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【WEB版】叛逆のヴァロウ ~上級貴族に謀殺された軍師は魔王の副官に転生し、復讐を誓う~  作者: 延野正行
13章 停戦交渉編

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第131話 刺客

いよいよ1月となりました。

15日には書籍版発売です。

よろしくお願いします。

 ロドロアンは自室で大笑していた。

 側には酒と、娼婦のような恰好をしたサキュバスを侍らしている。

 サキュバスたちはその妖艶な肢体をロドロアンに押しつけていた。

 甘いマスクのロドロアンはそのまま笑い続ける一方で、サキュバスは艶っぽい表情を浮かべつつも、どこか心を許していない――営業的な顔を向ける。

 彼女もまた、ロドロアンに契約を肩代わりしてもらった魔族(どれい)なのだ。


 それも1人ではない。

 複数――ロドロアンの足下に跪き、主人の身体に身を預けている。

 時折、嬌声を上げつつ、主人の喜ぶ反応を続けていた。


 他に魔族がいても、ロドロアンはそのまま言葉を吐き続ける。


「ヴァロウという副官……。大層な智将だそうだが、大したことがないな。自分で自分の墓穴(はかあな)を掘るとは」


 ロドロアンが言いたいのはこうだ。

 仮にヴァロウが停戦期間を釣り上げることに成功したとしても、5年以下となればどっちみち人類に譲歩としたとして、その弱腰姿勢は魔族の反感を買うだろう。

 逆に人類側の領地回復の条件を蹴ったとすれば、旧魔族領を取り返すことができなかったとして、戦犯になる。


 停戦交渉そのものが破談すれば、交渉を提案したヴァロウの責任になってしまう。


 いずれにしろ、ヴァロウは今回の停戦交渉における追及は免れなくなるのだ。


「馬鹿なヤツだ。人間なんかと交渉するからそうなるんだよ」


 だが、ヴァロウに道筋がないわけではない。

 5年という停戦期間の設定と、旧魔族領の領地を回復することができれば、彼は逆に英雄になる。


 ないに等しい確率だが、あの(ヽヽ)ヴァロウである。

 ロドロアンとしては、確実に潰しておきたかった。


「もう一押しだ。もう一押しで、ダークエルフたる私が、魔族の頂点というべき椅子に座れるのだ」


 血のように赤い酒をかざす。

 グラスに映り込んだロドロアンの顔は、醜悪に歪んでいた。



 ◆◇◆◇◆



 突然、レイリーはアルデラを突き飛ばした。

 かつて王国最強の『盾』といわれた彼だが、そのひょろい見た目からもわかるとおり、運動神経自体はあまりよろしくない。


 女騎士――しかも力の強い犬牙族ならば、抗しようもなく、アルデラはたちまち砂にまみれた。

 今日の交渉について議論を交わしていた最中の事である。


 レイリーはぬらりと鞘から剣を抜いた。

 綺麗な刀身が月光を受けて閃く。

 青い三白眼からは、殺意を滲ませていた。


「レイリー……」


 護衛対象を手に掛けようと考えるほど、憤ったのだ。

 少々言葉を選ぶべきだったかな、とアルデラは反省し、髪を掻く。

 だが、向けられたのはアルデラではない。


 レイリーは踵を返し、刃の切っ先を魔王城がある方へ向けた。


「おや……」


 アルデラは首を傾げる。

 さっきまでそこにいた竜人族の護衛兼監視役がいない。

 そう思っていたら、竜人族が地面に倒れているのを見つけた。

 大口を開けて寝ている。


「(睡眠薬かな? いずれにしろ、竜人族を眠らせるなんて大した薬効だ)」


 アルデラは呑気に分析していた。


 その護衛の竜人族の代わりに立っていたのは、フード目深に被った謎の魔族だった。


「何者かな、彼ら?」


 アルデラは戯ける。

 護衛対象の質問を聞いたレイリーが返したのは、殺気と怒気だった。


「知りませんよ。あいつらに聞いて下さい」


「守ってくれるのかい、レイリー」


「危なくなれば、私1人で逃げますよ」


「薄情な護衛だなあ」


「どのみち、この土地は敵地です。2人で生き残るなんて、元より考えていませんので」


「それは君の上司の指示かな?」


「いえ。私ですよ」


 ゆっくりと魔族は近づいてくる。

 当然、魔族故にその身体は大きい。

 それでもローブとフードのおかげで、種族すら確認できなかった。


「1つ訊きたいんだけどね」


 アルデラが尋ねた相手は、レイリーではなく、向かってくる魔族だ。


「君たちがそうやって身体を隠しているということは、この事態は魔族の総意ではない――そう考えて問題ないかな?」


 核心を衝くように話すが、やはり向こうからの返事はない。

 ただ漏れてくるのは、冷たい夜気を固めたような殺気だけだった。


「無駄ですよ、アルデラ殿。こいつらに説得は聞きません。所詮、魔族はケダモノなのです」


「はっきりさせておきたいだけさ」


「下がってください。来ます!!」


「なんとかなりそうかい?」


「望み薄でしょうね」


 種族がわからないが、あの巨躯から考えても、かなりの大物だ。

 通常の戦場ならば、3、4人で飛びかかる相手に、1人で挑むのである。

 勝負なら最初からわかりきっていたし、根性論もここでは形無しだった。


 あと10歩と、謎の魔族は迫る。

 ここまでゆったりと歩いてきた魔族に変化が現れた。

 フードの奥から斧を取り出したのだ。


 ジャッと地面を蹴り、走り出す。

 風圧でフードがめくれた。

 その瞬間現れたのは、青白い顔をした禿頭のオークだ。


 牙を剥きだし、雄叫びでも上げるように口を開ける。

 剣を構えるレイリーに迫った。


 ギィンッ!!


 硬質な音が鳴る。

 ヒュッと空を切ったのは、レイリーが持っていた剣だ。

 焼け野原が残るメッツァーの大地に突き立つ。


「チッ!!」


 レイリーはすぐに懐に隠していた投げナイフを構える。

 投げようとした瞬間、その前に一条の矢が、斧を構えたオークの眉間を刺し貫いた。


 生命力の強いオークはものともしない。

 脳髄の手前で止まった矢を抜くと、けろりとした顔を見せた。

 だが、その余裕が続かない。

 オークの前に、すでに新手が現れていた。


「よぉ……」


 半月の月光の中で、その声は薄暗く響く。

 気付いた時には、オークの頭が1人の人鬼族の手によって掴み上げられていた。

 必死になって、その手から逃れようとするがビクともしない。

 人間が束になってもかなわないオークの膂力を、遥かに上回っていた。


「ちょっと寝てろや、お前」


 掴み上げたオークを空中で振り回す。

 最後に地面に叩きつけた。

 地面が割れ、高いところから砲弾でも落とされたかように大穴が空く。

 当然、オークは失神していた。


「お前は……!」


 レイリーが顔を上げる。

 ちょうど人鬼族と目が合った。

 針金のように硬い赤髪の下で、黒の三白眼が好物を前にした子どものように爛々と輝いている。


「心配すんな。助太刀してやるだけだ」


「僕らの味方ってことでいいんじゃないかな」


 アルデラはホッと息を吐く。


「ま――。そういうことでいい。人間様の正義の味方になるのは癪だがな」


「同感だね。君の顔はどう見ても、悪者だ」


「ちげぇねえ」


 人鬼族はカラカラと笑った。


「(確か……。ザガスと呼んでいたような気がするな)」


 アルデラはその頼もしい背中を見送る。


 一方、ザガスという魔族はグルグルと腕を回した。

 ただそれだけなのに、何か堂に入っている。

 独特の迫力があった。


「さあて……。お前はどうするよ!?」


 黒の三白眼を光らせる。

 それだけで縮み上がって、普通の人間ならその場で動くことすらできないだろう。

 だが、オークは走る。

 斧を持ち、ザガスの方に突っ込んできた。


「勇気があんなあ」


 半ば苦笑しながら、自分を暗殺しようとしたオークを称える。


 ザガスは振り下ろしてきた斧を片手で止めた。

 正確には2本の指だけでだ。


「見事……」


 アルデラは呆気に取られる。

 その技術に、レイリーも魅入られていた。


 オークは手を離す。

 拳を握り、徒手空拳に切り替えた。

 その拳の大きさも、人間の倍ほどある。

 直撃すれば、頭蓋が飛び散るぐらいの破壊力はあるだろう。


 しかし、ザガスはあっさりと受けた。

 オークの拳を掴まえると、そのまま上から握り込む。


「ぐああああああああ!!」


 堪らずオークは悲鳴を上げる。

 引き離そうと、もう片方の拳を突き出す。

 だが、結果は同じだ。

 ザガスに掴まえられてしまった。


「よし! 力比べと行こう――――ぜっ!!」


 ザガスの筋肉が盛り上がる。

 オークも力を入れた。

 しかし、これも結果は最初から見えていた。

 ザガスはオークの腕ごと捻る。

 立ったままの状態から一気に、オークの肩を地面に付けて、無理矢理土下座の姿勢を作り上げた。


「ぶぎぃぃいいいいいぃぃいいぃ!!」


 オークの下品な悲鳴が上がる。


 一瞬の出来事である。


 人間の騎士が1対1ではとても敵わないオークを圧倒した。

 それもただ馬鹿力だけだ。


「終わった?」


 別の靴音が聞こえる。

 夜の闇の中から現れたのは、銀髪を揺らしたメトラであった。

 その手には弓が握られ、腰には矢筒が下がっている。


 どうやら最初の一撃はメトラのようだ。


「他愛もねぇなあ。もうちょっと歯応えがあるヤツとやりてぇぜ」


「そういう問題じゃないでしょ」


 やれやれ、とメトラは首を振る。

 レイリーとアルデラに向き直ると、上品な唇を動かした。


「お怪我はありませんか、アルデラ様」


「え、ええ……。なんとか――」


「申し訳ありません」


「な~に……。想定内ですよ。我々を歓迎しない不穏分子がいることぐらいは」


 アルデラはカラカラと笑う。

 だが、レイリーは違う。

 はじき飛ばされた剣を拾うと、烈火のごとく憤った。


「何を言っているんですか、アルデラ様! 我々は命を狙われたのですよ! これは問題にすべきです。我々にこんなことをして、魔族側は本当にこの交渉を進める気があるのですか?」


 叫び声が闇夜に沈む。

 アルデラはやれやれと頭を掻けば、責任感の強いメトラはやや不安げな顔をする。

 窮地を助けたにもかかわらず、返ってきたのは罵倒だ。

 それに心証をよくしなかったのか、ザガスは眉を動かし、怒りの表情を作った。

 その大口を開けて、反論しようとした瞬間、アルデラが割って入る。


「レイリー……。落ち着きたまえ。交渉を進めたがっているのは魔族側だ。少なくとも、あのヴァロウという副官はそうだろう。我々を殺したいなら、門をくぐった瞬間に小さな勝利に酔いしれているさ」


「しかし、我々が襲われたのは……」


「組織が大きくなればなるほど、一枚岩になるのは難しいことだ。そもそも我々だってそうじゃないか」


「あ、あなたは一体どちらの味方ですか、アルデラ!?」


 とうとうレイリーは護衛対象に向かって激昂する。

 それでもアルデラの反応は変わらない。

 やれやれと首を振って、ようやくお尻を冷たい地面から離し、腰を上げる。


 落ち着きと埃を払い、アルデラはレイリーに向き直った。


「もちろん、人類の味方さ」


 また不敵に笑うのだった。


強者感を纏ったヴァロウと、妖艶なメトラが描かれた表紙は、

下欄よりご覧下さい。


同月発売の『ゼロスキルの料理番2』もよろしくお願いします。

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