四十九話 名古屋市中区
「本当に何処に言ったんでしょうね?」
「いい加減魔力回復しないのか?」
「一日寝て過ごせれば完全回復するんですけどね……」
最初は敵無しだったのにカンタレの魔力が切れたとたんに、この様だ。今のところ高速道路で襲われた以外はエイリアンには出くわしていない。
「このまま探していても時間を取られるだけじゃない?もう放っておいて山口県に行こうよ」
「美香……お前、一応仲間だったんだろ」
「んー、たまに世間話するくらいだったからね」
橋本さん可哀想。
「とりあえず徒歩じゃ無理ですから車を手に入れましょう」
「そこらへんの車でも貰えばいいだろ」
とは言っても、軽自動車は論外だし、大型トラックや大型バスも狭い路地に逃げるときに交差点を曲がりきれない可能性もあるから除外。やっぱりSUVとかかな?
「この車がいいんじゃないの?」
美香が指差す先には道路公団の車が止まっている。エンジンもかかったままだな。
「橋本さんには申し訳ないですけども行きましょう」
早速乗り込んでみると内装は普通の車と変わらないんだな。ちょっと変なボタンが付いてるくらいか。何のボタンだろう?
「上のパトランプ光ってますよ」
これはパトランプを光らせるのか。他のボタンは……。
「現れましたよ!」
「さっさと行くか」
「待って!アレって橋本!?」
橋本だ。生きてたんだって言いたいけども、明らかに様子がおかしい。目の焦点が合ってないし、フラフラして落ち着きが無い。
「どうしたんだろ?」
「ちょっと降りて様子を見ますか」
「そうね。あ、一也は車に乗ってて。何かあったときにすぐ運転できるようにしておいてね」
しょうがない。車の中から眺めてるか。
カンタレが橋本さんに近づいて後ろでは美香がM16を構えている。お、カンタレが何か叫んでるぞ。
タタタン
美香が橋本さんに向けて撃った。橋本さんは……立っている。撃たれたところからは血が出ていない。これで決まりだ。もうあいつは橋本さんじゃない。一体どうなってるんだよ!
ついにカンタレも拳銃を取り出して撃ち始めた。いくら撃たれても橋本は立ち尽くしたままだ。いや、背中から脱皮みたいにエイリアンが出てきた。橋本さんの中身はどこに行ったんだ!?
「ギャアオ!」
カンタレが撃った弾がエイリアンの頭に当たったようだ。エイリアンが撃たれたところを押さえて苦しんでいる。今が車に乗り込むチャンスかな?それにしても弱点は頭なのか?もうエイリアンは死んでしまったようだ。
「早く車出して!」
おっと、気が付くとカンタレと美香が車に乗り込んでいた。
「エイリアンに囲まれてるって!」
「え!?嘘!?」
本当だ。住宅の屋根や、道にエイリアンが大量にいる。これは終わった。
「どうしよう?」
「ちょっと!弱気にならないでよ!とりあえず突っ込みなさい!」
「あ、あぁ!」
もう、どうなっても知らないぞ!アクセルべた踏みでエイリアンに突っ込む!
ボン
エイリアンを跳ね飛ばしたときに助手席と運転席のエアバックが作動した。おかげで室内が真っ白だ。
「どこに向かってるんですか!?」
「知るか!止まったらエイリアンがこの車に群がって来るんだぞ!」
バックミラーで後ろを見ると、エイリアンが大量に追っかけて来ている。
「横!横!」
横を見るとエイリアンが同じ速度で走っている。
「田中さん!前にかがんで下さい!」
助手席のカンタレがこっちに銃口を向けている。そういうことか。
パンパン
運転席側のガラスが粉々になった。開けとけばよかった。でも、しっかりとエイリアンは倒したみたいだ。
「どこに向かってるんですか?」
向かうも何も、主要な幹線道路は事故車両で通れる道は限られているし、路地に入ればエイリアンが待ち伏せしているからなぁ……。
「このままだと名古屋駅に行かない?」
「確実に名古屋駅に向かってるな。本当は名古屋の中心部は避けたかったんだけど、事故車両で通れないからな」
「名古屋の中心部なら人ぐらい居るだろ」
「人間の皮を被ったエイリアンじゃなければ良いですね」
「怖い事言うなよカンタレ……」
この角を曲がれば名古屋市の中区ってところだ。さて、中心部付近はどうなってるんだ?
交差点を曲がると目の前には大型トラックが車線を塞ぐようにして何台も止まっている。これは完全にバリケードだ。エイリアンはこんなの作らないだろうから、人間の仕業だな。
「なにこれ?」
「バリケードですかね?」
「どうみても、そうだろ」
車から降りてバリケードを良く見ると、トラック下の隙間にはクレイモア地雷が仕掛けてある。こんなの一般人じゃ用意できないだろうから自衛隊か。
「黄色の車に乗った人達!今すぐエンジンを止めて両手を挙げて、車から出て来い!」
大型トラックの上に自衛隊員数人がこっちの銃を構えている。大人しく従ったほうがよさそうだ。無理に逃げようとすれば車ごと蜂の巣にされそうな勢いだ。
「大人しく降りるぞ。カンタレは魔法を使うな。下手に攻撃されたと勘違いされても困るからな」
「分かってますよ」
エンジンを切って両手を挙げながら車から降りると自衛隊員数人がこっちに歩いてきた。全員89式小銃を持っている。これはちゃんとした自衛隊だな。89式小銃なんて暴力団や不法入国者じゃ、入手できないだろ。
ガスッ
カンタレが顔面を銃床で殴られて倒れた。一体どういうことだ!?
「おい!お前らなんだ……」
ガスッ
顔面を銃床で殴られた。いってぇ。こいつ等何かおかしい。
「話を聞け!」
ガスッ
今度は後頭部を殴られた。ダメだ。意識が……。




