四十六話 カンタレ暴走
「金澤たちのほうは何かエイリアンについて知っていることはない?」
『んー、頭を狙えば倒せるよ』
「それは知っている。他にないの?」
『繁殖方法がグロかったな』
今の声は運転している野原の声か?さっきから後部座席の美香がトランシーバーを使っているけれどもバッテリーの残量も考えてくれよな。
「その話詳しく聞かせて」
『え?スーパーで腹部を怪我した人がいたから治療しようとしたら腹部から小さなエイリアンが出てきたの』
さらっと話したけれどもグロすぎ。もしかして、対向車線から大量の子エイリアンが飛んできたのって、実は渋滞の車列の車の中に繁殖に利用させられた人が沢山いるって事か……?
『また現れやがった!』
急に前を走るピックアップトラックが止まった。この距離はヤバイ!追突する!
「えいっ!」
ハンドルを切っていないのに急に車が曲がって何とか追突するのを避けることが出来た。ルームミラーで後部座席のカンタレを見ると汗を大量に流しながら腕を前に突き出している。やっぱりカンタレが何かしてくれたのか。
「カンタレ、ありがとう」
「いえ……お構いなく」
本当にカンタレには何回も命を救われて悪いな。これからもよろしく。
『おい!アサルトライフルもってこい!前の奴には拳銃なんてきかねぇぞ!』
前の奴?うぉっ!かなりの大きさのエイリアンだ。2tトラック位の大きさはあるんじゃないか?こんな奴にアサルトライフルなんて効くのか?
「わ……私の……出番ですね」
「休んでたほうが良いんじゃ……」
カンタレが車から降りてエイリアンに指を指した。
パァン
エイリアンが弾け飛んだ。
「すごいな」
野原さんが窓を開けてカンタレに拍手をしている。カンタレはそれどころじゃなさそうだけどな。
「大丈夫なの?」
「魔力を使い果たしたんだろ」
「とりあえず車に運び込みましょう」
俺の車の後部座席に座らせたけれども、これ以上頼らない方が良さそうだ。
「もう二体出てきた!」
マジかよ。何でこんなに出て来るんだよ!?
「とりあえず撃て!」
美香がM16をエイリアンに撃っているけれどもそんなに効いてないぞ。金澤と野原さんの拳銃にいたってはまったく効いてない。
「これどうすんの!」
「野原!車から降りて!」
「え?うわあああ!」
エイリアンがピックアップトラックを持ち上げた。中に乗っていた野原さんは何とか逃げ出したけれども……。
「車を投げる気!?」
「しかもカンタレがいる車に投げる気だ!」
「気を引くためにあいつに撃ちまくりましょう」
今、カンタレは魔力を使い果たして気絶して、俺の車の後部座席で寝てるんだぞ!
タタタタタタ
ダメだ。こっちに投げそうにない。
「カンタレ!逃げろ!」
エイリアンが車を投げた。もう駄目だ!……あれ?ピックアップトラックが宙に浮いている?
「カンタレ起きてたの?」
「ここからじゃわからねぇ」
ドゴッ
ピックアップトラックがエイリアンに飛んでいって当たった。
「おお!このまま殺ってしまえ!」
路肩の放置車両が次々と浮き上がる。すげぇな。
「すごいですね」
「でも、なんかこっちに飛んできてないか?」
「……避けろ!」
カンタレ!俺たちは敵じゃない!車を投げるな!
「これってどういうこと!?」
「とりあえず対向車線のトラックの陰に隠れろ!」
トラックの陰に隠れると車は飛んでこない。変わりにエイリアンに飛んでいっている。
「アレってもしかして」
金澤、お前が思っていることは正解だろう。
「そうだ。カンタレが暴走しているんだろうな」
カンタレが暴走するのはこれで二回目なんだよな……初回は停めるのが大変だったよ。戦車二台に、装甲車五台、けが人二十人を犠牲にしてようやく収まったんだよな。
「前に暴走したときって何が原因なの?」
「確か……今回と同じく魔力の使いすぎだったかな?」
「あんた達も学習しなさいよね……」
トラックの陰からカンタレの方を見ると倒れたエイリアンの上に大量の車が乗っている。エイリアンはピクリとも動いていない。死んだな。
「エイリアンを倒したって事は……」
エイリアンを押しつぶしていた車が浮き始めて、すぐにこっちに飛んできた。
「皆トラックから逃げて!」
トラックの運転席とボディーに車が突き刺さる。
「あっぶねぇ!」
「どうするんですか!?エイリアンよりもやばいんじゃないですか!?」
橋本さんの言う通りだ。この世で一番やばいのはカンタレかもしれない。




