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【WEB版】叛逆のヴァロウ ~上級貴族に謀殺された軍師は魔王の副官に転生し、復讐を誓う~  作者: 延野正行
15章 天界の騎士

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第153話 化け物たち……

新作読みに来て下さり、ありがとうございます。

引き続き頑張ります!

「ブロル、踏みつぶせ!!」


 ヴォーギンの声とともに、ノースドーム東の渓谷で勃発した戦さは始まった。

 その号令とともに、ブロルが大きく吠える。

 吠声は渓谷の岩肌をビリビリと震わせた。


 そしてヴォーギンの要求通り、ブロルはヴァロウ率いる黒罪騎士団に迫る。


 対するは、ザガスとキッザニアだ。

 急造の人鬼族のコンビが立ちはだかった。


 戦車のように突撃してくるブロルを前にして、2人は手を掲げる。


「来い! 熊野郎!!」

「受け止める!!」


 気合い十分とばかりに声を荒らげた。

 果たしてブロルの肉の塊が彼らに襲いかかる。

 突っ込んできたブロルの頭と肩を押さえ、その突進を止めた。


「おらららららららららあああああああああああ!!」

「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 2人の吠声が響き渡る。


「止まった!!」


 驚いたのは、メトラだ。

 改めて人鬼族の凄まじい膂力におののく。

 だが、ギリギリだ。

 大熊族も負けてはいない。

 ブロルは「ふっ」と蒸気のように息を吐く。


 一旦収まったかと思えば違う。

 その巨体はさらに肥大していった。


「こいつ!!」

「まだ力を……」


 ザガスも、キッザニアも気付いていた。

 今ブロルの体内で起こっていることを。

 封印していた力が、解放されていく。

 肥大していく肌を触りながら、ザガスとキッザニアは敏感に感じ取っていた。



「ぶおおおおおおおおおおおおおお!!」



 もはや人のそれではない。

 獣人から外れているだろう。

 それは1匹の獣――いや、魔獣と呼ばれる種に近い。


 ブロルの力が上がった。


「なろっ!!」

「ぐっ!!」


 力に対して、ザガスとキッザニアは力で対抗する。

 だが、徐々に押し込まれていく。

 その足元に深い筋を刻みながら、少しずつ2人は後ろに下がっていった。


 その様子を見て、ヴォーギンは微笑む。


「大した力持ちだがな。うちのブロルをなめちゃいけねぇ」



 そいつはかの有名な人鬼族ゴドラムをぶっ飛ばしたヤツだぜ!



 ヴォーギンの言葉が耳に入った瞬間、ザガスの顔色が変わる。

 元第六師団師団長であり、己を更迭した人鬼族の名前だった。

 ザガスの身体に怒りが溢れる。

 しかし――――。


「があああああああああ!!」


 ブロルは吠えた。

 さらにゲインが上がる。

 その瞬間的な力の増幅に、ついにザガスたちは耐えられなかった。

 2人の人鬼族は同時に吹き飛ばされる。

 悲鳴を上げながら、地面に叩きつけられた。


「ごふっ!」


 ブロルは鼻息を荒く吐き出す

 四つん這いの姿勢から起き上がると、倒れた2人を見下げた。

 満足そうに笑い、その黄ばんだ牙を見せる。


 一方、2人とも意識はあった。

 仲良く頭を抑えながら、起き上がる。

 得意げに笑う大熊族を見て、目を細めた。


「くそ! 笑ってやがる! おい! てめぇ、なに力を緩めてるんだよ」


「そっちこそ! 一瞬、動揺しただろ!!」


「う、うるせぇ、ヤツだ」


 ザガスは立ち上がると、次いでキッザニアも起き上がる。

 2人ともファイティングポーズを取り、自分たちを見下ろす大熊族を睨んだ。


「ザガス……」


 ザガスの背中に冷たい声が聞こえる。

 ヴァロウである。


「そっちは任せて構わないな」


「当たり前だ。オレ様の獲物を横取りしようとしたら、まずてめぇから首の骨をへし折ってやる」


「心配するな。こっちもその暇はない」


「あん?」


 ザガスが軽く後ろを振り返る。

 いつの間にか2名の獣人が、ヴァロウの前に立ちはだかっていた。

 ヴォーギンと、雪狐族(せっこぞく)のフォービルである。


 さっきザガスたちが倒れた一瞬を見計らい、脇を抜けて、ヴァロウの前に出てきたのだ。


「王手だろ、軍師」


 ヴォーギンは笑う。


 その前にメトラが立ちはだかるが、彼女の前にフォービルが現れた。


「あなたの相手はあたしよ」


 冬毛の雪狐族の肢体は白く、夏と比較すればモコモコとしているが、フォービルのそれは細かった。

 身体から放たれる殺気と相まって、1本の象牙のようにも見える。


 そのフォービルは細剣を抜いた。


「くっ!」


 メトラは弓をつがえるが、最早弓の距離ではない。

 さらに言えば、フォービルの動きは速かった。

 風のようにメトラに迫る。

 メトラは反射的に弓を引いたが、あっさりと(かわ)された。

 簡単に懐に入られる。


「終わりよ!」


 フォービルの剣閃が空に線を描いた。




 一方、ヴァロウもヴォーギンと対峙する。


「さて、軍師殿のお手並みを拝見と行こうか」


 ヴォーギンは手の指と指の間隔を広げる。

 その指先から飛び出したのは、鋭利な爪だった。

 1本1本が長く、ナイフのように鋭い。

 比較的暗い渓谷内にあっても、妖しく光っていた。


 直後、ヴォーギンは地面の雪を掻いた。

 わずかな雪煙だけを残し、消える。

 見ていた黒罪騎士たちは慌てた。

 速すぎる。

 人間の速度ではなった。


 だが、ヴァロウは冷静だ。

 くるりと左足を軸にし、右足をだけを動かして体を捌く。

 その横をヴォーギンが駆け抜けていく。


 ヘーゼル色の瞳はしっかり白狼族の動きを捉えていた。


「ほう……。俺の初撃を躱すなんてヤツは久しぶりだ。だが――」


 さっと再び雪煙が舞う。

 またヴォーギンが高速移動を始めた。

 目で追うことが難しい。

 黒罪騎士たちは、ただ雪に残った足跡を追うのが精一杯だった。


 対して、ヴァロウはヴォーギンの攻撃を躱していた。

 左右、上下、背面――あらゆる角度から縦横無尽に繰り出される攻撃を、涼しげな顔で、しかも最小限の動きで回避していく。


 だが、ヴォーギンの攻撃の回数が増えるほど、速くなっていった。

 ヴァロウの対処も難しくなってくる。

 魔王の副官の身体に、爪の痕が刻まれていった。


 そして――――。


「とった!!」


 ヴォーギンの声が高らかに響く。

 鮮血がほとばしる。

 ヴァロウの太股が大きく削られた。

 血が噴き出し、白い無垢の地面に広がる。


「致命的だな! その出血量では、もうちょこまかと動けないだろ、軍師殿! さあ、ここからどうやって逆転する!!」


 ヴォーギンの動きは止まる。

 お喋りをしたいわけではない。

 もうその必要がないとわかっているからだ。


 爪についた血を払い、改めて広げる。

 そのポーズは恐怖を増幅させた。


 だが、ヴァロウにはまるで効いていないようだ。

 その表情が苦悶に歪むわけでもなく、怒りに震えるわけでもない。

 冷水によって清められた刀剣のような顔を、ヴォーギンの前にさらすのみであった。


「(なんだ、こいつ……。自信……? いや、感情そのものすらないのか)」


 一方、ヴォーギンはおかしな感覚を感じていた。

 追いつめているのはこちらなのに、逆にこっちが追いつめられているような気分になってくる。

 得体の知れない状況……。

 だが、初めてではない。

 何か懐かしさすら感じる。


「(そうだ。俺は1度だけ、こういう感覚を味わったことがある)」


 21年前――。

 リントリッド王国北に広がる魔獣の森で、まだ人類軍と戦っていた時のことが頭によぎった。

 正確には、ある部隊と対峙した時だ。


「(そう言えば、あの時もそうだったな)」


 ヴォーギンは回顧する。


 21年前の獣人と人類軍の内戦。

 ヴォーギンは確かに――後に最強の軍師と謳われるヴァロウ・ゴズ・ヒューネルと戦い、勝った。あれは間違いなく、ヴォーギンの勝利だった。

 しかし、それはあくまで局地的な勝利に過ぎなかった。


「(あれは勝ったんじゃない……。勝たされたんだ、俺たちは――)」


 結果、ヴォーギンが勝利に固執するあまり、本隊への援護が遅れ、獣人たちはその一戦で大敗北を喫することになる。


 その時と全く同じだった。

 嫌な予感が蔓のようにヴォーギンを絡め取る。


「どうした? とどめを刺しに来ないのか?」


「そうかよ。それが望みかよ――――!!」


 ヴォーギンは走る。

 この時、彼の勘は警告を発していた。

 21年前もそうだった。

 ヴォーギンの勘は局地的な勝利を諦めて、退却しろとうるさいぐらいがなって(ヽヽヽヽ)いた。


 だが、結果的にヴォーギンは無視したのである。

 自分の勘を信じなかったのだ。


「(ここで占ってやる! 俺の勘と、俺の行動――どちらが正しいのか!!)」


 強い意志を込め、ヴォーギンはヴァロウに襲いかかる。

 大きく爪を広げると、真っ直ぐヴァロウに振り下ろした。


 動けないヴァロウが受けに構える。


 だが、ヴォーギンの凶爪(きょうそう)は振り下ろされなかった。

 フェイントだ。

 ヴォーギンは途中で腕を止める。

 横から回り込み、ヴァロウの背後へ回った。


「終わりだよ、軍師殿!」


 ヴォーギンの本気の振りがやってくる。

 それは雷撃のようだ。

 当たれば、ヴァロウの身体は八つ裂きにされるだろう。


 しかし、直後ヴァロウの動きが急激に速くなる。

 出血のひどい足を引きずることなく、軽やかにステップする。

 きっちりとヴォーギンの爪を躱した。


「な――――ッ!!」


 ヴォーギンの目が驚愕に見開かれる。

 あの足の出血はかなりひどい。

 雪から足を上げることすら難しいはずだ。


 だが、ヴァロウは軽いフットワークを見せて、ヴォーギンの攻撃を回避してしまった。


 しかも、それだけではない。

 ヴァロウは前に出る。

 大振りで隙の多いヴォーギンに対して、直突きを見舞う。

 コンパクトな拳打は、ヴォーギンの鼻先を捉えた。


 軽打に見えても、重い。


 ヴォーギンの顔が歪む。

 身体が仰け反った瞬間――ヴァロウは逃さない。

 鮮血を迸らせながら、怪我をした足を上げる。

 ヴォーギンに見せつけるかのようであった。


「!!」


 瞬間、足が振り下ろされる。

 仰け反ったヴォーギンの顔に落とされた。

 そのまま地面に叩きつけれる。


 衝撃は凄まじく、ヴォーギンは跳ね上がった。

 雪と血をまき散らし、ヴォーギンは宙を舞う。

 その鼻面は完全に歪み、白目を剥いていた。




「きゃああああああああ!!」


 悲鳴が上がる。

 見れば、火だるまになっていた。

 慌てて、地面を転げ回り、火を消そうとする。

 綺麗だった白い冬毛が炭化し、白狼族の姿は灰を被ったように見窄らしく変貌してしまった。


 フォービルの狐目が大きく見開く。

 その視線の先にあったのは、1人の騎士だった。


 掲げた杖の先には炎が渦巻いている。


「リーゼさん!!」


 声を上げたのは、間一髪の窮地を脱したメトラだった。

 リーゼロッテは、純血(ピュア)エルフ特有の黄緑色の髪をなびかせ、メトラの方を向いて、安心させるように微笑んだ。


「ぶおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 突如、耳をつんざくような吠声が聞こえる。

 フォービルが振り返ると、ブロルだった。

 その大きな腹には、2つの拳が突き刺さっている。

 ブロルは目を剥き、胃液を吐いた。


 すると、ブロルは前のめりに倒れる。


「手こずらせやがって……」

「まったくだ」


 2人の人鬼族がボロボロになりながらも、悪態を吐いた。


「そんな――――ブロルが……。あいつら、何者なの?」


 ブロルは、頭はあれだが、その基礎能力は魔族のトップクラスを凌駕する。

 だが、それを上回ったということは、ブロル以上の化け物だということになる。


 ドンッ!


 と凄まじい音が聞こえる。

 フォービルの目に、中空を浮くヴォーギンの姿が見えた。

 そのまま雪が積もった地面に叩きつけられる。


 フォービルは向かい合った2人の女のことを忘れて、走った。

 すぐにヴォーギンに駆け寄る。

 首を起こすと、ヴォーギンは血反吐を吐いた。


「ヴォーギン、あんたまで! ……あんたら、一体――――」


 フォービルは顔を上げる。

 そこにあったのは、ヘーゼル色の瞳だ。

 美しさすら感じるのに、そこにあるのはひたすら氷のような冷たさだけであった。




 ヴァロウはフォービルに何かを言いかける。

 しかし、その言葉が漏れることは二度となかった。

 血に染まった片足を動かし、あろうことかフォービルとヴォーギンに背を向ける。


 指揮官が取った異様な行動に、仲間たちもすぐに理解を示す。


 リーゼロッテは叫んだ。


「全員、後退しなさい」


 前の方を埋めていた黒罪騎士に命じる。

 だが、1歩遅かった。

 1本の矢が黒罪騎士の兜の隙間に入り込む。

 急所に入ると、あっさりと絶命した。

 さらに矢は黒罪騎士に降り注ぐ。


「「「「うわああああああああ!!」」」」


 狭い参道で、黒罪騎士たちは慌てた。

 リーゼロッテの指示通り、激戦を演じたヴァロウたちの方まで戻ってくる。


「いやはや……。ここで決着が付くと思ったのですが」


 声は東側――。

 人類圏の方から聞こえた。

 それとともに、雪を踏む音が綺麗に揃って聞こえる。


 軍隊だ。


 三列に並び、東側の山道から迫ってくる。

 その掲げた旗は、間違いなく人類軍のものだった。


「おいおい」


「そんな……」


 ザガスが頭を掻き、メトラが息を呑む。

 そしてキッザニアがやや青い顔をしながら、口惜しそうに呟いた。


「挟まれた……」


 と――――。


6月15日発売の『叛逆のヴァロウ ~上級貴族に謀殺された軍師は魔王の副官に転生し、復讐を誓う~』の書影が公開されました。


下欄の方に貼りましたので、

村カルキ先生が描く美麗な表紙を堪能下さい。

(作者はアルパヤがお気に入り)


黄昏が雰囲気が、大要塞同盟との対決を想起させますね。


そう! 2巻のメインは大要塞同盟首魁『竜王』バルケーノとの戦いになります。

『叛逆のヴァロウ』の中でも屈指の激戦を加筆修正された書籍版でもご確認ください。

(WEB版よりもザガスの活躍が多めになりました)


さらに新録エピソードとしては、人間時代のヴァロウとルミルラとの出会いが描かれています。


さらにさらに店舗特典として、人間時代のヴァロウとメトラのファーストコンタクトを

書かせていただきました。


どちらも貴重なエピソードなので、是非直接手にとってご確認ください!


よろしくお願いします。

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