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【WEB版】叛逆のヴァロウ ~上級貴族に謀殺された軍師は魔王の副官に転生し、復讐を誓う~  作者: 延野正行
13章 停戦交渉編

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エピローグ Ⅲ

これにて『停戦交渉篇』は最終回です。

ここまでお読みいただいた読者の方々に感謝申し上げます。

「ロイス……」


 声を掛けられた瞬間、ロイス・ブル・マスタッドはすぐに翻った。

 リントリッド王国の国章があしらわれたマントが揺れる。


 その声は一瞬幻聴かと、ロイスは考えた。

 しかし、冥界からの声でもなければ、幻覚や魔法の類いでもない。


 ロイスの前には今、15年前袂を分かった友人の姿があった。


「アルデラ……!」


 王国最強の剣の目が揺れる。

 普段厳格に結ばれた口元もまた、帯を緩めるように綻んだ。


 アルデラ・フィオ・ディマンテ。

 王国最強の盾と言われた男が、間違いなく目の前に立っていた。

 15年の月日が流れても、その締まりのない顔は忘れたくても忘れられるものではない。


「久しぶりだね」


「久しぶりだと? 冗談を言うな。久しぶりという言葉に、千の金貨を足したって不足しているぞ」


「ははは……。相変わらず君の例えは面白いなあ」


「停戦交渉のため、魔王城に向かったと聞いたが……」


「ご心配なく、足は付いているよ。交渉もまあ……うまく言った。上級貴族(うえ)の顔はきちんと立てたしね。手を叩いて称賛されることはないだろうけど、彼らがやりたかったお膳立てはできたのだから、理不尽に首が飛ぶこともないと思う」


「おい。物騒なことを王宮の廊下のど真ん中で言うな」


 ロイスは半分目を閉じて、旧友を睨み付けた。

 2人がいる場所は、ロイスが言うように王の私室へと続く、廊下である。

 普段はせわしなく家臣が行き交う場所なのだが、先ほど正午の鐘が鳴り、昼休みを取っていた。

 今頃、食堂は人でごった返しているだろう。


「警戒していたって仕方ないさ。ここは彼らの巣だ。いずれ耳に入る。それよりも、ロイス。話があるんだけど」


「15年分の土産話というわけではないのだな」


「それもいいけど、興味はないかい? 魔王城での話を……」


「……わかった。聞こう。港側に『ブルー』という酒場がある。今日の夜だ?」


「今日かい? 相変わらずせっかちだね。了解した。それでは夜――」


 2人はその場で別れた。



 ◆◇◆◇◆



 豪快に杯を突き合わす音が聞こえた。

 屈強な男たちが、酒を呑み、大いに笑い、歌っている。

 彼らは漁師兼冒険者だ。

 海が海の魔物に支配されて以降、人類側は海の活動を制限されたが、完全になくなったわけではない。


 沖に出ることは難しくなったが、磯から魚を狙うのである。

 雷の力を内包した魔石を海に投げ、浮かんできた魚を捕る。

 むろん、魔物が襲いかかってくる危険もあるのだが、その場合陸に引きずり出して、魔物を仕留めるのだ。


 魚の取引価格は、今でも高い。

 小魚1匹に、大銀貨5枚を出す貴族もいる。

 大銀貨5枚もあれば、庶民なら1ヶ月は遊んで暮らせる額だ。


 おそらく今日は大漁だったのだろう。

 景気よい声を上げて、皆に酒を振る舞っていた。


「随分と賑やかな酒場だね」


 そこにやって来たのは、ロイスとアルデラである。

 2人ともフード付きのコートに身を包み、その身分を隠していた。

 だが、その甘いマスクは隠せないらしい。

 漁師兼冒険者たちが連れてきた娼婦が、2人に気付いて、時々色目を送っている。


「ここはいつもこんな感じだ。だが、内緒の話をするには悪くない。これだけ騒がしいと聞き耳を立てても、聞こえないからな」


「え? なんか言った?」


 アルデラは耳を向ける。

 騒がしすぎて、近くにいるロイスの声すら聞き取れなかった。

 すると、ロイスは口元に指を当てる。

 友人同士しか知らない符丁だ。他にわかるのはヴァロウぐらいだろう。

 「唇を読め」という合図に、アルデラは手で『OK』と符丁を送り返す。


 まずアルデラは魔王城であったことを詳細に話した。

 歓迎、交渉から始まり、魔王城での騒ぎのあらまし、レイリーの死、そして交渉締結にまで至る過程と、アルデラなりの考察も付け加える。

 ロイスはずっと黙って聞いていたが、やはりあのことになると、粗野な木製ジョッキになみなみと注がれた麦酒を机の上に叩きつけねばならなかった。


『ヴァロウが生きているだと!!』


 唇だけを動かし、大きくリアクションする。

 声に出さなかったのは、さすがである。


『ああ。間違いない。彼はヴァロウだ』


『信じられん』


『信じられないのも当然だろうね』


『お前は私が知る限りにおいて、王国一ふざけた男だが、そういう質の悪い冗談は言わないことはよく知っている』


『前者はともかく、後者については光栄だね』


『本当なんだな?』


『やっぱり疑ってるんじゃないか?』


 アルデラは苦笑する。

 ロイスの表情はいつも王宮で見かけるものとさほど変わらない。

 顎を締め、小難しい顔をしていた。


『まあ、頭から信じられるものじゃないよね。正直に言うと、僕もまだ疑っているところはある』


『当然だ。死んだ友人が魔族になり、魔王の副官をしているなんて誰が信じる』


『良かった……』


 突然、アルデラは顔を綻ばせた。

 麦酒に浮かんだ自分の締まりのない顔に、さらに苦笑する。

 そんな友人に対し、ロイスは眉宇を動かすことしかできなかった。


『ロイスはまだヴァロウを友人(ヽヽ)と呼ぶのだね』


『――――ッ!』


 うっ、とロイスは息を詰まらせる。

 思わぬ不意打ちに、口の中に残っていた麦酒が少量気管に入ってしまったらしい。

 激しく咳き込んだ。


『大丈夫かい?』


『お前が変なことを言うからだ、げほっ! ゲホ……ゲホゲホ!』


 確かにヴァロウは大悪人だ。

 『リントリッドの至宝』メトラ王女を殺害した。

 証拠も十分である。

 何より、ロイスが忠誠を誓うライアルト陛下は、今でもヴァロウに対し激しい憎悪の炎を燃え上がらせていた。

 生きていると知れば、自分が先陣を切ってでも、ヴァロウに刃を向けるだろう。


 娘を殺された王が、紫陽花のように枯れていく様を見ていても、ロイスは言い切った。


『私はヴァロウがメトラ王女を殺したとは思っていない』


『僕もだ』


『お前、どうなんだ? お前の方が、事情は複雑だろう』


『彼にも言ったことなんだけど、僕はまだ自分の立場というのを決めかねている』


『立場ではない。お前はどうなのだ、と聞いている?』


 ロイスは机に身を乗り出す。

 少々酔っているのか、その瞳は(すわ)わっていた。


 アルデラは杯を置く。

 顔を引き締め、真剣な表情で告白した。


『友人だと思っているよ』


 ロイスは身を引く。

 1度、杯を傾けた後、空になった杯をテーブルに置いた。


『それでいい。悩んでいても仕方がない。しかし、何故あいつは生き返ったというのに、我々に助勢を請わない。そもそも何故、魔族側の士官となっているのだ』


『魔族という立場になったことよりも、見極めたかったのかもしれないね』


『見極める?』


『人間をさ……。客観的な立場になって、人間の価値を見定めているのかもしれない』


『あり得るな。ヴァロウなら考えかねない』


『そう考えると、魔族に転生したことすら彼の手の平の上なのではないか、と思うよ』


『謀殺されたことすら、ヴァロウの予測の内だと? 確かに、それなら人が仕掛けた謀略に、あいつがはめられたことも辻褄が合うが……。いや、やめよう。やはり、憶測の域から出ることはない。……話を変えよう。ところで、アルデラ。お前、ヴァロウ以外にも出会ったのだろう?』



 魔王はどんなヤツだった?



 コンッ、と気持ち良い音が鳴る。

 杯が転がり、木の床に麦酒が転がった。

 側の騒ぎはテンションMAXといった様子だ。

 床が酒浸しになっても、腕を組んで舟歌を歌い続けている。


 アルデラはゆっくりと杯を置いた。

 落ち着きを払った様子であったが、かすかにその指先が震えていることに、友人であるロイスは気付く。


『魔王は――――』


 アルデラは懇々と喋り続けた。



 ◆◇◆◇◆



 時間は交渉3日目の騒乱の日に巻き戻る……。



 人鬼族と魔狼族が争う客室から逃げてきたアルデラは、魔王城ゲーディアの地下深くへと逃げ込む。

 そこに現れたのは、薄い寝間着を着た女だった。


「魔王か……」


 一見娼婦に見間違うほど魅力的で大胆な姿。

 しかし、そんなものがどうでもよくなるぐらい、殺意と圧力を秘めた雰囲気に、アルデラはそう質問せずにはいられなかった。


「あなた、どちらさまですか?」


 ふわっと欠伸をしながら、女は尋ねた。

 まだ微睡みの中にいるような瞳が、アルデラの姿を捉える。

 巨大な竜に舌でなめられているような圧迫感を放っていた。


 身体が固まって、悲鳴すら上げられない。

 恐怖のあまり身体の芯から震えが来ることもなかった。

 ただアルデラの頭だけは、激しく回っている。


 そして脳裏に焼き付いたのは、魔族に殺される家族。

 その憎悪と、今目の前にいるのが、魔族の王であるという事実だけだった。


 アルデラはサッと手を振る。

 同時に、呪唱した。


雷神剣(サンダーソード)


 魔法で剣を生み出す。

 王国最強の盾が選んだのは、剣であった。


 雷精を帯びた魔法剣を、アルデラは無意識下に目の前の女に向けている。

 浅く息を繰り返した。

 身体がふわふわする。

 高熱に蝕まれているように身体が熱いのに、芯の部分ではひどく冷たい。


 耳元で過去の自分が叫んでいた。


 殺せ……。


 殺せ! と――。


 一方、剣を向けられて初めて、魔王は事態を察する。

 むろん、すべてを理解したわけではないが、今自分に起こっている事が、大事であることぐらい、起きたばかりの頭で理解ができた。

 そして、1つの疑問をぶつける。


「あなた、人間ですね」


 甘いバニラでも塗りたくったような声に、思わずうっとりとしてしまうほどの魅力が秘められていた。

 しかし、それに惑わされることよりも、恐怖の方が勝る。

 できることなら、今この場で大きな声を上げて暴れ回りたい。

 そんな衝動を必死に抑え付けた。

 その時、ふとアルデラの脳裏に浮かんだのは、かつて袂を分かった友人のことだ。


「(ヴァロウは……。こんな存在に仕えているのか?)」


 子供なら即死。

 大人でも発狂死。

 老人なら憤死。

 女なら悶死していたかもしれない。


 そこにいるだけなのに、死をもたらす、死を想起させる。

 もはや「死」そのものであった。


 それでも、アルデラは己の使命を忘れない。

 目の前にいるのは、家族の仇である。

 殺すことができれば、戦争そのものを終わらすことができるだろう。


 引くわけにはいかない。

 たとえ、友人と決定的に分かつことになってもだ。


「おおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 珍しくアルデラは吠えた。

 同時に魔王は構えを取った。

 まるで威嚇するように翼を広げる。

 そんなことをしなくても、十分魔王は強い敵意を送っていた。


 しかし、アルデラの精神は見えない雰囲気や空気、あるいは“気”そのものだけでは止められない。


 もはや彼を止めることが出来るのは、物理的な力だけである。


 雷精の凶刃が迫る。

 その時、再び吠声が響き渡った。


「魔王様ぁぁぁぁぁああああああああああああ!!」


 廊下を疾風が通りぬけていく。

 あっさりと魔王とアルデラの間に回り込んだ。

 アルデラの視界に映ったのは、白銀の毛である。


 シャッと鋭い音を立て、鮮血がほとばしる。

 昔、熊を解体した時にも感じた柔らかく温かな感触が、魔法剣越しに伝わってきた。


「がはっ!!」


 血を吐き出したのは、アルデラの部屋で暴れていた魔狼族――ベガラスクに相違なかった。


「ベガラスク!!」


 後ろの魔王が悲鳴を上げる。


「ご心配なく、かすり傷です」


 魔法剣がぶっ刺さってかすり傷も何もないだろう。

 しかし、ベガラスクの目は溌剌としていた。

 急所を外したとはいえ、表情は敵意に燃えている。


「貴様ッッッッッ!!」


 アルデラを睨んだ。

 小さく悲鳴を上げる。

 反射的に足を引いた。

 何か硬いものに当たる。

 壁を背にしたのかと思えばそうではない。

 振り返ると、赤い髪の人鬼族が、ベガラスクと同じく殺意を漲らせて、アルデラを睨んでいた。


 魔王が放つ“死”に比べれば可愛いものだが、その凄みは歴戦の勇者すら立っていられないほど強力なものだった。


 両魔族は明らかに猛っていた。


「おいおい。お前……。なんてことしてくれてるんだ? そいつは一番やっちゃいけないだろう。オレ様たちの王様に斬りかかるなんてよ」


 人鬼族の手が伸びる。

 その顔面を掴むと、軽々持ち上げた。

 頭蓋骨が軋みを上げる。

 今にも、脳漿が弾け飛びそうなほどの痛みに襲われ、アルデラの集中力が奪われた。握っていた魔法剣の光が、すっと消える。


 殺される――。


 はっきりと確信した時、その澄んだ声はアルデラの聴覚を酔わせた。


「お止めなさい、2人とも」


 魔王直々に猛狂う魔族を諫める。


「事態を把握できていませんが、ともかく止めなさい。その者は悪くありません。ただわたくしを見て、びっくりしただけです」


「ですが、魔王様」


 ベガラスクは食い下がる。

 だが、たちまち魔王の眼光によって圧殺された。


「わたくしの言うことが聞けませんか?」


「――――ッ!」


「ザガスも離すのです」


 ベガラスクほど動揺しなかったが、ザガスと呼ばれた魔狼族は、大人しくアルデラを床に降ろした。

 顔の輪郭が歪むほどの痛みから解放され、アルデラは真っ先に自分の頬骨の辺りをさする。

 すると、魔王本人が側に来て、尋ねた。


「大丈夫ですか?」


 魔王は小首を傾げる。

 その金色の瞳を、再びアルデラに向けた。


「うっ――――」


 少女のように純粋な眼差しであった。

 思わずアルデラは頬を赤くする。

 魔王自身が何か処置をしたのだろうか。

 先ほどよりも恐怖感はない。

 しかし、うっとりする魅力は依然として放ち続けていた。


「申し訳ありません、人間の方。わたくしの部下が失礼なことを」


「い、いえ……。あの――――」


「はい。そうです。わたくしの名前はゼラムス。魔王ゼラムスです」


 胸に手を置き、魔王ゼラムスはにこやかに挨拶するのだった。



 ◆◇◆◇◆



 ロイスと分かれ、アルデラはあてがわれた官舎に戻っていた。

 明日、早速前線軍が待つ旧魔族領へと旅立つ。

 北方のアズバライト教の領地を経由して帰還することになるから、遠回りになるため30日以上の旅程になるだろう。

 停戦合意はなされたが、魔族との緊張状態は続く。

 何よりも与えられた3年の間に、魔族以上の戦力増強策を考えなければならない。


 でなければ、人類は詰む――。


 相手はヴァロウ……。

 彼以上の策を考えなければ成らない。

 そのためには一刻も早く前線に戻るべきだと考えた。


 だが、いまだ迷いはある。

 魔族軍にはヴァロウがいる。

 いや、それ以上にあの魔王はあまりに強大だ。


「人類は本当に勝てるのだろうか……」


 今でも、あの恐怖が忘れられない。

 触れるだけで、何かとんでもないことが起こるのではないか。

 そんな危うさを、アルデラはあの娼婦のような女から感じ取っていた。


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飯モノ好きと残念ヒロイン好きにはたまらない一品ですので、

是非ご賞味下さい。


次回更新ですが、ちょっと間隔が空きます。

次章は雪中戦の予定なのですが、なかなかプロットが決まらず……。

いまだ0文字といったところです。

別個の部隊運用をして、それぞれ隊長を整備し、合戦を動かしていくというのは、

なかなか骨のいる作業でして。戦記物の難しさを痛感しております。

読者の皆様に満足いただくように鋭意進行中ですので、

誠に申し訳ないのですが、いましばらくお待ち下さい。



追伸

Webの感想とか、書籍の感想とか貰えると、ちょっと早くなるかもです。

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