四十七話 無慈悲
「どうやって前は止めたんだよ」
「前は佐藤がカンタレに馬乗りになってボコボコにしてたら止まったな」
「ヒェッ……」
果たして今回も同じ事をすれば止まるのか?
「とりあえず飛んでくるものを避けながらカンタレを車から引きずり落として殴りましょう」
ガサッ
高速道路の脇の茂みから普通サイズのエイリアンが出てきた。こんなときに出てくるなよ!
ドゴォン
トラックが飛んできてエイリアンを潰した。仕事が速いけれども、その間にも車が飛んできている。
「何とかしてカンタレに攻撃できれば……」
「俺の車に向かって撃つなよ」
「そんな事言ってる場合じゃないでしょ!」
あ!美香が銃を構えている。やめてくれ!納車されて二日もたってないんだぞ!
パン
バシュウ
タイヤに当たって一気に空気が抜けたな。タイヤならまだ許せるか……っと、宙に浮いていた車が変な方向に飛んでいった。これはチャンスだ!
「鍵かかってるぞ!」
「嘘だろ!?鍵なんてかけてないぞ!」
「退いて!」
美香!アサルトライフルの銃床で何する気だ!
パリィン
あぁ!ガラスを割りやがった!でも、これで鍵を開けてカンタレを引きずりだせる。
「さっさと出てきて!」
カンタレを車から引きずり出した。さて、これからボコボコにしてやるか。
「顔でいいのかな?」
「前のときも顔だったから顔でいいと思う」
「んじゃ、遠慮なく!」
ガスッ
うわっ、銃床で殴った。鼻血が出てるぞ。それでもまだ意識が戻ってこない。
「もう一発いっときますか!」
「え!?本当にやる気ですか?」
「本気。せーの!」
やめたげて!
「起きてますよ!だから殴らないでください!」
今回は一発で起きた。
「一体何で殴ったんですか?すごく痛いんですけど……」
「これだけど……」
美香がカンタレにM16の銃床を見せている。銃床には血が付いている。あの一発にどれだけの力を込めたんだよ……。
「治癒魔法を使いたいんですけれども、また魔力が無くなりそうですし……」
「魔力が無くなったらまた暴走するの?」
「多分しますね」
マジで言ってるのか……。俺も魔力が切れたら、あんな風になるのかな?
「あ、田中さんはなりませんよ。魔力を使い切る前に生命力が尽きますからね」
「ってことは、佐藤もそうなのか?」
「佐藤さんも同じことになるかもしれませんが、分身を二年くらい出し続けていれば魔力は切れるでしょうね」
カンタレは色んな魔法を使うから魔力が無くなりやすいのか?ま、カンタレの魔力を無くさないようにしないとな。
「出発しないと囲まれますよ」
「おい、俺と金澤の車はどうするんだよ」
「あるじゃん」
周りを見てもカンタレが浮かせて落とした車しか見えない。どう考えても使い物にならないだろ。
「さっき隠れていたトラックの中に車らしき物があったよ」
カンタレが車をぶつけてボコボコにしたトラックの荷台の扉を開けると車が一台入っていた。なんて車だろう?結構古そうな車だけれども……。
「ハコスカじゃないですか!しかもノーマル!」
橋本さんが食いついている。そんなにすごい車なのか?俺には古い車にしか見えないけどな。
「そんなにすごい車なの?」
「……まぁ、私と野原でこの車に乗るから先に行ってて良いよ」
「降ろすの手伝わなくて大丈夫ですか?」
「カンタレは休んでろ。また魔力が尽きるだろ」
「大丈夫。車を降ろすためのスロープは見つけたから」
少し不安だけれどもこの二人なら何とかなるだろ……あれ?何か忘れているような……。
「石!ピックアップトラックに積んだままじゃないですか!?」
そうだ!ピックアップトラックに石を積んだのはいいけれども、エイリアンに車ごと投げられたんだった!少しでも欠けていれば魔力が漏れ出しているはずだ!
すでに、美香が逆さまになっているピックアップトラックから石を取り出していた。石を見てみると……良かった。どこも割れたり欠けたりしていない。
「良かった」
「これが無かったら日本は元の世界に返れないですもんね」
気が付くと野原さんがトラックから車を降ろしていた。石のことを心配してくれてもいいだろ……。
「これのエンジンって普通にかけていいのか?」
「本当は暖機運転したほうが良いんでしょうけどそんな時間も無いですし、普通に運転すれば良いんじゃないですか?」
ガサッ
運転の仕方をレクチャーしている間に普通サイズのエイリアンが出てきた。
「早く行くぞ!」
車に乗り込むと、割られたはずの窓が治っている。カンタレが直したのか?カンタレを見ると、親指を立てている。魔力使うなよ……また暴走するだろ……。
「早く出して!いっぱい出てきてる!」
周りには続々とエイリアンが登場してくる。後ろの車は……付いてきてる。このまま名古屋まで向かう。




