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【WEB版】叛逆のヴァロウ ~上級貴族に謀殺された軍師は魔王の副官に転生し、復讐を誓う~  作者: 延野正行
10章 シュインツ城塞都市攻防戦

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第95話 間者

 話は4日前にまで遡る。


間者(スパイ)だと!」


 ベガラスクは思わず眉を顰めた。

 声がベガラスクとルミルラしかいない狭い倉庫に響く。


 声に驚いたのは、ルミルラだ。

 指を立てて、唇に押しつける。


「声が大きいですよ。どこで話を聞いているかわからないんですから……」


「ふん。問題ない。今すぐ喰らってやればいいことだ」


 ベガラスクは鋭い牙を見せた。

 今にも出ていこうとするベガラスクを、ルミルラは止める。


「待って下さい。喰らうのも殺すのもダメです。それに本当にいるかどうかわかりません」


「確かめていないのに、間者がいるといっているのか?」


「あなたたちは、あまり諜報戦を行わないので経験はないと思いますが、間違いなくいると思います」


「根拠はあるのだろうな」


「こちらも間者を送って、敵の内情を探らせているからです」


「――――ッ!」


 ベガラスクはキョトンと目を剥く。

 その表情を見て、ルミルラは思わず「かわいい」と思ってしまった。

 魔族でもそんな顔をするのだな、と感心する。

 どこぞの素直じゃない軍師よりも、ベガラスクの方がよっぽど表情が豊かである。


 諜報戦は魔族相手では難しい。

 やはり容姿や匂いでわかってしまうからだ。

 だが、人間相手であるならば話は別になる。

 魔法での尋問を受けない限りは、暴露されることはない。

 相手の陣地に入りやすいからである。


 だが、それは敵も同じだ。


 誰かまでは特定できていないが、ルミルラは何度か情報の揺さぶりをかけ、間者がいることを確認している。


 この時、ルミルラは素直に驚いた。

 基本魔族と戦争していると、諜報戦は廃れるものだ。

 間者を送るなんて発想は、ヴァロウかもしくはその弟子ぐらいだと思っていたが、ダレマイルという上級貴族はなかなか優秀らしい。


 ルミルラは今後の計画について話す。

 夜襲に向ける人数についての話になった時、ベガラスクからこう提案された。


「100でいい」


「え? ちょっと待って下さい。それではあまりに――」


 こちらの夜襲が知られているならば、必ず本国軍はなんらかの対策をとってくるはずである。

 夜襲の警戒、そして戦力をそちらに振り分けてくるはずだ。


「ならば、少しでも戦力が多い方がいいのではないか? 夜襲はスピードが命だ。相手の態勢が整えられれば、たちまちこちらが不利になる。時間をかければ、別の陣地から応援を呼ばれるだろう。……ん? 何かオレは間違ったことを言っているか?」


「あ……。いえ――」


 驚いた。

 ヴァロウもいつか言っていた。

 ベガラスクは猪武者だと。

 そしてヴァロウはすぐにその言葉を否定していた。


 賢い、と……。


 何故、ヴァロウがベガラスクを認め、自分の言葉を訂正したのよくわかる。

 ベガラスクは賢い。

 ただ今まで知識が足りていなかっただけだろう。

 戦うことしか知らなかったからだ。


 だが、ヴァロウと戦場を共にすることによって、ただ戦うだけではダメだと気付いたに違いない。


 決して学習能力自体が低いわけではない。

 ベガラスク自身は若い魔族だと聞く。

 それ故に、あまり偏見なく素直に、周りの状況や己の立場を理解できたに違いない。


 きちんと戦術さえ教え込めば、ベガラスクは猛将にも、賢将にもなれるだろう。


 それ故におしい。

 ここで失ってしまうのは――。


 しかし、もしここに師匠(ヴァロウ)がいたとすれば、ベガラスクの意見を良しとしたはずだ。


 この作戦の要は、ベガラスクが言ったように、ルミルラが率いる軍が如何に早く別の野営地に襲撃を仕掛け、戦力を減らすかにかかっている。

 少しでも戦力が多い方に超したことはないのだ。


 ルミルラはギュッと拳を握り、奥歯を噛む。

 すべての葛藤を握り潰し、ルミルラはただ自分の理想とする戦術と成功の確率が高い方を選んだ。


「わかりました」


「うむ」


「ベガラスクさん」


「ん?」


「死なないで下さいよ」


 すると、ベガラスクは腕を振り上げた。

 えっと思った時には、手刀はルミルラの頭に落とされる。

 頭が潰される――と錯覚するほどの速い手刀に、ルミルラはギュッと目をつぶった。


 コンッ!


 軽い――そして優しい音がする。


「ふん。誰が死ぬものか」


「え?」


「お前にも、そしてヴァロウにもとくと見せてやる。我ら魔狼族の夜襲をな」


 身を翻す。

 大きな尻尾を地面に叩きつけた。

 それはまるで人間でいう頬を張る動作に似ている。


 倉庫を出ていく魔狼族の頼もしい背中を見ながら、ルミルラは「ほっ」と息を吐いた。


「なるほど。そこまでお見通しですか……」


 実は、この夜襲の提案はルミルラが考えたものではない。

 作戦の全体像を作ったのは、彼女自身だが、計画自体はヴァロウが最初から立てていたものだ。


 ヴァロウが考えたものだと知れば、ベガラスクが不機嫌になるかもしれない。

 そうすれば、作戦に支障を来すかも知れないと考えたルミルラは、計画をこれまで伏せてきた。


 だが、ベガラスクにはわかったようである。


「ご武運を……。魔狼族の戦士殿……」



 ◆◇◆◇◆



 ――そして話は、夜襲の日に戻る。



 ベガラスクと魔狼族100名の周りには、およそ2万の兵がいた。

 夜襲に備え、みな武器を手にしている。

 いつもよりも多く篝火を焚き、100名の魔狼族を照らし出していた。


「袋の中の鼠……。いや、狼というべきかな」


 第3部隊の司令官らしき男が出てきて笑う。


 その後、間者のこと。

 夜襲の情報が筒抜けであったことを、誇らしげに語った。


 そのすべてを聞き、ベガラスクは不敵に笑う。

 ただ一言こう言い放った。


「馬鹿め……」


「はあ!?」


 ぼんやりと首を傾げる司令官を捨て置く。

 ベガラスクは周りに視線を放った。


「ざっと2万といったところか。望むところだ。我ら魔狼族の夜襲を見せてやろう」


「馬鹿は貴様だ!! お前たちは精々100。こっちは2万だぞ! 観念しろ! お前らはもう――」


「さあ……。果たしてどうかな?」


 すると、ベガラスクは顎を空に向けた。


 雄々しい遠吠えを上げる。

 それに呼応するかのように、他の魔狼族も声を上げた。

 夜の闇を裂くような声が、延々と森の中に響いていく。


 突然、遠吠えを上げ始めた魔狼族を見て、司令官は笑った。

 その声に釣られ、槍を掲げる兵たちも嘲笑を浮かべる。


「なんだ? 今さら仲間に助けを求めているのか。それとも命乞いか」


 司令官は嘲るが、魔狼族は遠吠えを止めようとはしない。

 次第に、その声は人類にとって煩わしいものになっていった。


 司令官の顔が赤くなる。


「ええい! 討ち取れ! 悪魔どもを根絶やしにするのだ!!」


 指令を放つ。

 第3部隊は徐々に距離を詰め、100名の魔狼族を囲んだ。

 槍の先を出して、迫ってくる。


 それでも、魔狼族は遠吠えを止めない。


「ん?」

「なんだ?」


 気付いたのは、第3部隊の兵士たちであった。

 何か地鳴りのような音が近づいてくる。

 反射的に森の方に視線を向けた。


「むぅ?」


 司令官も音に気付く。

 すると、森の方で無数の影が見えた。

 砂埃を上げて、こちらに近づいてくる。


「ふん! こざかしい! どうやら森に残りの魔族が隠れておったようだな」


 司令官は部隊を分けるように指示する。

 半数を森の方へと差し向けた。


 しかし、おかしい。

 1000……。

 いや、それ以上いる。

 明らかに情報で聞いているシュインツの戦力以上の足音が聞こえた。


「ま、待て! そんな戦力どこから!!」


 司令官は未知の敵におののく。


 その瞬間だった。

 森から無数の影が飛び出す。

 一気に第3部隊に接敵すると、その喉笛に噛み付いた。


 目にも留まらぬ速さに、第3部隊は翻弄される。

 槍の目標も定まらぬ間に、肉を噛みちぎられた。


「ぎゃ!」

「うわああ!!」

「ひぃいいい!」

「なんだ!」

「やめ!!」


 あちこちで悲鳴が響く。

 それは追跡する火槍のように確実に第3部隊の兵士の命を奪った。


「なんだ! 一体何事だ!?」


 司令官は叫んだ。


 篝火があっても、今は夜だ。

 素早いものの姿を捉えるのは難しい。


 報告を促す司令官の下に、ついにそれは(ヽヽヽ)現れた。


 眉間に寄った皺。

 獰猛な牙と、赤い舌。

 黄色く濁った瞳には、人類の姿を映している。

 耳を倒し、尻尾を立たせ、四肢についた鋭い爪で土を嗅いでいた。


 その姿を見て、第3部隊の司令官は目を丸くする。


「まさか!! 狼か!!」


 司令官は悲鳴を上げるのだった。


やべー! ベガラスクさん、どんどん株を上げているような……。

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