 ルミルラは手を上げて、角度と方向を指示した。


 敵の魔法弾が塹壕近くに着弾する中、ルミルラの指示が飛ぶ。


「魔法名『火蜥蜴(サラマンダー)』。高仰角射撃、はじめ!!」


 炎の魔法が一斉に放たれる。

 それは1度雪国の空に放たれると、綺麗な放物線を描く。

 ゆっくりとだが、確実に敵陣営に落下を始めた。




 迫る炎に、アジェリアは気付く。

 東の雪煙と獣人の突進に唖然としていたため、対応が遅れてしまった。


「(防御魔法の構築が間に合わない)」


 だが、幸運にも敵の魔法の弾速が遅い。

 これなら足の鈍い魔導士でも回避できるはずである。


「全員散開!! 回避行動を!!」


 アジェリアは指令を出す。

 彼女が鍛えた兵たちは密集隊形を解くと、着弾地点とおぼしき場所から退避する。

 直後、『火蜥蜴(サラマンダー)』が曇り始めた空から落ちてきた。

 轟音を上げて、辺りの雪を吹き飛ばす。

 激しい雪煙が巻き起こり、熱は周囲の雪を水に変えていった。


「無事か?」


 アジェリアは顔を上げ、まだ雪煙がけぶる周囲を見渡す。


 ようやく煙が晴れた時、アジェリアは自分が目にしたものを信じることができなかった。


 火属性魔法の着弾地点がぽっかりと空いていた。

 凄まじい威力の魔法がピンポイントで着弾したのだ。

 当然の結果だろう。


 だが、アジェリアが驚いたのは、威力などではなかった。


「嘘でしょ。氷――――」


 深く積もった雪の下にあったのは、地面などではない。

 厚く凍った氷の上だったのだ。


 氷には亀裂が入っていった。

 炎属性魔法による衝撃と熱。

 それによって、分厚い氷が軋みを上げて割れようとしている。


「まさか――――」


 アジェリアは頭が良かった。

 幼年の頃から、そう言われてきた。

 おかげで軍の学校も首席で卒業できたほどに。


 しかし、察しがよく、頭のいい自分を呪った。


 気付いてしまったのだ。

 敵方に対して抱いていた違和感が――。


「今まで、1発の炎属性魔法を撃っていない」


 向こうは時々反撃していたが、そのどれもが氷属性か雷属性のものだった。

 炎属性魔法は1発たりとも撃っていなかったのである。


「炎属性魔法を撃たなかったのは、この氷が熱で溶けないようにするため」


 そして今使ったのは、今この時が最良のタイミングだから。


 アジェリアはハッと顔を上げる。


「全軍退避!!」


 遅い。

 絶望的に遅かった。


 氷に軋みが走る。

 8000人近くの兵を支えていた分厚い氷が、一気に割れようとしていた。


まるで戦記物のようだ……(戦記物です)


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まだ読んでないと言う方は、是非チェックして下さい(お気に入りもよろしくです)

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