五十三話 魔法使いの女の子
「一体どうなってるんだ!」
中年の研究員が必死にどこかに電話をかけているようだが、今の状況じゃ警察にも繋がらないぞ。
「ねぇ、こいつなら地下への入り口知ってるんじゃない?」
「そうだな。脅して聞き出すか」
あくまで脅すだけだ。傷つけはしないつもりだ。暴れなければ……な。
「お前、地下への行き方知ってるか?」
「は?誰がお前らみたいな奴に教えるんだよ?」
パァン
美香が窓ガラスを9ミリ拳銃で撃った。エイリアンに位置がばれたらどうするんだ。
「分かりました。教えます」
「んで、どこなんだ?」
「すぐ隣の部屋!普通に暗証番号ロックのかかった扉があるから!」
「暗証番号は?」
「7739!これでいいだろ!俺は逃げる!」
「はいはい、勝手にしていいよ」
中年の研究員が階段の方向に逃げていった。すぐにエイリアンに襲われて死ぬだろうな。
「あ、カンタレ?二階の応接室に来て。地下への入り口見つけたから」
『はーい。ちょっと資料整理したら行きますね』
あいつ地下への入り口を探していたんじゃなかったのか……。ってか資料整理?
「それまで応接室で待ってようか」
「そうだな。エイリアンも見当たらないからな」
「この建物にエイリアンがいないなら警備員とか誰に殺されたんだろうね?」
「研究所の試作兵器とか?」
「まさかぁ」
考えてみれば研究してどうする気なんだろうか?大体、俺達魔法の使える人間や実験された人たちは海外に売り飛ばされる予定だったんだよな。もしかして、誰でも魔法が使えるようになったとか?それとも、動物の能力を人間に移植できたとか?
「ギャアァオ」
「この鳴き声、エイリアン!?」
「待って!何か苦しそうじゃない?」
「ギャッ……グ……」
ついにエイリアンの鳴き声が聞こえなくなった。死んだのか?それにしては銃声は聞こえてこなかった。素手で倒したのか?それとも魔法?
「カンタレじゃない?」
美香が応接室から飛び出していった。一応クリアリングぐらいしろよ。万が一エイリアンがいたら死んでるぞ。
「え?何あれ?女の子……」
美香が最後まで言う前に腹にタックルを受けたように飛んでいった。一体今のは何だ?腹に攻撃を受けたようには見えたけれども、何が飛んできたんだ?俺にはまったく見えなかった。
「うがっ……いたい……」
応接室から出て、美香が飛んでいった方を見ると腹を押さえて苦しんでいる美香がいた。
「がはっ」
口から血を少量だが吐いている。内臓をやられる程の衝撃だったのか。早くカンタレに治療してもらわないと命にかかわる。今度は反対の方を見ると白いワンピースを着た女の子が立っていた。手に持っているのは子供のエイリアンだ。
「どっから入ってきた?」
質問しても答えてくれない。その代わりに右腕を突き出してきた。この動作は……ヤバイ!
バゴッ
とっさに伏せると、後ろの応接室の鉄製の扉が凹んだ。あんなのを喰らって美香はあれだけのダメージで済んだな。さっきのエイリアンの苦しそうな鳴き声はこの女の子が原因で良さそうだ。とりあえず、足でも撃って反応でも見るか。
パン
バゴッ
今度は床が凹んだ。その真ん中には銃弾が床にめり込んでいる。どうやって倒せばいいんだよ!そんなことを考えている間に再び腕を突き出してきた。
「うげぇえ!」
いってぇ!痛い!とにかく痛い!こんな施設の中に入るんじゃなかった!
「皆さん無様ですね」
その声……カンタレか。……あれ?痛みが無くなっている。
「二人とも治療しときましたよ。あ、受付で肉片になっていた人は無理でしたけどね」
その肉片って、さっきの研究員か?
「手加減出来そうにありませんね」
べしゃっ
何かが潰れるような音と共に女の子が血を吐いて倒れた。もう、カンタレ一人でいいんじゃないかな?俺と美香、やられ役ばっかだし。
「何したんだ?」
「心臓を潰しただけですよ」
さらっと酷いことしたな。何回も思うことだけども、カンタレが敵になったら米軍総動員しても勝てないんじゃないか?
「早く地下に行きますよ」
「何でそんなに行きたいの?もしかして寝返ったとか?」
「そんな事無いですよ。ただ研究の筋は良いんですけど、方法がね……許せないんですよ」
確か、ゴブリンの腕を切り落としたりして再生するかとかやっていたんだっけ?でも、あの女の子の様子を見る限りもっと酷い事をしているんだろうな。
「隣の部屋に暗証番号付きの扉があるはずだから番号を打ち込めば地下へと行けるらしい」
「番号は何番ですか?」
「7739だったような……」
「先行きますね」
カンタレが先に部屋から出て行った。急ぎすぎだろ。美香と一緒に隣の部屋へ行くとカンタレが暗証番号を打ち込んでいた。
「急ぎすぎだろ。一体どうしたんだよ。こんな状況じゃ実験をして居る人なんていないだろ」
「それがですね、この時を待っていたそうです」
「どういうことだ?」
ピピッ
電子音と共に扉の鍵が開いた。カンタレが扉を開けると、小さなエレベーターホールが現れた。エレベーターに乗り込むとB5のス
イッチしかなかった。地下はこの階だけという訳か。
「さて、破壊してやりますか」
カンタレがエレベーターのB5のスイッチを押すと、扉が閉まりエレベーターが下に降りる。かなり深くまで降りていくな。
チン
エレベーターの扉がゆっくりと開いていく。




