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【WEB版】叛逆のヴァロウ ~上級貴族に謀殺された軍師は魔王の副官に転生し、復讐を誓う~  作者: 延野正行
14章 極雪の聖地攻防編

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第146話 敵軍来たれり

 空気が変わった。

 熱狂的に声を上げていた観客たちは、水を打ったように静まる。

 彼らの目に映っていたのは、闘技場の戦う男たちであった。


 支配、あるいは淘汰……。

 戦争の目的のためにある戦いではない。

 名誉? 金? 賛美?

 いや、そこにあるのは勝利のための戦いだ。


 ただ目の前にある者に勝ちたい。

 勝利したい、という欲のための戦いだった。


 おぞましく聞こえるかもしれない。

 それでも両者の姿は崇高な武人のそれであり、見る者を引きつけた。


 ジャッ!


 仕掛けたのはキッザニアだった。

 前振りもなければ、戦術すらない。

 ただ前に向かう。


 機動力はすでに削がれていた。

 初撃の時と比べれば、止まって見えるほどである。

 だがキッザニアにはこれしかない。


 対してザガスはやはり足を止めた。

 足幅を広げ、向かってくるキッザニアを迎え討つ。


 始まったのは激しい打ち合いだ。

 キッザニアが2度打てば、ザガスが強打で返す。

 互いにガードを下げて――いや、ガードそのものがない。


 あっという間に両者の顔や身体は赤く腫れ上がっていく。

 観客の中には目を背ける者もいた。

 だが――。


「笑ってる」


 戦いを見ていたエスカリナが呟いた。

 そう――。両者は笑っていた。

 身体が傷付き、尋常じゃない痛みを感じ、1歩間違えれば命すら危ういと言うのに、両者の顔は笑っていたのである。


 だが、終わらない(いく)さなどない。


「シッ!!」


 キッザニアの大砲のような直突きがザガスの顔面に襲いかかる。

 こめかみすれすれで避けると、ザガスは鉤突きを見舞った。

 キッザニアはその拳打を手の平で受ける。

 そのまま引き込み、ザガスの足を払った。


 ザガスの巨体が中空で一回転する。

 地面に叩きつけられる――と思う瞬間、ザガスは腰を捻った。

 無理矢理体勢を変えると、両足で着地する。


 ホッとしたのもつかの間、再びキッザニアの直突き(たいほう)が襲ってきた。


「なめんな!!」


 ザガスは一喝する。

 躱すわけでもなく、受けるわけでもない。

 自ら額を差し出すように拳に向かって頭突きを当てに行く。


「ぐはああああ!!」


 溜まらずキッザニアは仰け反った。

 おそらく骨が折れたのだろう。

 痛みの信号が、後頭部まで駆け抜ける。

 だが、悶えている時間はない。


 ここは戦場なのだ。


 ザガスは容赦ない。

 そして絶好の機会を逃す魔族ではなかった。

 大きく振りかぶり、渾身の直突きを繰り出す。


 勝負あった――と誰もが思っただろう。


 しかし、キッザニアは後退を止める。

 前へ――。窮地にあっても、前へ進むことを決断した。

 それが好結果をもたらす。

 少し前のめりになったキッザニアの額が、ザガスの拳を受けたのだ。


 諸にカウンターが入る。

 痛みに強いザガスですら一瞬怯んだ。


 そこにキッザニアは最後の好機を見出す。

 再び足を前に踏み出した。

 拳に魂を込め、下がるザガスを追撃する。


 ザガスも足を止めて、腹をくくった。

 瞼の上が腫れ、目が半分しか開かなくても相手の姿が見えていたのだ。

 全身の筋肉を軋ませながら、同じく拳を握る。

 大きな鉄塊のように握り込んだ拳打を、キッザニアに向かって放った。


「「おおおおおおおおおお!!」」


 両者の声が響く。

 最大にして最強の一打を予感させた。


「まずい!!」


 ルミルラが前に出る。

 止めに入ろうとしたその時であった。

 黒い影が走る。


 トン――――ッ。


 それは一瞬であった。

 まるで奇術を見せられたかのようだ。

 両者の間にヴァロウが現れた。

 驚くのはそこではない。

 両者の拳の上を叩くと、あっさりその軌道を変えたのである。


 ほぼ地面に水平に向けられていた拳は、90度向きを変えて、地面に向かった。


 直後、轟音が響く。


 大きな岩盤にヒビが走り、岩盤が盛り上がる。

 ザガス、キッザニアの両拳は地面を砕いたのだ。


「ヴァロウ! てめぇ、何しやがる!!」


 ザガスは抗議の声を上げる。

 だが、ヴァロウから返ってきたのは冷たい声だった。


「逃げろ……」


「はあ? 今、それどころじゃ――って、お前どこへ行くんだよ」


 ヴォロウは帰っていく。

 元の位置に戻ると、メトラがそっと差し出した。

 何故か、傘である。


 事態が掴めず、ザガスとキッザニアは呆然とするばかりだ。


 すると突如地響きが聞こえる。

 同時にノースドーム全体が微震を始めた。


「すみませ~ん。皆さん、ちょっと離れててくださ~い」


 呑気な声を上げたのは、アルパヤであった。

 魔導機械をいじっていたのか。

 少し油の匂いを漂わせていた。


 注意されるまでもなく観客たちは逃げていた。

 すでに微震が始まっているのだ。

 生き埋めはごめんだと、入口の方へと殺到する。


「一体何が起こってんだ?」


 ザガスは眉根を顰める。

 その彼にキッザニアが声をかける。


「おい……」


「なんだよ。お前に構ってる場合じゃないんだよ」


「これはなんだ?」


「あん?」


 キッザニアが顎をしゃくる。

 その先を見て、ザガスはようやく気付いた。

 嫌に拳が熱いと思ったら、お湯が小さく吹き出ていたのである。


「まさか!」


「まずい!!」


 ザガスとキッザニアは地面に刺さった拳を抜こうとする。

 だが、一瞬遅かった。


 ざばぁぁぁぁああああんんんんん!!


 突如、熱湯が噴き出した。

 その勢いは凄まじい。

 一気にノースドームの天井にまで迫る。

 細かな熱湯のしぶきが広がり、たちまち湯煙に覆われる。


 幸い観客は逃げていたので無事。


 ヴァロウたちも退避していたので問題はなかった。


 あおりを食らったのは、ザガスとキッザニアだけである。


「大丈夫でしょうか、2人とも?」


「大丈夫だろう」


 さすがにメトラも心配になったらしい。

 しかし、側にいるヴァロウの反応は素っ気ないものだった。

 その横で溜まったお湯の水面に浮かぶザガスとキッザニアが流れていく。


「ヴァロウ殿、これは!?」


 アストロフが近づいてきた。

 後ろには神官たちもいる。

 エルフのクセニアには青筋が窺えた。

 相当怒っているようだ。


「温泉です」


「そ、それはわかるが……」


「極めて高い確率で、ノースドームの地下に温泉があると、我々のドワーフから進言がありました。そして掘ってみたところ、ご覧の通り、温泉が出てきたというわけです。岩盤が固くて少々困ってはいましたが」


「な、なるほど。あ、いや……。何故温泉などを掘り当てたのですか?」


「わかりませんか? あなた方のためですよ」


「え? 私たちの?」


「ノースドームは地下ですが、厳冬期になればかなり寒く、凍死者も出ると聞いています」


「だから、温泉に入って暖を取れと?」


「それもありますが、この温泉は入浴だけに使うのはもったいないでしょう。アルパヤ」


 ヴォロウはアルパヤを呼ぶ。

 すると彼女は何やら鉄管を持ってきてやってきた。

 その中に熱湯を汲み入れる。


 それをアストロフたちに差し出した。


「触ってみて」


「え? ――――熱っ!!」


「鉄管の中に熱湯を入れるだけで、これだけの熱を発します。この管をノースドームのあちこちに通して、熱湯を通して、熱によって全体を温めるのです。劇的に温度が上がるわけではありませんが、4、5度は室温が変わってくるはずです。これをまず居住区のあちこちに通す予定です」


「なるほど……。しかし、ノースドームは広い。そんな鉄管どこにあるんですか?」


「ここにあるでしょ?」


「え?」


 アルパヤが示したのは空になった缶詰だった。

 表と裏を丁寧に切り取り、缶詰と缶詰をくっつける。表と裏には凹凸があり、少し力を入れると、カチッと音を鳴らして離れなくなってしまった。

 あらかじめくっつけやすくするため、デザインしていたのだろう。


「専用の鉄管もありますが、人員の限りと食糧輸送を優先した結果、あまり持ってくることができませんでした。申し訳ない」


「とんでもない! すごいわ。わたくしたちのことをここまで考えてくれているなんて」


 声を上げたのは、クセニアだ。

 先ほどの怒り顔はどこへやらである。

 ヴァロウの名案と配慮に感心した様子だった。


 他の神官も同様だ。

 ヴァロウの配慮に目を輝かせている。

 その顔は救世主を見たかのように神々しく感じた。


「食糧、環境が揃いました。武力も見ての通りです。お気に召さないというのであれば、もう一戦させますが」


「いえ。結構です。ヴァロウ殿、あなたの誠意はわかりました」


 そしてアストロフは膝を突いた。

 他の神官たちも同様の動作をし、ヴォロウを前に頭を垂れる。

 こうなることわかっていたリーアンだけが、ヴァロウを誇らしげに見つめていた。


「改めてお願いします、ヴァロウ殿。どうかこのノースドームを救って下さい」


 それは神官だけの願いではない。

 いつの間にか信者たちも集まり、ヴァロウに向かって頭を下げていた。


 ヴァロウは不遜な態度を取ることも、こびへつらうこともない。


 ただいつも通り、ヘーゼル色の瞳を光らせていた。


「むろん……。そのために我々はやってきたのです」


 力強い言葉を響かせる。


 信者たちは感謝に身体を震わせていた。


 その時である。

 黒罪騎士の1人が慌ててやってくる。

 雪をかぶったフードを取り、声を上げて報告した。


「人類軍が東の渓谷を抜けました!! その数15000!」


「思ったより、少ない?」


 こちらの3倍の数である。

 だが、ルミルラは楽観的だった。

 想定していた数は2万だっただけに、少し肩すかしをくらったのだ。


 しかし、報告者の言葉には続きがあった。


「そのうちは、5000は獣人の部隊のようです」


「5000の獣人部隊? まさかベヒーモス!!」


 ルミルラの瞼が大きく開く。


 すかさず師匠の方を見つめた。


 弟子と違い、その顔はいつも通り無表情のままだった。


いよいよ次回から戦闘パートです。


東大阪市、近鉄布施駅前にあるコミックランドヒバリヤ様にて、

些少ですがサイン本を置かせてもらうことになりました。

お近くの方、興味のある方は是非お手に取って下さいね。


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