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【WEB版】叛逆のヴァロウ ~上級貴族に謀殺された軍師は魔王の副官に転生し、復讐を誓う~  作者: 延野正行
14章 極雪の聖地攻防編

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第150話 両雄の思惑

コミケット98に参加予定だった出版社による電子書籍の大型キャンペーンに、

サーガフォレストから拙作が選ばれております。

各電子書籍サイトで、半額になっておりますので、

まだ書籍版を読んでないという方は、この機会をご活用下さい。

 人類軍聖地占領作戦部隊が『ベヒーモス』とともに撤退した。


 しかし、その状況下にあっても、まだ孤軍奮闘する者の姿が戦場にあった。

 『ベヒーモス』の団員の1人ブロルである。


 異形と喩えてもおかしくない大熊族の戦士は、群がっていた魔獣をなぎ払う。

 その暴れっぷりは、凄まじいの一言に尽きた。

 ビッグイエティをまるで紙人形のように吹き飛ばしていく。


 すでに半数以上、ブロルに壊されていた(ヽヽヽヽヽヽ)


 さしもの魔獣も恐怖を覚える。

 その膂力を目にして、逃亡を選択するビッグイエティも出始めたが、ブロルは許さなかった。


「ぶぼぼぼおおおおおお!!」


 およそ熊の吠声とは思えない雄叫びを上げる。

 足先から寒気が上ってくるような感覚に、ビッグイエティを始め雪原フィールド全体が震え上がった。


 ブロルはゆっくりと魔獣に近づくと、それぞれの首をへし折っていく。


 このままでは全滅する。

 戦術的には勝利した。

 が、ブロルによる被害は局地的な敗北というレベルに達する。


 まさにその時、それは彗星の如く現れた。


「おらあああああああああああああ!!」


 雪を荒々しく蹴っ飛ばし、影が飛ぶ。

 その跳躍力はまさに超人的で、ブロルの巨体のさらに上へと()んだ。

 極北の鈍った陽光を浴びながら、飛来したのは1匹の人鬼族である。


 ザガスだ。


「調子に乗んな! デカ物!! オレ様より暴れてるんじゃねぇよ!!」


 絶叫し、言葉に滲んだ怒りをそのままに棍棒を振り下ろす。


 ブロルは顔を上げた。

 「?」と首を傾げた瞬間、頭上から重い一撃が降ってくる。


「ぐごごごおおおおお!!」


 ブロルは悲鳴を上げる。

 そのまま地面に叩きつけられると、雪と共にバウンドし、1度宙を舞う。

 再び雪上に激突した。


 側で見ていた魔獣たちが目を剥く。

 化け物を打倒した化け物を見て、安堵よりもさらに恐怖がこみ上げてきたらしい。

 また逃げを打ち、近くの森や川に潜んだ。


 ザガスは「へっ」と唾を吐く。

 棍棒をかつぎ直し、自陣に戻ろうとした。

 しかし、戦いは終わっていなかった。


「なに?」


 ブロルが動き出したのだ。

 巨大な壁が盛り上がるように、その巨躯がゆっくりと起き上がる。

 頭から鮮血を流していたが、軽く首を振ると、巨体をそびやかした。


「いたい……」


 ブロルは呟く。

 本人は割と戸惑っているらしい。

 だが、言葉に全く実感がこもっていない。


 それがザガスを苛つかせた。


「てめぇ!!」


 ザガスは大きく棍棒を振りかぶる。

 構えすら見せないブロルに向かって、思いっきり二撃目を放つ。

 だが、今度はブロルも黙っていなかった。

 手を上げて、棍棒を防御する。

 それはうまくいったが、ザガスの膂力は凄まじい。

 受け止めたブロルごと吹き飛ばす。


 ザッ、と雪面に2本の太い線が引かれた。

 今度は倒れず、ブロルは立っていた。


「オレ様の一撃を――」


 さしものザガスも驚く。

 渾身の一撃だったはずだ。

 なのにあの化け物は受け止めた。

 それも片手で――である。


 自分の膂力が通じない。

 ザガスの自慢はその怪力である。

 その点においては、6匹の魔王の副官にも引けは取らないという自負はあった。

 そもそもこれまで彼の力を真っ向から受け止めることができたのは、前第六師団師団長ゴドラムかヴァロウぐらいである。


 ザガスは軽いショックを受ける。


 だが、茫然自失としていたのは、1拍にも満たない時間だった。


 やがて大きく杭のような牙を剥き出す。


「くははははは! おもしれぇ! お前、おもしれぇよ!! オレ様の一撃を受けて、全く壊れなかったんだからな」


「?」


 敵を称賛するザガスだったが、ブロルは頭を掻くだけだ。

 どうやら力はあっても、おつむの方はいまいちらしい。


 しかし、ザガスはそんなことなどお構いなしだ。

 終始大人しいブロルと違って、勝手に興奮していく。

 顔を赤くし、鼻息を荒々しく噴き出した。


「さあ……。もう1発といこうか」


 ザガスは身をかがめる。

 再び棍棒を構えた。

 その様を、ブロルは濁った白目で見つめていた。


 ひゅるるるるるるるうううぅぅぅぅ……。


 鋭い口笛が遠くから聞こえた。

 ブロルは反応する。

 巨体を音がした方向に向ける。


「おい! てめぇ、どこ見てんだ」


「おで、帰る」


「はあああああ? ちょっと待て! てめぇ、名乗りぐらいあげろ!!」


「……ブロル」


 ブロルは四つん這いになる。

 まさしく熊が野を駆けるような姿になると、雪を蹴った。

 雪上にあった雪を全て蹴散らす。

 まるで岩石が転がっていくかのように、ブロルは南へと消えていった。


 ザガスは舌打ちする。

 一方で、その表情は嬉しそうだった。


「よお!! 次はとことんまでやろうぜ、ブロルよ」


 手を振って、見送るのだった。



 ◆◇◆◇◆



 人類軍聖地占領作戦部隊は南へ退却していた。

 ひとまず『ベヒーモス』が待機していた南の街道沿いまで退く予定だ。


 兵たちは疲弊していた。

 比較的短時間の戦闘だったにもかかわらずである。

 その短い時間の中で、生死を分けた出来事が起こったのだ。

 実際、戦友を失った者もいた。

 『ベヒーモス』が今1歩遅ければ、全滅すらあり得ただろう。


 それを免れてなお、1万の兵に敗北という責務が重くのしかかる。


「何を考えているんですか?」


 ヴォーギンが質問した相手は、アジェリアだった。

 兵が下を向く中、アジェリアだけは顎に手を当て、何かを考えている。

 アジェリアは一旦顔を上げると、頭2つ大きいヴォーギンを見上げた。


「敵の正体について考えていました」


「なるほど。それで何かわかったことが?」


「具体的なものは何も……。ただ間違いなく、プロの犯行です。アズバライト教の信者ではないでしょう?」


 ヴォーギンは大きく頷く。

 同じ思いは彼の中にもあったからだ。


 アジェリアは説明を続ける。


「それもかなりの手練れです。戦術実例が少ない雪中戦において、あの塹壕戦術はとても理にかなったやり方です。野戦での寒さもしのげますし、雪ですから掘削も難しくない。魔法で溶かせばいいんですからね」


「それだけじゃないですな」


「え?」


「地面に穴を掘れば、目をこらせば遠目でわかる。気を付けていればな」


 確かにアジェリアは必要以上に慎重にノースドームに近づいた。

 それでも、あの塹壕を見つけることはできなかった。


「周囲が白すぎて穴の縁が見えなかったんですよ。それに雪原は距離感を狂わせる。一面真っ白だからな。距離の参考になる物がない。必要以上にあんたらは山に近づき過ぎたんだよ」


 ヴォーギンは説明する。

 アジェリアは肩を落とした。

 全く彼の言う通りだからだ。

 不必要に突出しすぎてしまった。

 1度川の手前で軍を止め、山の周辺に斥候を出してからでも遅くはなかったのだ。


「あなたの言う通りです。自分でも思っている以上に、功を焦ったのかもしれません。もしくは――――」


「この極北から早く帰って、おうちでシチューを飲みたいか?」


 ヴォーギンはからかうように歯をむき出した。


 アジェリアは否定しなかった。

 自嘲気味に微笑む。


「そうかもしれませんね」


「……ともかく、相手はプロ中のプロだな」


「ヴォーギンさん。ここまで雪中戦に長けた傭兵はいますか?」


「いくつか心辺りはあるが、問題は相手の数だな」


「5000はいましたね」


「ああ……。傭兵団で5000って数はかなりの大所帯だ。うちもそのぐらいだが、国からの依頼料と、別個の依頼料を受け取ってやっとってところだな。前者がなけりゃ、俺たちも負債を抱えて解散していただろう。経営の限界点として、傭兵団は1000人が限界だ」


「複数の傭兵団が集まっているという可能性は?」


「それぐらい大規模に募集してるなら、俺たちの耳にも入るはずだ。それにあの連携は、昨日今日組んだばかりの傭兵団には見えなかった」


「なら……」


「別勢力ってことになるな」


「しかし、どこの勢力でしょうか? レジスタンスにしたって、数が……」


「アジェリア殿は、すでに推察できているのではないですか?」


 くいっとヴォーギンが片眉を上げる。

 やや古典的に笑った。


 アジェリアは種をばらされた奇術師のように肩を竦める。

 そして今一度表情を引き締めた。


「やはり魔族ですか?」


「おそらくだが、あれはヴァルファル城塞都市の駐屯兵だろう。5000という数も合う。仮に魔族軍なら、魔獣が絶妙なタイミングで襲ってきたのも合点がいくしな」


「本国に連絡して、抗議してもらいますか?」


「かはっ! 魔族に抗議ねぇ。そいつは面白い! 実に見物だ」


 ヴォーギンは腹を抱えて笑った。

 対するアジェリアは心外だとばかりに、口を尖らせた。


「どうせ知らぬ存ぜぬ決め込むだけだ。こちらが証拠を突きつけない限りはね。しかし、本当に魔族なら厄介なことになりましたな」


「ええ……。仮に魔族勢力だとすれば、もし我々が負けた場合」


「アズバライト教は魔族側に付くかもしれません」


「アズバライト教は聖地にいる人数だけでも、20万人。全世界を合わせれば、100万人近くいると言われています」


「加えて、特殊な情報網を持っている。それは魔族、人類問わずに」


「はい。我々の情報が筒抜けになる可能性もあるでしょう」


「かかか……。楽な仕事と思って付いてきましたが、まさかこんな北の地で、今後の人類と魔族の争いを占う戦さになるとは――」


「ヴォーギン殿……。助力願えますか? 閣下には私から言い含めるので」


 アジェリアはわざわざ足を止める。

 兜を取り、頭を下げた。

ヴォーギンは少し面倒くさそうに、耳を掻く。


「心配しなくても、報酬分は働きます」


「報酬分とは?」


「むろん……」



 人類側の勝利ですよ。



 ◆◇◆◇◆



 戦死者0。

 負傷者0。


 まさに完璧な形で緒戦を勝利で飾ったヴァロウたちは、一旦ノースドームに帰還する。

 信者たちの称賛を受け、エスカリナが作った料理に舌鼓を打った。

 温泉を使った暖房装置の設置は着々と進んでいる。

 来た時よりもノースドームはかなり温かくなっていた。


「惜しかったね、ヴァロウ。あのまま全滅させることもできたんじゃない?」


 エスカリナは魚のオイル焼きを渡しながら、ヴァロウに尋ねた。

 すると、ヘーゼル色の瞳が冷たく輝く。

 「うっ」と一瞬エスカリナは固まった。

 平静を装っているが、若干怒っているらしい。


「ああ……。だが、邪魔が入った」


「聞いたわ。手強い? あの『ベヒーモス』は?」


「問題ない。それに我々の勝利条件は、『ベヒーモス』を倒すことではないからな」


 ヴァロウはそれ以上何も言わなかった。

 そのまま幹部を集めると、早速作戦会議を始める。

 敵はまだ残っている。

 おそらくそう遠くないうちに、こちらに攻撃を仕掛けてくるとヴァロウは読んでいた。


 そして、こう宣言する。


「隊を2つに分ける」


 幹部の間で「おお」と声が上がった。

 前回の作戦においては、敵勢力が本国側と前線側からやってきたため、やむにやまれず、ヴァロウは2つに分けた。

 それもかなり極端にだ。


 基本的にヴァロウは部隊を分けることはしない。

 これは好みの問題ではなく、今運用している兵数では分散行動はリスクでしかないからだ。


 しかし、そのヴァロウが珍しく隊を分けることを選択した。


「ヴァルファルの軍はこのままノースドームに残り、ルミルラ指揮下で防衛戦を続けろ。防衛方法は後で詳しく打ち合わせをする。いいな、ルミルラ」


「拝命しました。それでヴァロウ様はいずこに――」


「俺とザガス、メトラは、黒罪騎士を率いて川を渡り、東から回り込む」


「遊軍を用いて、敵の側面、背後を狙うおつもりですか?」


 ルミルラは目を開いた。

 ヴァロウにしては、実に平凡な奇策である。

 故に驚いたのだ。

 かつてルミルラも通っていたヴァロウの軍事教室で、生徒が同じような回答すれば、間違いなく指摘されていたことだろう。


「違う。我々はここを狙う」


 ヴァロウは指揮棒で指し示した。


 その場所を見て、多くのものがはっと顔を上げる。

 居合わせた黒罪騎士たちも、その狙いに瞠目した。


「さすがは、師――じゃなかった、ヴァロウ様。どこまでも徹底してますね」


「いい案だと思いますわ」


 ルミルラは珍しく歯を見せ笑う。

 一方メトラはうっとりと上司を見つめた。


「なるほど。盲点だったな」


 顎をさすったのは、キッザニアだ。

 横にいる黒罪騎士の女団長も、兜をしたまま頷いた。


 やがてヴァロウはおもむろに口を開く。


「相手の注意がノースドームに向いている今がチャンスだ。この好機を逃す手はない」



 やるぞ……。人間共に、王手をかける……。



 ヴァロウの瞳が、極北の寒空よりも冷たく光った。


先日は新作『最下級の最強暗殺者~最下級の爵位に潜伏する暗殺者は、学院の貴族たちを社会的に抹殺する』を読みに来て下さりありがとうございます。

連休中は毎日投稿の予定をしておりますので、外出自粛中のお供にお使い下さい。

若干ポイントが伸び悩んでいますので、ブクマ・☆評価をいただけると嬉しいです。

よろしくお願いします。

(※ リンクは下欄にあります)

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