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異世界にエコカーで行く  作者: タコ中
日本転移編
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五十六話 最後の魔力

「えーと、誰だっけ?」

「大山愛奈!このやり取り二回目だよ!」


 名前なんてこの際どうでも良い。このタイミングで無反動砲を持ってきてくれたのは奇跡だ。


「後ろの化け物を吹き飛ばせ!」

「そんなことしたら私たちまで被害を受けますよ!」

「魔法の力で守ってよ!」

「あ、そうでした」

「よし決定!撃て!」


 状況よく分かってないだろうけども、後ろの化け物をよく狙って撃ってくれ。これが失敗すれば全滅は確定だろう。


バシュッ


ボォン


「うわあ!」

「きゃあ!」


 爆風で全員吹っ飛ばされた。一体どうしたんだ?カンタレが魔法で防いだんじゃないのか?ひとまず後ろを見ると大男は粉々に砕け散って天井や壁に肉片が飛び散っている。肉片が集まりだす様子もないし、再生はしないだろう。


「カンタレさん!」


 佐藤がカンタレの腹を必死に押さえている。そこからは血が大量に流れ出ている。


「おい!どうした!」

「魔力が限界でしてね……私を守るほどの魔力は残ってませんでした」

「佐藤!治療できそうな魔法使えないのか!?」

「分身魔法以外使えないよ!」

「大山!」

「ごめんなさい。私、魔法は使えないの……」


 くそっ!こういうときに限って治療できる奴がいねぇんだ!……待て……このままカンタレが死んだ後に、俺が蘇生魔法を使えば……


「田中さん……馬鹿なことは考えないでくださいね」

「お前が死んだら誰が日本を元の世界に戻すんだよ!」

「田中さん……手を……出してください」


 手?どうしてこんなときに?とりあえず手をカンタレの前に出すとカンタレが手を握った。


「すいませんが、後は任せました」


 カンタレから何かが流れ込んでくるのがはっきりと分かる。それと同時に、この流れ込んでくるのはカンタレにとって大切な物だということも直感で分かった。


「実はですね、この世界に来てから魔法の質が落ちてきたんです」

「もう喋らないで!傷がもっと開く!」

「……結局のところ年齢的に限界でした」


 カンタレが手を離した。佐藤もカンタレの腹を押さえるのを止めていた。よくカンタレの顔を見るとシワや白髪が増えていた。もしかして魔法で無理していたのか。


「……石を指定の場所に置けば田中さんに渡した魔力が勝手に魔法を発動して日本を元の世界に返してくれるはずです」

「ふざけんなよ!自分で招いた事だろ!自分で蹴りをつけろよ!」

「……すいません。もう眠くなってきちゃいました」

「おい!寝るな!」


 カンタレが目を閉じた後目を覚ますことは無かった。





「……ねぇ、ここにいても話は進まないよ」

「そんなことは分かってる!でも……カンタレがいない今、山口県までどうやって行くんだよ!今回件だけでどれだけカンタレに助けら


れたんだと思ってるんだ!」


 カンタレに日本を元の世界に戻すための魔力を渡されてしまった今、俺が死ねば日本はエイリアンの巣になるんだ。


「一也のことは私達が命にかけても守る!それでもダメ!?」

「……お話中のところ申し訳ないんだけど」


 こんなときに大山は何だ!


「研究所の裏にヘリコプターがあったよ」


 ヘリコプターか。まだそれならエイリアンに合わずに山口県まで行けるだろう。ただ、誰が運転するかだ。


「どうやって運転するか知らないよ」

「私できるよ」


 手を上げたのは美香だった。いつの間にそんなこと覚えたんだ?組織にいたときに覚える機会があったのか?それとも免許を持っているとか?


「どうして操縦の仕方を知っているかは秘密ね」


 山口県に行って石を置けば全ては丸く収まる。エイリアンは多少残るだろうけれども後は自衛隊の出番だ。

カンタレの遺体は全てが終わってからしっかりと埋葬してやろう。


「私と愛奈ちゃんで周囲を飛んで警戒してるから」

「おう。よろしく」


 エントランスに突っ込んだ装甲インサイトから小銃を降ろして大山さんと佐藤に渡した。


「マガジンは二つずつしかないから出来る限り節約して使ってくれ。美香も、もう予備は無いから良く考えて使えよ」

「うん。わかった」

「佐藤、羽の怪我は大丈夫なのか?」

「ちょっと痛むけれども山口県までなら大丈夫。帰りは知らない」


 そのまま、研究所の裏へと進むと小さなヘリポートにヘリコプターが一機止まっていた。


「エンジンのかけ方は大丈夫か?」

「前に触った機体と一緒なら大丈夫」


 ヘリコプターの後ろに石を置くと、助手席に座る。


「はい、これつけて」

「何でヘリに乗ってる人ってヘッドホンをつけてるんだ?」

「これは機内の人と喋ったり、管制塔と通信するための物だから結構重要なんだよ」

「へー。勉強になった」


 美香が色々な計器類やスイッチを触りだした。一体何をしているのか俺にはさっぱり分からない。外では佐藤と大山さんが周囲を見張ってくれている。


『エイリアンが現れました!』


 ヘッドホンから大山さんの声が聞こえてきた。美香の奴、二人とも喋れるようにしてくれていたのか。


タァン


 森の茂みから続々とエイリアンが出てき始めた。


「まだかからないのか!」

「もう少し……かかった!」


キュイイイイイイン


 ヘリコプターのローターがゆっくりと回り始める。二人がエイリアンに対処しているが数が多すぎる。飛び立つ前に全員弾切れになるぞ。

次第にヘリコプターのローターの回転が早くなった。


「もう飛びたてるよ!」

『早く飛んで!もう持たない!』


 佐藤と大山は先に空へと飛び上がった。ヘリコプターもゆっくりと上昇し始める。


ガァン


 ヘリコプターの助手席側のランディングスキッドにエイリアンがしがみついてきた。おかげで機体が斜めになった。


「拳銃で撃って落として!このままじゃ墜落する!」


 ドアを開けてエイリアンの顔に向かって拳銃を一発だけ撃ったが、まだしがみついている。もう一発撃っても落ちない。


「早く!」

「わかってる!」


 ワンマガジン分エイリアンに撃ち込むとようやくエイリアンは落ちていった。


「これで安心だな」

「燃料も大丈夫だから安心してもいいと思うよ」

「……ちょっと寝てて良いか?」

「いいよ」


 そのまま目を瞑るとすんなりと寝れてしまった。

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