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【WEB版】叛逆のヴァロウ ~上級貴族に謀殺された軍師は魔王の副官に転生し、復讐を誓う~  作者: 延野正行
11章 旧同盟領攻防決着編

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第112話 謀略の犯人

「この辺りのはずですが……」


 メトラは辺りを見渡した。

 背中から白黒の翼を広げ、薄い煙が覆う空を滑空している。

 その胸元に抱かれていたのは、ヴァロウだ。

 メトラの首もとに腕を回し、同じく周囲を窺っている。


 2人は戦場を離れ、ルロイゼン城塞都市の北に広がる森で何かを探していた。


 辺りを見回しながら、ヴァロウはヘーゼル色の瞳をメトラの方へ向ける。


「すまないな。付き合わせてしまって」


「大丈夫です、ヴァロウ様。これぐらいどうってことありません」


「重くないか?」


「それは……。確かにそうなのですが……」


「では――――」


「幸せな重さといいましょうか」


「幸せの重さ?」


 ヴァロウは首を傾げる。

 一方、メトラは自分が口走ってしまった詩的な表現に戸惑いを見せた。

 頬が赤くなっていく。


「その……60日以上会えなかったのが、その…………」


「寂しかったか」


「…………はい」


「俺もだ……」


「え? それはどういう――――」


 言葉を言い終える前にヴァロウはメトラの口を塞いだ。

 その柔らかな肉厚に、メトラの頭を一瞬にして沸騰する。

 何も考えられず、ただただ身に委ねた。

 そっと舌を出し、甘える。

 ヴァロウはメトラを優しく包むと、一気に盛り上がっていった。


 空の上で、堕天使と悪魔がむつみ合う。


 息を忘れるほど、2人は激しく抱擁を繰り返した。


 やがて離れていく。

 白い糸がぷつりと切れても、2人の紅潮した表情は変わらなかった。


「あ、あの…………。ヴァロウ様、わ、私は――――」


「いい。皆まで言うな」


「えっ……」


「帰ったら続きをしよう」


「…………はい!」


 メトラは笑顔で答える。

 すると、ヴァロウは再び辺りを窺った。


「すまないが、もう少しだけ付き合ってくれ」


「承知しております。――――あっ! ヴァロウ様!!」


 メトラは何かを見つける。

 森の中を指差した。

 ヴァロウは目を凝らす。

 先ほどまで陶酔した顔が一挙に崩れていく。

 冷たいヘーゼル色の瞳を光らせた。


「下ろしてくれ」


「はい……」


 答えるメトラの声も高い。

 徐々に高度を落としていく。

 2人の視界に、大の字で横たわる男の姿が露わになった。





「はあ……。はあ……。はあ……。はあ……」


 荒い息を繰り返し、大きな胸板を上下させている。

 浅黒い肌は真っ黒になり、目は血走っていた。

 最初に見た時には、神々しい光を放っていた翼も折れ、周囲にはその燃えかすものらしきものが広がっている。

 それも森を抜ける風に飛ばされ、虚しく薄暗い空に消えていった。


 ヴァロウとメトラは地上に降り立つ。

 その特徴的な四角い顔を見て、確信した。


「無様だな、ダレマイル」


 顔の側に立ち、見下す。

 これ程近くに立っているのに、ダレマイルからの反撃はない。

 殺気も覇気もない。

 ただ激しく息を繰り返すのみだった。


「お前はもうすぐ死ぬ」


 ヴァロウは死を宣告する。

 すると、上級貴族ダレマイルはようやく反応した。

 ギョロリと目玉を動かす。

 その小さな反抗に対し、ヴァロウは全く無反応だった。

 ただ淡々と真実を告げる。


「どうして? と言いたげだな。あの【雷帝】はルロイゼン城塞都市を守る要などではない。あれは対神族用兵器なのだ」


「――――ッ!」


 ダレマイルの瞼がカッと開く。

 ヴァロウは話を続けた。


「魔族も神族に対する備えをしていたというわけだ。とはいえ、兵器としてはピーキー過ぎるため、ルロイゼンにあるあの1基しか作られていないがな。だが、今魔族は着々と神族に対抗する兵器を開発中だ。お前たち、上級貴族の首を単独で狩ることもいつか叶うだろう」


「ぐっ――――」


 ダレマイルが怒ったのではない。

 全身を動かした瞬間、蛇のように暴れ狂う痛みに嗚咽を上げたのだ。

 顔が醜悪に歪む。

 ヴァロウが同情することはなかったが、すでにその死期が近いことを誘った。


「さて、ダレマイルよ。聞かせてもらおう……」



 メトラ王女を殺害し、俺を罠にはめた犯人を教えろ……。



 冷たい眼光が光る。

 殺意とも恐怖とも違う。

 怨嗟が宿ったヘーゼルの瞳に、ダレマイルは一瞬息をすることを止めた。


「犯人は少なくともお前ではない。上級貴族といえど、お前は尖兵に過ぎない。リントリッド王国に巣くう上級貴族たちの末端だ。――いえ、さもなくば……」


 ヴァロウはダレマイルの手に足をかける。

 ゆっくりと体重をかけていった。


「ぐあああああああああ!!」


 ダレマイルが大きな口を開けて悶える。

 駄々をこねる子どものように巨躯を動かした。

 それでも、ヴァロウはダレマイルの手から足をのけようとはしない。


「どうだ? 【雷帝】と名付けられているが、あれは神すら呪うことのできる呪詛の塊だ。それを浴びれば、身体は蝕まれ、軽く触れるだけで激痛を伴う。お前にはお誂え向きだな。今まで見下してきた人間の痛みを一身に浴びるがいい」


 ヴァロウはさらに体重をかける。


 ダレマイルの悲鳴の音量が上がった。

 鬼の咆哮のように辺りに喚き散らす。

 それでも、ヴァロウの足をどける気力すらないらしい。

 ただただ痛みを享受することしかできなかった。


「い、う…………。は、はんにん…………いう…………。だ、から……たの……む」


 激痛に苛まれる中、ダレマイルは声を振り絞る。


 頼む、お願いだ、と言葉を繰り返した。


 しかし――。

 そうした懇願を上級貴族ダレマイルは黙殺し、実際殺してきた。

 肉体だけではなく、その心すらだ。


 ここで殺してやりたいのは山々だが、生憎とヴァロウには目的が存在した。


 ようやく、ヴァロウはダレマイルの手から足をどかす。

 顎をしゃくり上げ、「話せ」と促した。


「その…………まえ、に……。かいふく…………を…………。この、まま…………はな…………せ……ない」


「図々しいヤツだ。だが、良かろう。少し痛みを和らげるだけなら許可しよう」


 メトラ、とヴァロウは指示を出す。


 メトラは少し複雑な表情で、ダレマイルに回復の魔法を施した。


「これで少しはまともに話せるだろう。さあ――――」


「はあ……。はあ……。お前たちを、はあ……。謀殺した者の、はあ、犯人は――」


 その時だった。

 一陣の突風が森の中を吹き抜ける。

 かと思えば、ヴァロウの前に人の影があった。


「なにっ!!」


「ヴァロウ様!!」


「メトラ! 下がれ!!」


 指示を出す。

 ヴァロウも後ろに下がった。

 次瞬、刃が目の前で閃く。

 生憎と中空を掻いたが、もし留まっていれば、ヴァロウは真っ二つになっていただろう。


「チッ!」


 ヴァロウは思わず舌打ちする。

 もはやここは魔族の勢力圏だ。

 そんな場所で、よもや襲撃があるとは、さしもの軍師も想定していなかった。


 だが、纏う鎧を見た時、ヴァロウは納得する。


「まさか……。本国軍がここにいるとはな」


「おお!」


 ヴァロウ同様、ダレマイルもまた驚いていた。

 その援軍に明るい声を上げる。


「チェッカー!!」


 声を張り上げた。

 自分を救った副官の方を向き、目を細める。


 そこにいたのは、中年の騎士だった。

 騎士の中で小柄な身体ではあったが、その四肢は鍛え上げられている。

 丸い緑の瞳は少年のように純朴であったが、不作法に延びた顎髭のおかげで、年齢以上の印象を他者に持たせていた。


「そうか。シュインツを包囲していた本国軍だな」


 ヴァロウも想定していなかったわけではない。

 援軍としてやってくる可能性が皆無ではなかった。

 だが、そのための対策は簡単だ。

 ルミルラをシュインツから出して、こちらと挟撃すればいい。


 ただ唯一ヴァロウの想定外があるとすれば、この時点でここに本国軍がいることである。


「おお! おお!! チェッカー、助けにきてくれたのか」


 ダレマイルはチェッカーにすがり付く。

 随分と様相が変わったが、その石版のような四角い顔のおかげで、司令官だという認識はあるらしい。


「ご無事ですか、ダレマイル様」


「ああ……! さ、さあ……。あやつを仕留めよ。ヤツが大将首だ!」


「承知しました……。その前に確認があるのですが、ダレマイル様」


「な、なんだ?」


「何も喋っていませんね」


「あ、当たり前だ。私は――――」


 次の瞬間、ダレマイルの首は宙を舞っていた。

 空を望んだ赤黒い瞳は、「何故?」と驚愕に見開く。

 ぼとっと腐った林檎が落ちるような音を立て、ダレマイルの首は地面に転がった。

 どす黒い色が、大地に線を引く。


 一瞬のことである。


 メトラは口元に手を当て、ショックを隠せない。

 一方、ヴァロウは冷たい瞳をダレマイルの骸ではなく、チェッカーが握る剣に向けられていた。


「【神殺し】が付与された魔剣か……」


「如何にも……」


 チェッカーはダレマイルの血に汚れた剣を振る。

 地面に黒い線を走らせた後、ゆっくりと剣を鞘に収めた。


「これは我が主君に頂いたものです」


「主君? お前の主君はダレマイルではないのか?」


 チェッカーは首を振った。


「いいえ。私は私の主君の命で、ダレマイルに一時的に仕えていただけです。そうでなければ、こんなゲスな悪魔に仕えることなどありえませんよ」


 はっきりと言う。

 首の無くなったダレマイルに遺体に向ける目にも、侮蔑が混じっていた。

 それでも真面目な男ではあるらしい。

 それだけの憎悪を吐露しながら、それ以上遺体に暴行を加えることもなく、辱めることもなかった。


「お前の主君とは?」


「あなたに申し上げることは差し控えさせてもらう、ヴァロウ・ゴズ・ヒューネル」


「ヴァロウ様のことを!」


「あなたもですよ、メトラ王女」


「チェッカーとか言ったな。貴様、一体何を知っている?」


「あなたが生きていて、魔王の副官となっていること以外は知りませんよ。ご心配なく、あなたが生きていると知っているのはごくわずかでしょう。メトラ王女、あなたの父上ですら知らないはずです」


「お前は俺たちを謀略した犯人を知っているのか?」


 先ほどまでダレマイルに向けていた殺意を、今度は目の前の男に向ける。


 しかし、チェッカーは冷静だった。

 ただ静かに首を振る。


「いいえ。ただ――」


「ただ、なんだ?」


「あなたがその真実を知りたいというならば、リントリッドに来ることが望ましいかと……」


「……なるほど。その時は、歓迎してくれるのか」


「おおいに……。さて――――」


 チェッカーは大それたことに、背を向ける。

 ヴァロウのことを知っているということは、その強さも知っているということだ。

 なのに、チェッカーは自ら隙を見せたのである。


「私はこれで……」


「俺がみすみす手がかりを逃がすと思うか」


「思いませんな。しかし、ヴァロウ殿。私を捕まえている暇が、あなたにありますかな?」


「なに?」


 チェッカーは背中を向けたまま、首だけを横に向けた。

 緑の瞳が森の薄暗がりの中で、妖しく光る。



 あなたの妹様は生きてますよ……。



「――――ッ!」


 ヴァロウは固まる。

 顔面が蒼白になり、激しく動揺していることが見て取れた。


 ヴァロウに出来たわずかな間隙。

 それを見逃さないチェッカーではない。

 懐から煙玉を取り出すと、地面に叩きつけた。


「待て!!」


 ヴァロウは後を追ったが、チェッカーの姿はどこにもいなかった。


これにて11章『旧同盟領攻防決着編』は終了です。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

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