五十五話 お約束
「どうやって倒せばいいんだよ!」
「知りませんよ!とりあえず撃ってください!」
佐藤が持っていたハンドガンを撃っているが弾が当たった所から一滴も血が出ていないぞ。
「グアアア!」
大男が暴れ始めて、部屋にあったスーパーコンピューターらしき物を破壊した。仲間じゃないのか?それとも制御できてないのか?制御できていないとしたらあの研究者殺されそうだな。
「早くやってしまえ!……どうした?」
「グア?」
大男が研究者を握り締めた。あ、やっぱりこういう結末になるんだな。
「やめろ!やめてくれ!」
「ギャアオ!」
グシャァッ
「握りつぶされましたね」
「どうするの?弱点知ってそうな人、死んだよ」
よく冷静でいられるな。人が握りつぶされたんだぞ。
「飛んで上の通気口から逃げれない?」
「分身にやらせてみます」
佐藤の分身技術は上がったのか?
「ふん!」
佐藤の目の前にもう一人の佐藤が現れた。でも、よく見ると左右逆だな。着ているシャツの文字が鏡文字になっている。
「よろしく」
もう一人の佐藤が天井にある通気口に向かって飛んでいった。
「ギャア!」
大男がジャンプした。軽く10メートルは超えてるぞ。
「くっ」
佐藤の分身の羽を大男が掴んで、そのまま床にブン投げた。佐藤の分身は顔面から地面に叩きつけられた。見てるこっちも痛い。
「うあ……あ……」
ブチッ
大男が佐藤の分身の羽をちぎって食べ始めた。俺たちはその光景をただ眺めているだけだ。というか、手持ちの武器じゃどうしようもない。
「いい加減分身を消してやれよ!」
「そ……そうだね」
ようやく佐藤の分身が消えたけれども、床や大男に付いた血は取れないんだな。てっきり血も消えるとばっかり思っていたよ。
入ってきたドアをもう一度佐藤が開けようとしているが、びくともしない。美香もドアに体当たりをしてみているがダメだ。一応ハンドガンの弾も通すか試しておこう。
パン
ちょっと凹んだだけか。
「何してるんですか!化け物が突っ込んできますよ!」
後ろを振り向くと大男がこっちに向かってタックルしてきていた。このタックルを利用してドアを破壊してもらおう。
難なくタックルを避けるとそのままドアに向かってタックルをしてくれた。おかげでドアが吹っ飛んでくれた。後は逃げて車に積み込んである武器で戦えば何とかなるだろ。……ってか、こいつを地上に出せるようなエレベーターなんてあったか?
「逃げたいんですけど扉から退いてくれませんね」
「何考えているかさっぱりだ」
「とりあえず攻撃すれば突進してくるんじゃない?」
パン
今当たったよな?微動だにしないぞ。
「何か動かないんで魔法を無効化している装置でも探しましょう」
魔法が使えればあの大男も粉々に吹っ飛ぶだろうな。
大男に注意しながら、それっぽい装置を探すが機械が多すぎてどれを探せばいいか分からない。
「ねぇ、佐藤さんはどうして魔法を使えたの?」
「え?」
言われてみれば佐藤は分身を魔法の力で作っていた。もしかして……あの研究員が握りつぶされた時に一緒に潰されたとか?
「田中さん、どうして研究員のポケットを調べているんですか?」
「カンタレ、何か魔法を使ってみろ」
カンタレの掌から小さい炎が出た。やっぱりもう装置は壊されていたんだ。研究員のポケットからも粉々に砕け散った機械の破片が出てきた。
「何で気づかなかったんでしょうね?」
「そんなことは後でいいから、あいつをふっ飛ばしてよ」
「はいはい」
カンタレが腕を伸ばして、力を込めると大男の右腕が吹っ飛んだ。
「体がでか過ぎて部位破壊しか出来ませんね」
「グアッ!」
「嘘……腕が生えた?」
俺も今の光景には目を疑った。粉々に吹っ飛んだはずの大男の右腕が一瞬にして生えてきた。今ので分かった。銃弾は喰らっていたが治るのが早かったんだ。だから、効いてないように見えただけだ。
「扉と反対方向に吹っ飛ばせ!逃げるぞ!」
「分かりました!」
今度はカンタレは両腕を突き出して力を込め始めた。すると、大男が浮いてものすごい勢いで反対側の壁に激突した。
ドサッ
「今のでほとんど魔力を使い切ったので誰か背負ってください」
「私が」
良い年したおっさんが二十代半ばの美香におんぶされるのって恥ずかしくないのか?
「あの化け物は壁にめり込んでいるので、しばらくは動けないと思いますよ」
「グォォォ!」
何がしばらくは動けない……だ!もう復活してるぞ!
「エレベーターまで走って!」
無我夢中で全員エレベーターホールに向かって長い廊下を走る。その後ろからは大男が綺麗なフォームで迫ってくる。何でそん
なに綺麗なフォームなんだよ!
「このままじゃ追いつかれる!」
遠くに見えるエレベーターの扉がゆっくりと開いた。そこには無反動砲を持っている鳥女の姿が見えた。




