第132話 暗躍
とうとう1週間前となりました。
書籍版よろしくお願いします。
新魔王城ゲーディアは地下にあるが故に、夜も昼間もない。
また魔族のほとんどが夜行性で、暗闇を好む。
だから、外が夜になっても、活発に動き回る魔族が多かった。
しかし、中には夜に生活する上で、光源を嫌う種族もいる。
そうした種族の配慮もあって、魔王城は昼間よりも幾分薄暗くなるようになっていた。
その闇に紛れるように1つの影が揺れている。
黒のローブに身を包み、城の地下へと下りていっていた。
気配の断ち方は見事で、夜番のガーゴイルの脇を抜け、種族の中でも位の高い魔族の部屋が連ねる区画に入る。
辺りを窺った後、影は滑り込むようにして、ある部屋の中に入室していった。
「遅かったな」
声にフードを被った侵入者は、びくりと肩を振るわせる。
ゆっくりと振り返ると、蝋燭の火の向こうに、笑みを讃えたダークエルフが座っていた。
滑らかなナイトガウンを着用し、その手には果実酒が入ったグラスが収まっている。
部屋に入ってきた怪しい者を前にして、態度を改めることはなかった。
「ふぅ……」
息を吐くと、フードを取る。
現れたのは、人類側――犬牙族の女騎士だった。
「誰にも見つからなかっただろうな、レイリー」
「心配するな。護衛任務よりも、潜入任務の方が得意でね」
蓮っ葉な声が部屋に響く。
そう。彼女の名前はレイリー・ゴー・レプリガンド。
アルデラの護衛役である。
「お前の主人には、まだ我々の関係を見抜かれていないな」
「主人? ああ、あの変人のことかい。大丈夫だ。想像すらついていないだろうね。魔族と人間が手を結んでいるなんてさ」
レイリーは肩を竦める。
フード付きのローブを側にあった椅子にかけた。
魔法で【鑑定】をし、椅子に何か仕掛けがないことを確認した上で、どっかりと腰掛けた。
そして持ってきた水筒の栓を捻り、喉を潤す。
明らかに目の前の魔族を信用していない所作である。
だが、ダークエルフ――ロドロアンは気にも留めなかった。
話を続ける。
「優秀な指揮官だと聞いているが……」
「噂では私も聞いているが、噂は噂さ。少なくとも私はそうは思わない」
レイリーはムッと顔を顰める。
交渉や、その後の休憩時間において、レイリーは怒ってばかりだった。
そのすべてが打ち合わせにないことばかりだ。
レイリーはアルデラの真意を測りかねていた。
彼の狙いを探るのも、彼女の仕事の1つでもある。
「それで? 危険を冒してまで、今このタイミングで接触した理由はなんだね?」
「確認さ」
「確認?」
「私たちの友情の……」
レイリーは目を細めた。
鋭い青の三白眼が目の前のロドロアンを射貫く。
そのロドロアンはゆっくりと背もたれから身体を持ち上げた。
やや前屈みになるが、その口から漏れてきたのは笑声であった。
「ははははは……。人類と魔族の友情か。面白い表現もあったものだな」
たまらずロドロアンは顔を片手で覆い、引きつった声を上げる。
ヒーヒーと息を切らしながら、革張りの椅子の上で暴れ回った。
「私は真剣に聞いているんだよ」
「わかった。わかったよ、レイリー。心配するな。計画は順調だ」
ロドロアンは余った笑気を吐き出しながらも、答えた。
「ほう……。今日あった襲撃も計画通りか?」
「事前に通達していたはずだぞ。我々の目的は今回の交渉を破断させ、魔王の副官の1人――第六師団師団長ヴァロウの責任を追及し、失脚させることにある。ある程度の演出は必要……。そう話しておいたはずだが」
「ならばそのヴァロウ一派の魔族に、我々が救われたのはお前のシナリオの内か?」
ロドロアンの眉宇はピクリと動く。
ギリッと奥歯を軋ませた。
そこにレイリーが畳みかける。
「お前の計画はすでに、あのヴァロウという副官に漏れているのではないか?」
「だとしたら、どうするつもりだ? 私の首を差し出して、すべてを暴露するか? そうなれば、わかっているのか。お前の任務も完遂できなくなるぞ」
いいのか? 魔王様の首を取れなくても……。
ロドロアンはニヤリと笑う。
まさに悪魔のようにである。
身を乗り出して詰問していたレイリーは、椅子に座り直した。
2人の関係性は、この停戦交渉前から存在した。
ロドロアンの文民派の中には、アズバライト教の信者がいて、その信者を介して人類側に今回のことを持ちかけたのである。
すなわち、ロドロアンは副官の椅子を……。
人類は魔王の首を手にするために――。
実は、人類との停戦交渉がかなり早く進んだ理由は、ここにあった。
「手はずは……」
「整っている。明日には決行できるだろう」
「明日? 随分急だな」
「このかび臭い魔王城にもう少しいたいのなら、明後日でも3日後でも」
「わかった。お前の言うことを信じよう」
レイリーは喉を鳴らし、言葉を飲み込む。
まるで自分に言い聞かせているようだった。
一方、ロドロアンは貼り付いた笑みを引っ込めるわけでもなく、側にあったグラスに果実酒を注いだ。
「我々の友情に……」
ロドロアンはグラスをレイリーに差し出す。
レイリーはしばし不動の構えであったが、最後にはグラスを受け取った。
互いにグラスを掲げると、一気に煽る。
ふーと息を吐いたレイリーは、意外な美酒の発見に驚くのだった。
ちょっと短めだったので、なるべく早めに更新するつもりです。
明後日には『ゼロスキルの料理番2』が発売されます。
異世界チーズフォンデュをどうぞ召し上がり下さい。




