最終話 一ヵ月後
「千歳ちゃん。エンジンかかりそう?」
「うーん……セルは回るんですけどバッテリーが弱ってますね」
「そこに転がっている車の使えないかな?」
「取ってきますか?」
「私が取ってくるから周囲の警戒よろしく」
佐藤さんが横倒しになっている軽トラックからバッテリーを外し始めている。周囲にエイリアンはいないっと……。それにしても、一年前には考えられなかった生活になったなぁ。
「持ってきたよ」
「ありがとうございます。では、繋いでみますね」
バッテリーのプラス端子とマイナス端子を繋いで鍵をひねってみる。
キュキュキュキュ
「かからないね」
「もう一回やってみますね」
キュキュブルン
何とかエンジンがかかった。軽自動車だけど、無いよりは良いよね。私が運転することになるんだろうな。
「運転任せたよ」
「はいはい」
運転席に乗り込んでメーターを見るとガソリンのメーターの針は一番上まで上がっていた。良かった。これなら東京までもちそう。
「まさか東京の地下鉄に基地を作ったなんて信じられなかったよ」
「そうですね。自衛隊の基地に行ったときに偶然生きていた無線で聞いて驚きましたもん」
日本の本州が元に戻った直後空にはいくつものミサイルが日本の主な街に降り注いで町を消し飛ばした。その後、日本の沖合いには周辺の国の巡視船とか、イージス艦が日本から出ようとする船を容赦なく攻撃して沈めて居るらしい。空に関してもレーダーで監視されているのか、日本から出ようとする飛行機を発見すると戦闘機が飛んできて撃墜されるらしい。どれも、自衛隊の基地に侵入したときに手に入れた情報で今となっては本当かどうか確かめる手段は無い。
「エイリアンはあのときに比べて減ったよね」
「そうですね。繁殖している様子も無さそうですし、町と一緒に吹き飛んだエイリアンも多かったみたいですね」
「あ、高速あるよ。使う?」
「使ってもいいんですけど、所々吹き飛んでいて使えないじゃないですか」
「気長に下道使おうか」
こんな風にめちゃくちゃになった日本だけども、それでも所々には人がエイリアンから隠れるようにして暮らしている。兵庫の港町で頂いたのどぐろって魚美味しかったな。そして、東京の地下鉄網を中心に復興し始めて居るらしいから私達は東京に向かっているって感じかな。
「のど渇いた」
「なに子供みたいなこと言ってるんですか」
「そこの自販機で停まって。ジュース盗ってくる」
「後部座席に未開封のお茶があったんで、それで我慢してください」
佐藤さんが助手席から腕を伸ばしてお茶を取るとぐびぐび飲み始めた。
「私の分も残しておいて下さいよ」
「大丈夫だって」
しばらく走ると上の案内板に東京まで450キロと書かれていた。まだ先は長そう。佐藤さんを見ると、外をぼんやりと眺めている。
「田中も生きてれば……」
「……その話はやめませんか?」
「……うん。ごめん」
日本を戻すために死んでいった人のためにも、復興をがんばらなきゃ。自然とハンドルを握る手に力が入った。
一年間ありがとうございました。




