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【WEB版】叛逆のヴァロウ ~上級貴族に謀殺された軍師は魔王の副官に転生し、復讐を誓う~  作者: 延野正行
13章 停戦交渉編

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第134話 ベガラスクvsザガス

書籍発売まで、あと3日となりました。

本で紡がれる第六師団と、ヴァロウの復讐譚を是非ご覧下さい。

 ザガスの声がアルデラの滞在する客室に響く。

 寝具に、机。革張りの椅子と絨毯。

 小さなクローゼットとささやかな調度品。


 簡素と言って差し支えない。

 必要最低限の物が置かれた部屋である。


 だが、そこは今まさに戦場になろうとしていた。


 ザガス、そしてその前に対峙するのは第四師団師団長ベガラスク。

 魔王の副官にして、魔狼族を束ねる長である。

 その殺気が盛り上がっていく。

 と同時に、まだ下にだらんと垂らした指先の爪が、徐々に伸びていった。


 ベガラスクは獰猛な牙を見せつけるように吠える。


「ザガス……。ふざけるのも大概にしろ!」


 殺気を固めて作ったような声が、空気を切り裂いていく。

 対して、ザガスは余裕だった。

 まるで飴玉でもなめたかのように、舌で唇を撫でる。


「ふざけてなんかいねぇよ。なんなら、もう1度言ってやろうか。あんたと戦えるなら、オレ様は意地でもこいつを渡さねぇ」


「ぐおおおおおおおおおおおおおお!!」


 ついに狼の吠声が弾けるのだった。




 さしもの前線軍総司令官アルデラの顔も青くなった。


「(これが魔族同士の戦いか……)」


 むろん、アルデラは何度か魔族と戦っている。

 指揮官としても一兵士としてもだ。

 その時は、側に仲間がいた。

 ヴァロウ、ロイスがいたのだ。


 だが、1人になってみてようやくわかった。


 魔族の恐ろしさが……。

 うちに秘められた人間とはまた違った純粋な殺意の塊。

 殺すといえば、確実に殺し。

 死ねといえば、生命活動が止まるまで食い合う。


 そんなひどく純然とした戦いが、今繰り広げられようとしていた。


「(はあ……。やれやれ……。僕はこういう時、どうしたらいいのかね?)」


 敵同士が人類の前で戦っている。

 これが通常の戦場であるなら、アルデラは間違いなく付け入ったであろう。

 だが、ここは戦場でもなければ、戦う場ですらない。


 敵地のど真ん中で、単なる客室なのだ。


「(特等席にも程があるよね……)」


 こっそりアルデラはザガスの方を見る。


 ここは大人しくザガスの奮戦を期待するしかない。

 だが、この戦闘狂も人類に対してあまりいい印象を持っていないようだ。

 魔族なのだから当然ではあるのだが、戦い終わった後の興奮を鎮めることができず、その凶爪(きょうそう)がアルデラに向けられる可能性はゼロではない。


 だらかといって、ベガラスクの陣営にほいほいと首を差し出す気にもならなかった。


 結果、アルデラが出した答えは――。


「(隙を見て逃げる――が正解かもしれないね)」


 覚悟を決めるのだった。




 ベガラスクの気合いが、部屋を一閃する。

 その吠声を浴びても、ザガスの顔から笑みは消えない。

 口端を一層釣り上げ、子どものように笑った。


「ぬはははは! いい感じだ、ベガラスクの旦那」


「なにぃ?」


「オレ様はよぉ。昔っから、あんたとやってみたかったんだ!」


 瞬間、客室の絨毯が捲り上がった。

 虚を衝くとかそういうことは一切ない。

 ザガスが絨毯を蹴った瞬間、その風圧で捲り上がったのである。


 先制したのはザガスだった。

 武器も何も持たない。

 加えて、ベガラスクのように獰猛な爪もない。

 裸一貫で突っ込んでいく。


 だが、ベガラスクはこの動きを読んでいた。

 己の爪を最大限に伸ばす。

 迫ってきたザガスにカウンターを合わせるように爪を振るった。


 空気を掻きむしるような鋭い爪撃(そうげき)を繰り出す。

 対してザガスはその斬撃に突っ込んだ。

 躱したわけでも、防御姿勢を取ったわけでもない。


 人間なら確実に命を削り取るような爪撃を諸に食らったのだ。


 サッと鮮血が散る。


 だが――。


「浅い!!」


 思わずアルデラは叫んだ。


 ただ浅いのではない。

 間合い十分だった。

 確実にザガスの肉を十分そぎ落とすことができただろう。


 しかし、ザガスの肉体がそれを阻んだ。

 まるで鉄のように弾き、ベガラスクの爪撃を拒む。


「ぬぅ!!」


 さしものベガラスクも唸る。

 まさか目の前の人鬼族にこれほどの防御力が秘められているとは、予想外だったのだろう。


 だが、さすが若いながら魔狼族の長に登り詰めるだけはある。

 すぐに切り替えて、二撃目を放つ。

 間合いの内に入ってきたザガスを迎撃しようとした。


「おっと!!」


 ザガスは自分の身に降り注いだ二撃目を受け止める。

 爪ごとだ(ヽヽヽヽ)


「ぐっ!」


 力を入れて逃れようとするベガラスクだが、動けない。

 たまらずもう片方の凶爪を放つ。

 しかし、それもベガラスクに止められた。


 互いの指を絡め、力比べが始まる。


「おいおい。どうした、旦那。いいのか? スピードがあんたの自慢だろ? 止まっちまったら、折角の長所が活かせないんじゃないのか?」


 ザガスは笑う。


 あっ、と口を開けたのは、両者の戦いを見ていたアルデラだった。


「(このザガスという人鬼……。好戦的だが、戦い方を知っている)」


 魔族を構成する各種族の特徴は、アルデラの膨大な知識にきっちりと入力されている。


 魔狼族の長所は類い稀な速度と敏捷性だ。

 それ故に攪乱やその制圧力に定評がある。

 だが、ここは狭い空間だ。

 いくら敵を攪乱できるほどの速度を持っていても、自ずと動く方向が限定される。

 つまり、魔狼族の長所が活かせないのだ。


 ザガスはそれを知って先に仕掛けた。

 しかも躱すのでもなく、防御するわけでもない。

 あえて相手の攻撃を受けたのもベガラスクを逃がさないためだ。


「(組んでしまえば、人鬼族の土俵だ)」


 人鬼族の長所は耐久力と他の大型種族と遜色のない膂力である。


 決着は最初にザガスが仕掛けた時から決まっていたのだ。


「うおおおおおおおおおおおお!!」

「ぬおおおおおおおおおおおお!!」


 両者のうなり声が客室の空気を震わせる。

 机の足がガタガタと音を鳴らし、壁にかけていた花瓶が割れた。


 こうなったら後は意地と意地のぶつかり合いだ。


 確かに人鬼族の膂力は凄まじい。

 だからといって、ベガラスクが引くことはなかった。

 渾身の力を込める。

 すると、ザガスの顔が苦悶に歪む。


「やるじゃねぇか。さすがは旦那」


「前から注意しようと思っていたのだがな。その呼び方はやめろ、ザガス」


 ゴンッ!


 痛そうな音が鳴る。

 互いの手だけではなく、額を擦り着けた。

 腕の力だけではなくて、文字通り頭を使った戦いも始まる。


 互いの力は拮抗していた。

 ザガスの有利はこの時点で吹き飛んでいる。

 ベガラスクは魔狼族だが、ただの魔狼族ではない。

 白銀の毛が表すとおり、魔狼族の中でも特異な存在だ。


 力においても、一族の中で追随を許さぬ位置にある。


 かといって、ザガスが引くことはない。

 蒸し風呂に入った後のように汗を掻き、ベガラスクを力だけでねじ伏せようとしていた。

 一時の油断も許されない。

 息と集中と、力が切れればそこで終わりだ。


 だが、決着に時間はかからなかった。


 次第にザガス優勢に傾く。

 ベガラスクが相手をしているのは、単なる人鬼族ではない。

 副官であるヴァロウすら舌を巻くほどの膂力を持ち主なのだ。


「おらああああああああああああああああああああああああああ!!」


 ザガスはベガラスクの腕を捻り上げる。

 ついに「ぼぎぃ!」と骨が鳴る音がした。


「ぎゃあああああああああああああ!!」


 ベガラスクは大口を開けて、悲鳴を上げる。

 ザガスはそのままベガラスクを投げ飛ばした。

 盛大な音を立てて、寝具に突っ込む。

 その弾みでさらに壁に叩きつけられた。


「おのれ!!」


 力比べに負け……。

 骨を折られ……。

 壁に叩きつけられた。


 それでもベガラスクには意識があるのは、さすが副官と言わざる得ない。

 全く戦意は衰えず、ザガスを睨んだ。

 そのザガスも第2ラウンドに向けて、肩を回す。


 その時、ベガラスクの耳がピンと立った。


 戦場に様変わりした客室を見回す。


「待て、ザガス?」


「なんだ? 命乞いか? 悪いけど、今日はオレ様が死ぬまで付き合ってやるぜ」


 殺意と戦意を増幅させる。


「馬鹿者! 周りを見ろ!!」


「周り――? っておい! オレ様を馬鹿にしてるのか、そんな古典的な罠にひっかかるかよ――って、おお?」


 ザガスは周りを見渡す。

 ようやくベガラスクの言いたいことに気付いたのだ。


「おい、旦那」


「ああ……」



 あの人間、どこへ行きやがった……?


1月10日に『ゼロスキルの料理番』2巻が発売されました。

そちらの方も是非ご堪能下さい。

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