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【WEB版】叛逆のヴァロウ ~上級貴族に謀殺された軍師は魔王の副官に転生し、復讐を誓う~  作者: 延野正行
13章 停戦交渉編

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第129話 譲歩案

イメージは別キャラなのだけど、

アルデラのモデルが、ヤンになってしまう。

やはりヤンは偉大だなあ。

 一旦休会となる。


 事情を説明するためとはいえ、人類の兵を一時(いっとき)呪いの支配下に置いたのだ。

 これはちょっとした事件であり、交渉の場としては騒ぎが大きすぎた。


 とりわけ、呪いを受けたレイリーはご立腹だ。

 歯をむき出し、「殺してやる!」と魔族側の交渉役であるヴァロウに言い放つ。

 それをなんとかアルデラがなだめるといった一幕もあった。


「レイリーが落ち着くには、時間が必要だ」


 休会を勧めたのは、アルデラであった。

 ヴァロウは行き過ぎた交渉をきっちりと謝罪した上で、メトラとともに出て行く。

 だが、監視を付けるのだけは忘れない。

 2人の屈強な竜人族が、アルデラとレイリーを見張った。


 ヴァロウは竜人族に釘を刺す。


「変な素振りをしたら、すぐに俺に報告しろ。特に魔法には気を配れ」


「信頼がないねぇ。心配しなくても、レイリーの体内に注射された抗体の成分を、魔法で鑑定したりなんかしないよ」


「…………」


 どうやらアルデラは、ヴォロウの思惑を見抜いていたらしい。


 その成分を突き止められれば、ヴァロウにとっても、魔族にとっても大損害だ。

 だが、こうするしか証明の方法がなかったのも事実である。


 抗体の成分が完全に体内で溶けるまで、約1日かかる。

 彼らが本国に戻った時、どんなに詳しく鑑定したところで、1滴も見つけ出すことはできないはずだ。


 竜人族の監視の中、2人は応接室に残り、深く革張りの椅子に腰掛けた。

 座り直してわかったが、なかなかいい椅子だ。

 テーブルの高さもいい。

 人間の好みを熟知しており、さらに洗練されていた。


 これが魔族のセンスなわけがなかった。


「全く……。相変わらず、素直じゃないなあ」


 アルデラは髪を掻く。

 とぼけた風を装うが、やはりまだその瞳だけは笑っていない。

 やがて横に座ったレイリーに目を向ける。

 さっきからずっと顔を伏せたままなのだ。


「大丈夫かい、レイリー」


 そっと肩に手を伸ばした。

 だが、容赦なく撃ち落とされる。

 若干爪が立っていたせいか、犬に引っかかれたような痣が手の甲に刻まれた。


「余計な気遣いは無用です。申し訳ありません、アルデラ様。呪いを受けたとはいえ、あなたに剣を向けてしまいました」


「驚いた。君はもっと苛烈な性格だと思っていたんだが」


「私はあなたの護衛です。謝罪するのは当然だと思いますが」


「派閥が違ってもかい。君は元々あの人たち(ヽヽヽヽヽ)の派閥からやってきたのだろう?」


 途端、レイリーの目つきが変わる。

 青空を思わせる瞳の色は、刹那にして黒く濁っていった。

 瞼を細め、獲物に狙いを定めるように()めつける。


「知っていらっしゃったんですね」


「君は知らないだろうけど、これでも僕はそれなりに優秀な参謀だったんだ。社交界から身を退いても、あの人たち(ヽヽヽヽヽ)の派手な行動と、その一派のリストぐらいなら、頭に入れてるさ」


 アルデラは側にあったポットに手を掛けた。

 中に入っていたのは、紅茶だ。

 トポトポと音を立て、ポットの側に置かれたカップに注ぐ。

 茶葉のいい香りが、応接室に満ちていった。


 「良い香りだ」と葉を選んだ者のセンスを讃えると、レイリーの目の前にカップを置いた。


 初めに紅茶に口を付けたのは、アルデラである。

 敵が残していったものだというのに、全く遠慮がない。

 しかし、紅茶を含んだ喉から聞こえてきたのは、嗚咽などではなかった。


「毒は含まれていないようだね。まあ、この後に及んで、毒殺なんかしないだろうけど……。飲むといい。気持ちが落ち着くよ」


 レイリーは逡巡したが、何かアルデラに試されているような気分になり、とうとう口を付ける。

 アルデラの言う通り、毒はなかった。

 むしろ魔族が淹れたとは思えぬほど上品な味がする。


「私もあなたのことを存じてますよ」


「そりゃあ、護衛対象だからね」


 アルデラは肩を竦める。


「あなたはおそらくこの中でもっとも魔族(ヽヽヽヽヽヽ)を憎んでいる(ヽヽヽヽヽヽ)


 アルデラの表情が一瞬止まる。

 だが、一瞬は一瞬だった。

 口端がつり上がる。


「……魔族を憎まない人類なんていないさ」


「それでも、あなたの憎悪は筋金入りだ。家族を魔族に殺され、その憎悪を活力にして、ついにリントリッド王国の『盾』と呼ばれるに至った。その実力は、最強の軍師ヴァロウ・ゴズ・ヒューネルに匹敵する――いや、それ以上だという者もいる」


「過分な評価痛み入るね」


「そしてあなたは突然、上司であったヴァロウ・ゴズ・ヒューネルと袂を分かった。それは彼が提唱した魔族との和平案に賛同できなかったからと聞いています。それはそうでしょう。あなたがもっとも憎悪する魔族と手を組むなど、承服できるはずがないですからね。そして、その直後メトラ王女は殺され、首謀者であるヴァロウ・ゴズ・ヒューネルは火刑に処された」


 何かを確認するような口調で、レイリーは懇々と言葉を吐き出し、やがて(くち)を閉じた。


「何か言いたげだね、レイリー」


「話題を出したのは、そっちでしょう。でも、あえて尋ねましょう」



 何故、今回の交渉役を買って出たのですか?



 言葉だけではない。

 レイリーは視線すら刃にして、アルデラに突きつける。

 任務に忠実な護衛対象はそこにはいない。

 まるで暗殺者のように殺気を振りまき、犬牙族の戦士は革張りの椅子に腰掛けていた。


 アルデラは降参とばかりに両手を上げる。


「誰も手を上げなかった――じゃ、ダメかな?」


「候補者が少なかったことは事実ですが、私はあなたが何故自ら立候補したのかを尋ねているのです」


「なるほど」


 ボリボリと音を立て、アルデラは頭皮をいじめる。


「そうだね……。別に他意ないんだ。ただ単に僕は相手がどんな魔族か純粋に知りたいだけだったんだ。敵の懐に潜り込めるチャンスなんて、なかなかないだろうからね」


「それが真意ですか?」


 レイリーは矛を収めようとしない。

 犬牙族の尻尾も耳も立てたままだ。

 その青い瞳も、疑惑に彩られていた。


「本心さ。何せ前線軍総司令官なんて大層な役目を仰せつかったのでね。それとも何かな、君は。僕の口からこう言ってほしいのかな」



 第六師団師団長ヴァロウは、ヴァロウ・ゴズ・ヒューネルの生まれ変わりの可能性がある……とね。



 しばらく互いに睨みあったが、先に破顔したのはレイリーの方だった。


「そんな馬鹿な……。誇大妄想も甚だしい。それに私は輪廻転生を信じません。死ねば、ただそれだけです」


「宗教や神を信じない犬牙族らしい答えだね」


 アルデラはカラカラと笑う。

 今一度紅茶に口を付けた。

 冷めていたが、飲みやすい温度だ。

 それを一気に腹の中に流し込む。


 そして、手を打つようにカップを皿に戻した。


「僕からも1つ聞きたいことがある。君は僕の敵かな、味方かな」


「はっきり答えましょう。どちらもです」


「なるほど……。これはなかなか骨の折れる交渉になりそうだね。ならば、1つ忠告だ」


「忠告……?」


「大人しくしていることだ。大人しくしていれば、君は死ぬことはないよ」


 そしてアルデラは革張りの椅子に深く腰掛ける。

 瞼を閉じた後、10分後再開だと言い残して、自分はそのまま寝入ってしまった。



 ◆◇◆◇◆



 宣言通り、10分後に交渉は再開された。

 アルデラはうんと背筋を伸ばす。

 ヴァロウたちが入ってきた時には、眠気を払い、リラックスした状態だった。


「先ほどは失礼した、ヴァロウ殿」


 初手謝罪から始める。


「いや、非は俺の方にある。こちらこそ申し訳ない」


 ヴァロウは軽く頭を下げた。

 魔族の行動を見て、アルデラとレイリーは目を合わせる。

 まさか頭を下げられるとは思ってもみなかったからだ。


 魔族の習慣、その生態に興味が尽きないが、アルデラたちには仕事がある。

 この交渉を成功させる。

 それがアルデラの今の仕事だ。


 アルデラは今一度、自分の中にある感情を鞘に収める。

 やがて前を向き、ヴァロウの頭の中を覗く。


 相手は呪いの抗体を交渉のテーブルに載せてきた。

 これは何としても受けたい。

 停戦は間違いなく受け入れなければならない。

 それに停戦は何も魔族側だけに利があるわけではなく、人類側にもある。


 おそらく魔族側もわかっている。

 人類に利があるのを見越し、仲介人にアズバライト教の神官まで巻き込んだ。


「(完全に向こうのペースなんだよね。まるで――)」



 あいつの下で働いていた時のように、手の平の上で踊っているかのようだよ。



 アルデラは皆にわからない程度に、息を吐く。


「(やられっぱなしというのは、王国最強の『盾』の名折れだね。やはり少しかき回してみるか。何より、魔族の言葉をただ鵜呑みにするのも、僕の主義に反する)」


 前言撤回……。


 萌葱色の瞳が怪しく光る。

 やがて、その視線を手元に書き写したメモに落とした。

 これまで用件を纏めたものだ。


「(問題は長すぎるということだ。時間がほしいのは人類ではなく、魔族の方だろう。疲弊しているのは、どちらかと言えば魔族の方だからね。となると、僕の仕事はこの停戦期間を短縮させることと、確実に呪いの抗体の精製方法を聞き出すことだ)」


 メモから顔を上げたアルデラは、こう切り出した。


「1つこちらから提案したいのだが、いいかな、ヴァロウ殿」


「ああ……」


「あなたの停戦交渉はとても魅惑的だ。呪いの抗体の精製方法と引き替えであれば、本国にいる頭の硬い方たちもきっと納得するだろう。ただ問題は期間だ。捕虜の受け渡しが建前とは言え、さすがに5年は少々長すぎる。だから、停戦期間を2年にはできないだろうか? それだけの時間があれば、十分捕虜の受け渡しはかなうはずだよ」


 ヴァロウは即答しなかった。

 ただ眉間に皺を寄せる。

 それだけで、彼が難色を示したのはわかった。


 緊迫した空気の螺子を緩めるように、アルデラは軽やかな笑みを浮かべる。


「勿論、タダとは言わないよ。もし、この停戦期間を短くしてくれるなら、僕たちからも1つ譲歩案(プレゼント)を提供しよう」


譲歩案(プレゼント)?」


「ああ……。もし、停戦交渉を2年で飲んでくれるなら……」



 現在、前線軍が統治する西側の領地から、僕たちは撤退しよう。



 ヴァロウの眉がピクリと動く。

 側のメトラも「あっ」と声を上げた。


 しかし、1番驚いたのは、レイリーだ。

 椅子を蹴飛ばさん勢いで立ち上がる。

 先ほどの呪いを受けた直後のように、その目を血走らせた。


「アルデラ殿! あなたは一体何を言っているのです! 正気ですか?!」


 詰問した。

 しかし、アルデラはその反応を楽しむように萌葱色の瞳を光らせる。


「正気さ。前線軍は撤退する」


 断言するのだった。


1月15日サーガフォレスト様より書籍版が発売されます。

いよいよ表紙が発表されました。


紅に染まる怪しい月。

その中で一際輝く、ヘーゼル色の瞳。

世界を我が物にせんとする開かれた左手。


そして側に侍る魅惑のサキュバス。


人類に裏切られた軍師が、魔王の副官となり、間違った世界を正す異世界戦記ファンタジー。


邪道に落ちながらも、正道を進む『叛逆者』ヴァロウの活躍をどうぞご期待下さい!!


表紙は下欄の方でも見ることができますよ。

よろしくお願いします。

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