六十話 目標達成の報酬
一方、アメリカではガンジ大統領が主要な国とテレビ会議をしていた。
「日本と連絡が付いた国は有るか?」
『私達の国から精鋭部隊を送りましたが、上陸後2時間で通信が途絶えました』
『お宅の国もですか』
『日本の残っている四国、九州、北海道も我々が上空から偵察しようとしましたが化け物の襲撃により撤退せざる終えませんでした。僅かですが、取れた写真を送ります』
同じ部屋にいるスーツ姿の男性がノートパソコンを操作するとガンジ大統領に画像を見せた。画像には街の至る所から火の手があがっている様子や、人々がエイリアンに襲われる様子を写した写真が出てきた。
「今回ばかりはいがみ合っている我々ですが、このまま放っておけば地球全土の被害になるでしょう。そこで、提案なのですが……」
その頃、海岸線を一台のステーションワゴンがエイリアンから逃げていた。
「後ろ!」
「振り向くな!前を見ろ!」
「別に私が運転してるわけじゃないし」
割れたサンルーフから空を見ると佐藤が飛んでくるエイリアンをかわしている。ちゃんと銃弾を節約してくれているんだな。でも、あの状況でこっちを助けることは出来るのか?
『この先事故車両が道を塞いでるよ!』
「他の迂回路とか無いのか?」
『えーと……うわっ!……ごめんごめん。エイリアンが』
「良いから迂回路は無いのか!?」
『うーんと……無い!』
諦めんなよ。何とかして探し出してくれよ。
「ってか、お前だけでも灯台に行けよ!石持ってんのお前だぞ!」
『石を持っていてもカンタレから魔力を貰ったのあんたでしょ!』
どうなんだろ?説明なんてまったく受けてないからな。まぁ、近くにいれば魔法が勝手に発動してくれるだろ。
「ねぇ!前見てる!?」
あ、目の前の道が事故車両でふさがれているのまったく忘れていた。どうしよう。
「よく見て!積載車があるよ!」
金澤の考えていることは分かった。分かりたくなかったが、すぐにわかってしまった。今はその方法にかけて見るしかないだろ。
「何かにしっかり掴まれよ!」
バキャッ
積載車のスロープに勢い良く乗ったときに嫌な音がした。バンパーでも擦ったんだろう。それから先のことはスローモーションに見えた。下には多重事故をおこした車、その奥には数体のエイリアン。
グシャァッ
車が着地したところにちょうどエイリアンがいた。運が悪いエイリアンだ。
「上手く行ったね」
『灯台が見えたよ!』
空を飛んでいる佐藤からは灯台が見えているのか。っと、道の案内板に灯台まで5キロって書いてあったな。
長かった。本当に長かった。なんか泣けてきた。
「まだ終わってないんだから!」
「お、おう」
そうだ。石を置くまで安心できない。とは言っても、サバイバルナイフだけじゃどうやって対処すればいいんだ。
「安心して。私と佐藤さんが命を賭けて守るから」
「いや、生き延びろよ」
『無理でしょ。残弾も一発しか無いし、餌になるしか時間稼ぎできないよ』
バックミラーを見ると、まだエイリアンが追ってくる。しつこいな。診療所くらいから追いかけてきてるぞ。ここは急ブレーキをかけて……
バゴッドゴッ
エイリアンどもが追突してきた。そのまま倒れて動かなくなったぞ。流石に息の根は止めれてないだろうけど時間稼ぎくらいにはなっただろう。
「もう、生きてる人見かけないね」
海沿いを少し離れて街中に入るが、生きている人間は見当たらなかった。それどころか、原形を留めいている死体のほうが少ないくらいだ。
「そこの交差点を右!」
交差点を曲がった瞬間に、民家の屋根からボンネットにエイリアンが飛び乗ってきた。急ブレーキをかけてみるが、エイリアンの足の爪らしき部分がしっかりとボンネットに突き刺さっている。
バリバリッ
エイリアンがフロントガラスに指らしき部分を突き刺してフロントガラスを引き剥がしやがった。
「キシャァァアアァ!」
パァン
突然、エイリアンが力なくボンネットに倒れこんだ。俺は何もしてないぞ?
『もう助けれないからね!』
佐藤が空から撃ってくれたのか。命拾いした。気が付くと周囲には墓が幾つも並んでいた。
「降りて!霊園を抜ければ灯台だよ!」
車から降りて霊園の奥にある茂みを書き分けて進むと確かに灯台があった。俺が想像していたのは広い敷地の真ん中に見上げるほどのデカイ灯台だったんだけどな。
「早く!灯台のそばに置いて!」
『今降りる!』
佐藤が空から降りてきて、ポーチから小さくなった石を置くと、元の大きさに戻った。
ブォン
置いた石から光が空に伸びると左右に光の柱が伸びて行った。無事に魔法が発動したみたいだ。後は森が消えて海になれば元の世界に戻ったってことなんだろう。
「ようやく終わった」
「まだ安心したらダメだよ。エイリアンが潜んでいるかも」
ガサッ
茂みから現れたのは体中ボロボロになった美香だ。だが、中にはエイリアンが……。
「一也……」
「……美香!」
「帰ってきたよ!」
どうやって戻ったのかは分からないが、奇跡が起きたんだ。美香に駆け寄ろうとすると佐藤と金澤が何か言っているが、そんな事知るか。感動の再会のときくらい静かにしろよ。
ドスッ
どうした?体が……美香の腕が俺の胸を貫いている?
「ゴボッ」
良く見ると美香の腕じゃないエイリアンの腕だ。美香の方を見ると、背中からエイリアンが顔と上半身を出して何か呟いている。
「カズヤ……カエッテキタ……カズヤ」
嘘だろ。ここまで来てこんなのってアリかよ?
グシャァッ
佐藤が小銃をバットみたいにフルスイングしてエイリアンの頭を叩き割った。エイリアンが後ろに倒れるときにエイリアンの腕に握られている物が見えた。心臓だ。俺の心臓だ。
ガクッ
急に足に力が入らなくなった。良く見ると灯台の先には青い海が広がっている。ようやく元の世界に戻って来れたんだ。
「金澤さん!治療を!」
「無理!心臓を破壊されてる!こんなの無理だよ!」
二人が必死に俺を治療してくれようとしているのが微かに見えるが、もう無理だろうな。あ、空に流れ星が幾つも町のほうへ流れていく。最後に流れ星が見れて良かったよ。
「しっかりして!」
「起きてよ!」
何だか疲れたよ。おやすみ。




