五十話 三台目のエコカー
ここはどこだ?どこかの事務所だな。入り口には小銃を持った自衛隊。目の前には9ミリ拳銃を持った大柄な自衛隊か……。
「目が覚めたか。いきなり手荒なことをしてすまなかった。エイリアンが人間の皮を被り初めてな。見分けるには気絶するほどの痛みを与えれば勝手に出てくるんだ」
「ところで私と美香さんはどうして縛られてるんですか?」
本当だ。俺はパイプ椅子に座ってるだけなのに美香とカンタレはパイプ椅子に縛り付けられている。まぁ、普通に考えれば美香は犯罪組織のリーダーだし、カンタレにいたっては強力な魔法を幾つも使えるからな。縛ったところで魔法が使えないわけじゃないんだけどな。
「これ解いていいですか?」
「は?何言ってるんだ?」
簡単にカンタレをぐるぐる巻きにしているロープが解けた。
「お前!何をした!」
「いや、別に私たちはあなた達の敵ではないですし、日本を救うために行動している最中なんですよね」
日本を破滅に向かわせているのはお前のせいだけどな。
「くそっ!撃て!」
入り口付近に立っていた自衛隊員が小銃を構え始めた。おいおい、俺たちは人間だ。
「あー、めんどくさいですね」
バガン
「な……なんだ?」
小銃を撃とうとした自衛隊員が吹っ飛んで入り口のドアを破壊した。人間相手に使うのは珍しいな。少し怒っているのか?
「何をした!」
残った自衛隊員が9ミリ拳銃をカンタレに向けている。さっきのカンタレの攻撃を見てその貧弱な武器で応戦する気なのか?根性あるな。
「これ以上事を大きくしたくはありません。もうちょっと話の出来る人を呼んでください」
「くっ……」
机の上に置いてある無線機で誰かと連絡を取り始めた。話しながらも9ミリ拳銃を向けたままだ。
「そのまま待っていろ」
「とりあえずロープ解いて」
美香が縛られたままだった。解いても大丈夫だろ。それにしても気絶した自衛隊員は放置かよ。あ、起きた。
「いててて」
「おい!荻原陸曹呼んで来い!」
「はい!」
人使いが荒い人だ。気絶から復活した人をすぐにこき使うなんて。心配ぐらいしてやれよ。
しばらくすると、偉そうな自衛隊員が入ってきた。ついでに部下を数人引き連れてきた。しかも、小銃から機関銃にランクアップしてやがる。
「暴れるなよ、カンタレ」
「分かってますよ。流石にこの人数はきついです」
「ねぇ!まだ解いてくれないの?」
「あ、ごめん」
美香を縛っているロープを解いている最中に偉そうな自衛隊員が喋り始めた。ロープを解くまで待ってくれよ。
「君たちは一体どういう理由でこの町に来たんだ?」
カンタレが目的をすべて話してくれた。自衛隊員の数名は信じてないようだけども……。
「そうか……それでその石はどこに有るんだ?」
あ、石の事すっかり忘れてた。多分アウトランダーに置いたままだろう。
「このポーチに有ります。魔法で小さくしました」
ナイス。
「そうですか……私達も協力したいところですが、名古屋駅に沢山の民間人がいましてね……」
それじゃあ、護衛してくれと頼んでも無理そうだな。せめて弾薬の補充くらいはしたいな。
「私達に出来るとすれ車を一台提供させていただきます」
「それでいいよ」
自衛隊の車か。高機動車か?装甲車か?
「付いて来てください。名古屋駅前に停めてあります」
これで移動手段は何とかなりそうだな。ガソリンのことはガソリンスタンドがあるだろうからそこで給油すれば大丈夫だろ。
自衛隊員についていくと広いエントランスに出た。名古屋駅じゃないのか。エントランスの端には死体が山積みになっている。これはエイリアンに殺された人達だろうか?
「この建物を出れば名古屋駅はすぐそこです」
建物を出ると名古屋駅と二つのビルが見えた。その前には……自衛隊の車両が無いな。その代わりに普通の車に鉄板を貼り付けただけのテクニカルが並んでいる。
「嘘……これ?」
「はい。私達が乗ってきた車両はエイリアンにほとんど壊されてしまいまして、民間人の方と協力して作ったんですよ」
軽バンから幼稚園バスまで様々だな。軽自動車は無理があるだろ。
「申し訳ないんですがこちらの車でお願いします」
渡された鍵のボタンを押してみると一台の車のハザードランプが点滅した。インサイトかよ。ハイブリットカーのテクニカルなんて始めてみた。
「田中さんの好きなハイブリットカーですよ」
「いや、これはまた違うだろ」
「貰える物は貰っておきましょう」
中に乗り込み、システムを起動させてみるとカーナビはずっと後ろを映し出したままだ。そりゃそうだ、フロントガラス以外は鉄板が貼られているから周囲の状況が分からないから、ありがたいな。
「高速道路はエイリアンがバリケードを作って待ち伏せしていることがあるので使わないほうが良いです」
「それはどうも。では、行きます」
「気をつけて」
下道で行くにしてもどの道で行けばいいんだろうか?カーナビは後部を映し出すのに使っていて使えないし、全国マップなんて物は積んでないな……。
「山口県はあっちの方向です。その方向に向かえば辿り付くんじゃないですか?」
「早く行こうよ」
ゆっくりとアクセルを踏み込むと車がゆっくりと進みだした。




