エピローグ Ⅱ(後編)
第3部完結です!
令和2年1月15日に書籍版発売です。
Web版ともどもよろしくお願いします。
向かったのはメッツァー城塞都市の中心。
王宮ブロワードが建っていた場所である。
そこはメッツァー城塞都市で大暴れした巨竜が出てきた場所で、1番ひどい被害を受けていたのだが、瓦礫は見事に撤去され、いつの間にか真四角の神殿が鎮座していた。
平たい石を積んだ神殿はかなり不気味だ。
それに建物というよりは、何かを蓋しているような雰囲気があった。
「城というわけではなさそうだな」
ドラゴランが長い首を動かし、石造りの神殿を見つめる。
その側でベガラスクが激昂した。
「おい、ヴァロウ! まさか魔王様をここに移り住んでもらうわけではないだろうな。こんな場所に住むぐらいなら、シュインツの領主館の方がよっぽどマシだぞ」
「そのまさかだ、ベガラスク。お前、なかなか勘が良くなったな」
ヴァロウは褒めるが、ベガラスクは気にくわなかったようだ。
徐々に力を認めてきてはいるものの、ベガラスクにとってヴァロウとはやはり最大のライバルなのであろう。
飛びかかることこそなかったが、闘志と歯牙をむき出し、言葉で噛みついた。
「魔王様は劣勢の我らのために、危険を推してここまでやって来てくれたのだぞ。にも関わらず、その寝所がこんな粗末な場所でいいのかとオレは問うているのだ」
「ほっ! なかなかベガラスクのヤツめ。正論を言いおるわ」
ドラゴランは感心した。
若い魔族の成長ぶりに、目を細める。
そうは言っても、ベガラスクの怒りは収まらない。
まるで親の仇でも見るように、ヴァロウを威嚇した。
すると、ヴァロウはベガラスクを無視し、魔王ゼラムスに向かって頭を下げる。
「ご心配なくゼラムス様。この建物は言わば、カモフラージュです」
「カモフラージュ?」
「今から、この者が魔王様を次の居城にご案内します」
ヴァロウが紹介したのは、くすんだ灰色の髪をしたドワーフの少女だった。
紹介されると、ドワーフの少女は慌てて頭を下げる。
「そう言えば、まだ名前を伺っていませんでしたね」
「あ、あああ……アルパヤと申します。お目にかかれて光栄です、魔王様」
アルパヤは声を上擦らせる。
魔王の前だというのに、その直前までキラビムをいじっていたらしい。
手は油にまみれていた。
機械油の匂いさせたドワーフを前にしても、ゼラムスは眉一つ顰めることはない。
むしろアルパヤに近づき、薄く微笑んだ。
「あなたがアルパヤね。ヴァロウから聞いています。魔導工学を学んでいるとか」
「ま、魔王様が、ボクのことを知っているなんて」
「ええ……。なんでもキラビムという兵器を作っていると」
「は、はい! こここ光栄です! 魔王様に知ってもらっているなんて」
「是非見たいものですね」
「是非是非! 今からでも――――」
「アルパヤ!」
こほん、とヴァロウは咳払いをした。
熱を上げた魔導工学オタクをたしなめる。
顔を真っ赤にしていたアルパヤは、途端にシュンと肩を落とした。
「ヴァロウ……。あまり部下をいじめるものではないですよ」
「いじめてなどおりません。アルパヤ、魔王様にお前の作品を見せるのは後だ。今は案内に徹しろ」
「え? ヴァロウさん、あれを見せていいの?」
「折角、魔王様が興味を示しておられるのだ。後で見てもらうがいい」
「やったー! ありがとう、ヴァロウ」
アルパヤは両手を上げて、子どものように喜んだ。
その姿を見て、ゼラムスは微笑む。
「わたくしはやはり優しいヴァロウが好きですよ」
「他意はありません。隠す物でもないですから」
「ふふふ……」
「まだ何かございますか、魔王様」
「いいえ。なんでも――」
他意がないといえば、嘘になる。
アルパヤが作るキラビムは、今後の戦場を一変させる魔導兵器だ。
それを今見てもらうのは、悪くない。
ゼラムスの心証がよくなれば、予算だって下りるだろう。
とはいえ、今は引っ越してきたばかりだ。
ドライゼル城から持ってきた財宝も、今回の戦さに於ける補修費や、今後必要な戦費を考えれば、雀の涙である。
新兵器と聞こえはいいが、すぐにキラビムの予算が付くとは思ってはいなかった。
アルパヤを先頭にして一行は、神殿の中へと入っていく。
しかし、だだっ広い空間が広がるだけで、本当に何もない。
魔狼族のベガラスクが、しきりに鼻を利かせるが、特にこれといったものはなかった。
奥までやってくると、アルパヤは宝石を掲げる。
宝石に魔力を込めた途端、ぼうと光り始めた。
魔力に反応して、特定の魔法や魔導機関を動かすことができる魔導石である。
すると、目の前の床が起動音を立て、動き出す。
現れたのは、地下への階段だ。
「地下だと?」
「まさか――」
ドラゴランとベガラスクは同時に息を呑んだ。
ゼラムスも驚きを隠せない。
口を開けたまま呆然としていた。
「どうぞ。足下にお気を付けください」
アルパヤは別の魔導石を掲げる。
眩い光が溢れ、一行の足下を照らした。
やがてヴァロウたちの眼前に現れたのは、巨大な空間であった。
「これは!」
「やはり!」
「すごい!」
魔王と、それに連なる副官たちが揃って息を呑んだ。
付いてきたメトラとザガス、ルミルラも目を丸くしている。
冷静な顔をしていたのは、案内役のアルパヤとヴァロウだけだった。
城だ。
正確にいえば――。
「そうです。ここは巨大な地下城塞なのです」
「地下!」
「城塞!!」
ドラゴランとベガラスクは叫んだ。
吹き抜けになった卵形の空間。
そこを螺旋階段でつなぎ、各階に分かれている。
房の数は数知れず、しかし身体の大きな巨人族さえ入れるようなものばかりだった。
さすがに地下だけあって薄暗いが、決して地面が見えないわけではない。
それに魔族らしさがあり、また適度に湿度のある環境は、ドラゴランたち竜人族も望むところであった。
「一体、いつからこんな城塞を作っていたのですか?」
ゼラムスも驚きを隠せない様子だ。
吹き抜けになっている欄干に、豊かな胸を押しつけ、さらに地下の方を見つめる。
作業をしているドワーフを見て、軽く手を振ると、ドワーフたちは慌てて頭を下げていた。
「メッツァーを占拠してからほどなく」
「そんな短期間でですか?」
ゼラムスは思わず声を上げた。
仮に他の者に作らせるなら、今この状態にするには、1年以上はかかっただろう。
建築技術に秀でる人間でも、短い工期でこれほどの成果を上げるのは不可能なはずだ。
その疑問に答えたのは、ヴァロウではなく、ドワーフだった。
「そんなに苦労はしていないよ、魔王様。元々メッツァーの地下には、大きな穴が空いててね」
それはメッツァー城塞都市の領主であったボルケーノが、例の巨大飛竜を閉じ込めるために作ったものだ。
あの飛竜が飛び出したおかげで、入口こそ埋まってしまったが、こうして巨大空間だけは残ったのである。
「そこにドワーフお得意の穴掘りの技術を総動員したというわけです」
ヴァロウが話を結んだ。
「よくドワーフが自分の山から離れる決心をしましたね」
「それに関しては、まあ揉めたんだけど、魔王様が住むお城を作るって聞いたら、みんなやる気だしちゃって。ボクも驚いたよ。いつもは穴の中にいるだけで幸せっていうドワーフばかりなのに。妙にはりきっちゃって」
「そうですか……」
ゼラムスには何となく理解ができた。
おそらく罪滅ぼしのつもりなのだろう。
ドワーフ族は1度魔族を裏切っている。
その罪悪感は、アルパヤより年が上になればなるほど強い。
魔王の名を出されては、自分たちの筋を曲げてでも、この新たな魔王城を完成させねばならなかったのだ。
大勢の足音が聞こえる。
一行は振り返ると、城建築に従事するドワーフたちが立っていた。
それぞれ泥だらけの衣服のまま跪き、ゼラムスに頭を垂れる。
ドワーフたちはそのまま姿勢を維持したまま沈黙した。
許しを請うことはない。
口を開くことすら、魔王の前ではおこがましいと思っているのだろう。
強い忠誠心を見せつけ、ただ無言を貫いた。
「皆の者、よくやってくれました」
ゼラムスは微笑み、ドワーフを労う。
「これからも、どうか魔族のためにその技術を振るってください」
それは実質的な許しの言葉だった。
聞いた瞬間、ドワーフの中で咽び泣く声が聞こえる。
ただ黙って、滂沱として涙を流す者もいた。
ドワーフの中にずっとわだかまっていた罪悪感が、ついにここで消え去ったのである。
「良いですね」
ゼラムスはヴァロウたちの方へ振り返る。
ドラゴラン以下、家臣たちは一斉に膝を折った。
ゼラムスがドワーフを許すと言ったのだ。
その言葉を覆すものはいない。
それに彼らはその罪を晴らすほどの大事業を成し遂げたのだ。
初めはドワーフを許さないと息巻いたベガラスクですら、反論することなく、大人しくゼラムスの言葉に従った。
「さて、ヴァロウ。城、兵ともに揃いました。これからどうしますか? 意見を申しなさい」
「恐れながら、魔王様。まずは内政の充実を図ることが肝要かと」
ヴァロウは言われるまま答えた。
懸念を示したのはドラゴランである。
「なんだ? このまま人類の支配圏に討って出ると思っておったが」
「それも悪くはありませんが、ドライゼル城とは違って、この旧同盟領は守るにあまり適しておりません。加えて、敵に挟まれた状態にあります。まずは、各地の城塞都市を整理し、防御網を敷くことが重要だと思います」
「しかし、その間に人間が攻めてくる可能性はあるぞ」
「それはございません」
ヴァロウとは別の声が響く。
口を挟んだのは、ルミルラだった。
「恐れながら、敵は今回10万近くの兵を投入し、8万近くの兵を失いました。加えて、総司令官ダレマイルは討ち死に……。この損害は大きく、おそらくしばらくは大きな戦さはないと思われます」
「領主の横暴によって、地方は疲弊しております。現状、8万の兵をかき集めるのは、多少時間がかかるかと……」
「なるほど。よくわかりました。――しかし、ヴァロウ」
「はっ」
「あなたにしては、大人しい気がするのですが」
ゼラムスは目を細める。
すると、頭を垂れたヴァロウは一瞬口端を釣り上げた。
自らの意志で顔を上げる。
そして、己の手の平を掲げた。
「ご心配なく、次なる手は考えております」
すべては我が手の平の上です。
その言葉は力強く、新たな魔王城に響き渡るのだった。
さて第4部ですが、鋭意制作中です。
今までずっと人類軍が相手でしたが、次は内部の敵にスポットを当てていこうと思っておりますので、
どうぞお楽しみに!
そしていよいよ明日に迫りました!
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ご興味ある方は是非よろしくお願いします。
この作品を弾みにして、
来年発売予定の『上級貴族様に虐げられたので、魔王の副官に転生し復讐することにしました』を盛り上げていきたいと思っておりますので、両作品ともお手にとっていただければ幸いです。
重ねてよろしくお願い申し上げます。




