五十七話 軽自動車
「起きて!」
美香に叩き起こされて周りを見てみると佐藤と大山さんが飛んでくる何かに向けて小銃を撃っている。何だ?何に撃ってるんだ?
「エイリアンが飛んできているのよ!」
「飛んでる?ジャンプでもしてるのか?だったら高度を上げればいいだろ」
「違う!羽が生えてるの!」
羽!?まさか進化したのか!?
『もう駄目!弾が無くなっちゃう!』
『数が多すぎる!あ!一体抜けた!』
ガシャアン
ヘリコプターの後部のガラスにエイリアンが頭から突っ込んできた。衝撃でヘリコプターが大きく揺れる。これ墜落するまで秒読み段階じゃね?
「撃って!」
「もう残弾が無いんだよ!」
「ほら!私の使って!」
美香から拳銃が投げ渡された。危ないだろ。
カチッ
「おい!弾切れだぞ!」
「嘘!?腰のサバイバルナイフを使って!」
エイリアン相手にナイフで戦えってか?……身動き取れないみたいだけどな。
美香の腰に閉まってあるサバイバルナイフを取ると、後ろの窓に引っかかっているエイリアンのところへ向かう。
「ギャアオ」
「いつ見てもテカテカして気持ち悪いな」
エイリアンの頭に何回もサバイバルナイフを突き刺すと何だかよく分からない汁が飛び散る。しかもなかなか死なないし。
ベシャっ
「きゃっ!何このベタベタした液体!?」
「こいつ!変な液体を吐き出しやがった!」
エイリアンの頭に思いっきりサバイバルナイフを突き立てるとヘリコプターから落ちていった。それにしてもコックピットにかかった液体は大丈夫なのか?
「さっきの液体かかってないか?」
「それは大丈夫だけど……液体がかかった場所が固まり始めているんだけど……」
それでさっきから操縦桿を力いっぱい操作しているのか。
バギッ
「操縦桿折れちゃった」
「は?」
一体どれだけの力をかければ折れるんだよ。
「副操縦桿を使え!」
「もうそっちも折ったよ」
あ、終わった。墜落決定。
「シートベルトをして!」
ガダン
ヘリコプターが横に回転を始めた。
『どうしたの!?』
「墜落する!ヘリコプターから離れて!巻き込まれるよ!」
『え?ちょっ!愛奈ちゃん!離れて!』
バキャバキャッ
何かが砕ける音と一緒にヘリコプターのフロントガラスに血が飛び散った。今の会話から察すると……考えたくも無い。
「後10フィート!衝撃に備えて!」
10フィートって何メートルだ!
ゴシャアン
……生きてる。何か全ての運を使い果たしたような気分だ。
『大丈夫!?』
「一応大丈夫。美香も……」
『どうしたの!?』
美香の腹部に木片が突き刺さっている。すでに腹部周辺は血で赤く染まっていた。
「美香が怪我してる!助けるのを手伝ってくれ!」
『無理!空からのエイリアンで近づけない!地上からも来てるから急いでその家から逃げて!』
上の方から銃声が聞こえてくる。とりあえずこの木片は抜かない方が良さそうだ。周囲を見る限り誰かの家だ。
「立てるか?」
「うん……大丈夫じゃないけど、何とかする」
武器は……木刀があった。無いよりはマシか。この部屋を出よう。
「ゲホッ!」
ここがどこかは知らないけれども、移動手段を確保しないと美香が……。
「私を置いていっても良いんだよ」
「うるせぇ!黙ってろ!」
階段はどこだ?有った。けれども、階段の途中で人が死んでる。本当はこんなことしたくないけれども蹴落とすしかないだろ。
ドシャッ
「おんぶしてやる」
「……お姫様だっこで」
そうだった。腹に木片が突き刺さってるんだった。
ゆっくりと階段を下りないと、さっき下に蹴落とした死体の血ですべるかもしれない。階段の先にはすでに玄関が見えている。玄関を出た後はどうしようか?
「ねぇ、あの下駄箱の上にあるの車の鍵じゃない?」
「本当だ」
下駄箱の上にある鍵は確かに車の鍵だ。出来れば本格的なSUVだと良いな。軽自動車だったらエイリアンを吹き飛ばせないから途中で乗り換えるか。
『今のところエイリアンはヘリコプターに群がってるから逃げるなら今のうちだよ!』
「わかった!ありがとう」
扉を開けるとすぐ横の車庫に車が止まっているのが見えた。あ、軽自動車だ。
「良かったじゃん。第三のエコカーだよ」
「喋るな。傷口が開くだろ」
後部座席に美香を座らせると運転席に乗り込む。
『エイリアンたちが気が付いた!』
「行くぞ!」
アクセルを床いっぱいまで踏み込むと車は車庫から飛び出した。




