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【WEB版】叛逆のヴァロウ ~上級貴族に謀殺された軍師は魔王の副官に転生し、復讐を誓う~  作者: 延野正行
14章 極雪の聖地攻防編

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第149話 雪中戦

 人類軍が凍らせた氷が割れる。

 現れたのは腕だった。

 鱗がびっしりとつき、肘の部分に魚のヒレのようなものが揺れている。

 やがて硬い氷をぶち破り、半魚人型の魔獣が出現した。


 フロストサハギン……。


 北の海に住むという魔獣である。


 それだけに終わらない。

 雪の中から顔を出したのは、大きな一つ目の巨人だ。

 次いで大きな巨体が現れる。

 白い雪のようなモコモコに羽毛に覆われた巨人は、その存在を喧伝するかのように硬い胸板を叩いた。


 ビッグイエティと呼ばれる北国に住む魔獣である。


 南に転進し始めた1万の兵が一斉に狼狽える。

 雪と氷の中でやっと加速のついた全身を急停止させた。

 人間に対して強烈な殺意を持つ魔獣たちは、その好機を見逃さない。

 容赦なく突撃してくると、人類兵を忽ち血祭りに上げ始めた。


「ぎゃあああああああ!!」


 あちこちで兵の悲鳴が上がる。

 血しぶきが上がり、雪の地面に鮮血が滲んでいく。

 輿に乗った司令官ガラケンも、護衛の兵の血を浴びる。

 半狂乱になったガラケンは、声が裏返りながら叫んだ。


「アジェリア! どうにかしろ!!」


 司令官の声を聞きながら、アジェリアは理性を保っていた。

 心の中で必死に「落ち着け」と言い聞かせながら、戦況を確認する。

 だが、状況は絶望的である。


 東と西には謎の戦力。

 北は雪が深く積もった山。

 南には魔獣の群れ。


 完璧に囲まれていた。


「(東か西に転進して、強行突破する? いや、敵戦力がわからない以上、リスクが高すぎる。山を登る? それも危険だ。山にはまだ雪が残っている。また雪崩を起こる可能性もある。なら――――)」


 答えは1つしかない。

 アジェリアは大きく手を上げ、号令を上げた。


「全軍! 中央に密集しろ! 南を中央突破する!!」


「魔獣の群れに突っ込むつもりか!!」


「今、それしかありません!!」


 アジェリアはガラケンに向かって怒鳴り付ける。

 その司令官の表情が変わったことに気付いたが、顔を逸らし無視した。

 今ここで軍をまとめることができるのは、ガラケンではない。

 自分だ。

 全軍の命は自分の判断にかかっている。


 アジェリアの号令に、兵たちは徐々に中央へ密集し始めた。

 自分が鍛えた兵である。

 危機的状況におけるシミュレーションは、何度も行っている。

 実戦とシミュレーションは違うが、司令官はともかく兵の練度は決して悪い部隊ではない。


 予想通り、兵の動きは決して悪くはなかった。

 紡錘状に陣形を作り直し、魔獣の群れに対して中央を突破を狙う。


「なるべく中央へ!! 東と西からの射程距離から離れるのです」


 兵を中央に寄せれば、それだけ射程距離が増える。

 相手は雪に穴を掘った塹壕から撃ってるのだ。

 射程には限りがあるはず。



「なるほど。悪くない判断だ。だが、これならどうかな?」



 また謎の声が聞こえた。

 その瞬間、塹壕の中に隠れていた敵兵が出てくる。

 間違いなく人間だ。

 防寒用の黒いローブを着ているため、どこの部隊かは判別できない。

 アズバライト教の信者だろうか。

 だが、今は詮索している場合ではなかった。


 塹壕から出てきた兵は、中央に寄った部隊に容赦なく魔法攻撃を加える。

 横陣とは違って、密集隊形となった今、良い的でしかない。

 あちこちで爆発音が響いた。


「アジェリア!!」


「黙ってて下さい!!」


 アジェリアはつい暴言を吐く。

 謝罪している時間すらおしい。


「盾兵、陣形の前へ! 意地でも攻撃を防いで。突撃は続行! 慌てなくていいですから、ゆっくり南へ動いて下さい」


 陣を同時に動かすことは難しい。

 人の足並みはそれぞれだからだ。

 特殊な状況であれば、心理的な要素が出てくる。

 それでもアジェリアが鍛えた兵たちは、己を律し、粛々と南に向かう。


 だが、アジェリアが思う以上に動きが鈍い。


「ぐあああああああ!!」


 ビッグイエティが紡錘の突起の部分で暴れ回っていた。

 盾兵を吹き飛ばしている。

 なんとか歩兵や魔導部隊が応戦し、その数は減っているが、魔獣もまた次々と中央によってくる。

 凍った川の上にくると、兵たちが次々とフロストサハギンによって川底に引きずり込まれていった。


 被害は増えていく一方だ。

 しかし、アジェリアには兵たちの悲鳴を聞くことしかできなかった。



 ◆◇◆◇◆



 みるみる減っていく人類軍の状況を、ヴォロウは山頂から見下ろしていた。


「うまくいきましたね、ヴァロウ様」


 側にはメトラもいる。

 ヴォロウと同じく戦況を眺めていた。

 東と西に分けた部隊が中央で合流し、敵人類兵に魔砲撃を加えている。

 さらに南では、ビッグイエティとフロストサハギンが大暴れしていた。


「塹壕を使って、敵を待ち伏せするというのはさすがです」


 塹壕戦はかつての人類の戦争において、考案された戦術の1つである。

 古い時代、この戦術は魔法技術の発達とともに猛威を振るった。

 種族の特徴として、魔族に制空権を取られがちだったため、塹壕戦による撃ち合いは無意味なものになってしまったが……。


「だが、人類同士の戦いでは有用な戦術だ。特に雪中戦においてはな」


 理由はいくつかあるが、1つは土よりも雪が掘りやすく、火属性の魔法で溶かせば、いくらでも距離を伸ばせるだろう。

 また寒さをしのげることも大きい。


「今回も圧勝しそうです」


 メトラは側に置いていたポットを持ち上げる。

 魔法で温め直すと、空になったティーカップに注ごうとした。

 少し早い勝利の紅茶というわけだ。


 しかし、注ぐ前にヴァロウはティーカップを手で蓋をする。

 やや険しい表情を浮かべると、座っていた椅子から立ち上がった。


「いや、そうはうまくいかないようだ」


「…………え?」


「あの男が来た」


 瞬間、南の戦場に大きな土煙が上がった。



 ◆◇◆◇◆



「来てくれたか!」


 轟音が南の方で聞こえた時、アジェリアの顔は輝いた。

 顎を上げた瞬間、一転して表情が引きつる。

 彼らを取り囲むビッグイエティよりも大きな影を見て、戦慄せざる得なかった。


 それは巨大な熊だ。

 魔獣でもなければ、魔族というわけではない。

 獣人――大熊族といわれる種族だ。


 だが、アジェリアが知る大熊族よりも遥かに大きい。

 まるで巨大な城門を思わせた。


 ビッグイエティたちは現れた巨躯に飛びかかる。

 爪で切り裂き、あるいは肉に噛みついたが、大熊族はものともしない。

 岩石のような手を広げると、一切合切をなぎ払った。

 そこには人類軍も含まれている。


「こりゃ! ブロル!! 味方まで巻き込むな」


 叫んだのは、ブロルと呼ばれた大熊族の肩に乗る象髭族だ。

 耳に向かって怒鳴り散らすものの、ブロルは「?」とばかりに首を傾げる。

 白く濁った目から恐怖しか感じないが、どことなく愛嬌がある仕草だった。


「ん? 味方?」


「そうじゃ! 我々の敵は魔獣じゃ!!」


「魔獣…………。なあ、ガジャン」


「なんだ?」


「おで……。何をしてたんだっけ?」


「だあああああ! とにかくだ! 魔獣を殺せ! 人間は殺すな!!」


 戦場でやや間の抜けたやりとりが響く。

 身体の大きさの割に、ブロルは小心者なのだろう。

 小さな体躯のガジャンに怯えているように見えた。


「わ、わかった」


 再びブロルは振りかぶる。

 近くにいた魔獣たちを根こそぎなぎ払った。

 その戦力に、さしもの魔獣たちも警戒する。

 恐れをなして、逃亡する者も現れた。


 驚いていたのは、魔獣だけではない。

 人類軍もその圧倒的な戦力におののていた。

 あのガラケンですら、言葉もないようである。

 あんぐりと開けた口からは、涎が垂れていた。


 だが、魔獣は南にいるものだけではない。

 ちょうど渡河しようとしていたガラケンたちの足下にも、フロストサハギンが現れる。


「ガラケン閣下!!」


 間一髪アジェリアが司令官と半魚人の間に入る。

 剣を構えたが、半魚人の牙の方が早かった。


 ――間に合わない!!


 悟った直後、アジェリアに訪れたのは死を予感させるような痛みではなかった。

 生ぬるい魔獣の血である。

 アジェリアに襲いかかったフロストサハギンは、胸を撃ち抜かれていた。

 剣でもなければ、魔法でもない。


 大きな獣の爪である。


「間に合ったな!」


 ニィとアジェリアの頭の上で笑ったのは、『ベヒーモス』団長ヴォーギンだ。


 さらに鬨の声が聞こえる。

 雪狐族の副長フォービルを先頭にして、獣人たちが戦場になだれ込んでくる。

 たちまち魔獣を制圧していった。


「ヴォーギン殿、かたじけない!!」


「礼は報酬に付けておいてくれ。たんまり頼むぜ」


 傭兵団らしい答えが返ってくる。


「お、遅い! 遅いぞ、『ベヒーモス』!!」


 鶏冠に来たばかりに怒りだしたのは、ガラケンである。

 『ベヒーモス』によって、九死に一生得たというのに、その大きな口から罵倒を繰り返す。


「遅いっていわれてもねぇ。俺たちはあんたに言われて、後方に待機していただけだぜ」


「な、なんだとぉ!!」


「両人とも落ち着いて下さい。ヴォーギン殿、主君はこう言っていますが、これでも感謝しているのです。流行のツンデレというヤツで」


「つん……? なんだ?」


「ガラケン閣下も、こういう時のために遊軍として『ベヒーモス』を後方においていたんですよね」


「え? あ……。そう――その通りだ!」


「つまりヴォーギン殿たちはガラケン閣下の指示通りに、万が一の窮地に動いてくれたということです。閣下の狙い通りなのですよ」


「わ、わしの? ……ぬは。……あははははは。そう、そうだな。よしよし。よく来た『ベヒーモス』。わしの狙い通りよ」


 ガラケンはたちまち機嫌を取り戻した。

 そのやりとりを見て、ヴォーギンは肩を竦める。


「ツンデレって……。全く萌えねぇよ」


 ヴォーギンはそっとアジェリアに囁く。


「あんたも大変だな」


 という同情に、アジェリアは苦笑で返すしかなかった。


 退路が確保される。

 アジェリアたちは『ベヒーモス』とともに南へと退却していった。




 この戦いにて、人類軍聖地占領部隊の死者920名、行方不明者102名、重軽傷者700余名という損害を出す。

 しかし、これはヴァロウ率いる第六師団と戦った敵の中で、もっとも低い死傷者率だった。


『最強暗殺者の弟子』という作品を毎日投稿してます。

もし良かったら、そちらの方も応援いただけると嬉しいです。

よろしくお願いします。

(※ 下欄にリンクがありますので、そちらからどうぞ)

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