第125話 恩賞
後書きに大事なお知らせがございます。
最後までお楽しみいただければ幸いです。
ヴァロウは自分の執務室に辿り着く。
両扉が開くと、中で待ち構えていた部下たちが一斉に頭を垂れた。
『お帰りなさいませ、ヴァロウ様』
声を揃える。
商人ペイベロ。
海の魔物ウルリカ。
ドワーフ族の娘アルパヤである。
それぞれには、第六師団の中で役職が与えられていた。
財務・経済担当のペイベロ。
海上防衛兼食糧調達担当のウルリカ。
科学・土木担当のアルパヤという陣容である。
そこにさらに、補佐官メトラ。
武将ザガス。
参謀兼竜騎士部隊隊長ルミルラ。
そして、ルロイゼン城塞都市に残るその領主代行エスカリナだ。
ヴァロウは執務室の椅子に腰掛ける。
6人の幹部が整列した。
思えば、最初はメトラと2人だけだった。
そこにザガスが加わり、難攻不落のルロイゼン城塞都市を落とし、旧同盟領を手に入れたことによって、さらに倍の幹部が揃った。
今やヴァロウの下には、7人の幹部がいる。
数こそ少ない第六師団だが、そのどれもが分野に秀でた専門家たちばかりだった。
むろん、ヴァロウは満足していない。
油断もしていなかった。
自分が理想とする第六師団からは、まだまだ程遠い。
今後も、精力的に師団の数を増やすことを考えなければならなかった。
そのヴァロウは執務室に入って、開口一番に言い放つ。
「ペイベロ、今回はよくやってくれた。お前が本国国内で呪いの武器を流通させたおかげで、一兵も死なせることなく勝利できた。俺にできる幅は少ないが、恩賞を取らせる。何か望みはあるか?」
おお、と執務室がどよめく。
怜悧冷徹なヴァロウではあるが、恩賞を出し惜しみすることはしない。
事実、新魔王城ディーバの築城に尽力したアルパヤには、彼女が望んでいる魔導人馬型兵器キラビムの予算を付けた。
こうした恩賞が、部下のやる気を引き出させていた。
「商売をさせていただくことが、一番の恩賞ですので特にはありません。ただ――最近、魔族と商売することに興味を持つ商人が現れました」
「魔族と商売……? ペイベロ、あなたの正体がバレているのではありませんか?」
メトラは眉間に皺を寄せて、詰問する。
ペイベロは肩を竦めた。
「それはとっくの昔にですよ、メトラ様」
「な――――」
「ですが、こうして普通に商売ができているでしょ? 私が魔族に荷を卸しているとわかって、商売しているんですよ、その商人たちは」
「なるほどな」
ヴァロウは机を指で叩きながら、1人納得した。
「本国は今や戦費が重なり、不景気だ。加えて、大要塞同盟という上得意がなくなり、さらに前線軍と分断されたことによって、そっちに武器を卸せなくなってしまった。二重、いや三重苦というわけか」
「さすがのご慧眼ですな、ヴァロウ様。それならば、魔族と商売した方がいいと考える商人も少なくない。命さえ保障してもらえるなら、恭順すると申す者もいるほどです」
ヴァロウは少し考える。
その横で、やはり浮かない顔をしているのは、メトラだった。
「危険ではありませんか。本国から呪いの武器を送る可能性も。……食べ物とて、安心して食べられませんよ」
「商品の品目を絞られてはいかがでしょうか? さしあたって、材木とか」
ヴァロウは口角を上げる。
「ふん。ペイベロ……。商人の話をしたり、本国の景気の話をしていたが、要は最初から木材を魔族に売りつけたかったのだろう」
「ははは……。バレましたか」
ペイベロはペロリと舌を出す。
すると、ルミルラが肩を竦めた。
「魔族に売った材木のうち、あなたの懐にいくら入るんです? ペイベロさん」
「まさかあなた! 賄賂を!!」
「メトラ様。賄賂なんて人聞きの悪い。ただ魔族と商売するのに、許可証を発行しているだけですよ」
メトラはカンカンだ。
人類側から木材を売らせて、ペイベロはその一部を懐に入れようとしていたのだ。
「良い。ペイベロの商売には口を出さない。それが最初の約束だからな」
「覚えていただけていて、光栄の至りです」
やや演技っぽく、ペイベロは恭しく頭を下げた。
「しかし、ヴァロウ様」
「影でこそこそ金を摘まむようなら、それは賄賂と言えるだろうが、上司の前で堂々と賄賂と認めたならば、それは賄賂とは言えない。許可証云々も、商売の方法としては間違っていないのだからな」
「ご理解いただき重ねて感謝申し上げます」
「しかし、ペイベロ。そんなに金を貯めてどうするのだ? 他にも俺の知らないところで、金を貯め込んでいるのだろう。なのに、散財しているようにも思えないが……」
「貯めるだけ貯めて、大きく使うのが私の信条でして」
「ならば、何を買う気だ?」
「さしずめ旧同盟領をすべていただくというのはどうでしょうか?」
「あなた、何を言っているの??」
メトラは慌てた。
さっきから怒りっぱなしだ。
元王女はふーふーと猫のように息を吐き出した。
一方、ヴァロウは口角を上げる。
メトラと違って、少し楽しんでいるようだった。
「さすがに、旧同盟領を売ることはできないな」
「ならば、値札が付くまでお待ちしますよ」
「ふん。忍耐強いな。お前は商人より、政治家の方が向いてそうだ」
ヴァロウはペイベロを下がらせる。
勿論、彼の提案は了解した。
魔族側から見ても、メリットが大きいからである。
「ペイベロさん、ありがと」
列に戻ってきたペイベロに、そっと耳打ちしたのはアルパヤだった。
実は、材木を1番欲しがっていたのは土木担当のアルパヤなのだ。
現在、旧同盟領は建材が圧倒的に不足していた。
ルロイゼン城塞都市及び疲弊した各都市の復旧、新魔王城ディーバも一部未完成である。
それを指揮するのが、アルパヤ率いるドワーフたちだ。
だが、通常の土木や建築に加え、建材の入手、加工まで行うには、さすがのドワーフたちも手が回らない。
困っていたアルパヤに、ペイベロが手を差し伸べたというわけだ。
むろん、ヴァロウも気付いている。
だからこそ、了承したのだ。
「礼には及びません。私としても、良い商売ができたので」
いい顔で微笑むと、ペイベロはぐっと親指を立てた。
その表情を見ながら、アルパヤも控えめに親指を立てる。
すると、声が聞こえた。
「アルパヤ」
「は、はひぃ!」
ヴァロウが呼ぶ声が聞いて、アルパヤは背筋を伸ばす。
「ご、ごめんなさい。復旧が遅れてて。建材が届いたら、すぐに――」
アルパヤは頭を上げる。
「別にその件は謝らなくていい。建材を十分に確保できてなかったのは、俺の落ち度だ。その件は、ペイベロと一緒にうまくやれ」
「う、うん……。じゃなかった、はい。ヴァロウ様」
「それよりもだ。キラビムの進捗はどうなってる?」
「あ。それはもうすぐだよ」
アルパヤの目が光る。
先ほどまで作業進捗の遅れを気にしていたドワーフの姿は影を潜めてしまった。
「わかった。追加の仕様を送る。あと、1ヶ月でなんとかしてくれ」
「い、1ヶ月?」
恐る恐るヴァロウから提出された書類を受け取る。
その場で目を通すと、たちまちアルパヤの顔から血の気が引いていった。
「か、寒冷地……仕様……」
「次の戦さが寒いところになりそうだからな。それを逃せば、実戦投入は数年先になる。お前としても、そろそろ実戦でデータを取りたいところだろう」
「そ、それはそうだけど……。1ヶ月っていうのは……」
「無理か?」
ヘーゼル色の瞳が光る。
アルパヤは思わず「いひぃ!」と変な悲鳴を上げてしまった。
「が、頑張るよ……」
ついにはがっくりと項垂れる。
一方、戦さの話を聞いて、色めきだったのはザガスだ。
「戦さか! 今度はオレ様をワクワクさせてくれるんだろうな、ヴァロウ」
「それは相手に言ってくれ。向こうの陣容がわからなければ、俺も答えようがない」
「私からもいいですか、ヴァロウ様」
手を上げたのは、ルミルラである。
「戦さをするのは構いませんが、もう少し戦力を増やすことはできませんか。たとえば、また第四師団を共闘するとか」
「第四師団との契約は、旧同盟領を攻略するまでだ。それに、今ベガラスクが俺たちに加勢してくれる公算は薄い」
「先ほどの文民派ですね」
ルミルラは眉間に皺を寄せる。
「ちょっと見損ないました。ベガラスクさんは、ああいう手合いとは手を結ばないと思っていたので。もっと直上的な魔族かと」
「ヤツにも色々あるのだろう。さて、メトラ。お前に頼みがある。ルミルラとともに、ある人間を連れてきてほしい」
「私とルミルラでですか?」
「今、人間と仰いましたね。いいんですか? 魔王城に人間を招いて」
「構わん。そもそもそいつは、魔族に危害を加えるような者ではない」
「一体、誰ですか、ヴァロウ様?」
メトラが尋ねる。
再びヘーゼル色の瞳が光った。
アズバライト教の神官を連れてきてくれ。
ご許可いただきましたので、ご報告申し上げます。
この度、『上級貴族様に虐げられたので、魔王の副官に転生し復讐することにしました』が、
『叛逆のヴァロウ ~上級貴族に謀殺された軍師は魔王の副官に転生し、復讐を誓う』
と改題されまして、サーガフォレスト様より1月15日に発売することが決定いたしました。
イラストは『シャバの「普通」は難しい』シリーズの村カルキ先生に担当いただきました。
近いうちに、表紙の方も発表できると思います。
村先生の独創的で、耽美な『叛逆のヴァロウ』の世界をどうぞ楽しみ!!
内容の方もさらにパワーアップしておりますので、そちらも是非チェックしてくださいね。
そして、かねてより予告しておりましたが、
書籍化に伴い、タイトルを上記の内容に変更させていただきます。
次回更新予定日である12月19日には変更させていただきますので、
ご理解のほどよろしくお願いします。
こうしてまた書籍化することができたのは、
読者の皆様のおかげです。
末永いシリーズにしたいと思いますので、
書籍版の方もどうぞよろしくお願いします。




