三十八話 デッサン人形
「またエコ系統の車買ったの!?」
「しょうがないだろ!好きなんだから!」
「まぁまぁ、今は逃げましょうよ」
橋本さんの言う通りだ。見たところスマートキーは乗せてあるみたいだしエンジンは掛けれそうだ。
「この車で樹海に向かうのは良いけど、この渋滞どうするの?」
そうだった。主要な幹線道路はどこも渋滞していたんだった。……しょうがない。歩道を走るか。
「歩道を走るしかないだろ」
まずは積載車に乗せ掛けのところを降ろさないとな。車に乗り込んで始動スイッチはどれだ?あった。車によって違うからいちいち探さないといけないんだよなぁ。一応システムは起動できたしバックさせてっと……おー、モーター独特の音だ。
「なに感動してんの?早く降ろしてよ」
感動するのは後にしよう。って言ってもどうせこの車も最終的にはボロボロになるんだろうな。
美香と橋本さんを後部座席に乗せて歩道をゆっくりと走ろう。歩道を歩く人がすごいこっちを睨んで来る。そりゃ、車が歩道を走ってくれば睨みたくもなる。
「そこの交差点を曲がって中央自動車道に乗って」
高速を使うのか?しかも静岡方面とか絶対に検問とかしてるだろ。
交差点を曲がると、ほら検問だ。しかも、所轄の警察官じゃなくて機動隊だし。あ、警察官の一人がこっちに気が付いた。
「どうする?」
「突破しちゃって」
マジかよ。さっそく愛車を傷つけなくちゃいけないのか。
「早く!」
「あー!分かった!」
アクセルを踏み込むとモーターの音が車内に響き渡る。検問の一番突破出来そうなのは……一般車と警察車両の間か。
ポコポコ
カラーコーンを弾き飛ばしながら検問を突破しようとすると警棒を持った機動隊員が寄ってきた。
ガァン
あの野郎!後部座席のドアを殴りやがった!
「そのまま突っ切って!」
言われなくてもアクセルをべた踏みしてる。流石は本格的な4WDだ。前のプリウスじゃこんなことは出来ないな。普通は検問なんて突破しないけど……。
中央自動車道は検問をしていたおかげで一般車の姿は見えない。
「後ろからパトカーが来てるよ。しかもSUVタイプの」
「撃ちますか?」
「待て。あのパトカー様子がおかしいぞ」
パトカーの集団を見てると運転席に一人しか乗ってない。普通パトカーって二人以上で乗るはず……。
「横から一台合流してきます!」
横から合流してきたのは、はしご車だ。間近で見るとでかいな。ん?こっちに幅寄せしてくる。どんな運転してるんだ!?
「あぶねぇな!」
車体の横には新宿消防署って書いてある。後で苦情の電話でも入れてやる。
「一也!運転席を見て!運転してるの人間じゃない!」
美香に言われて運転席を見てみると運転していたのは等身大のデッサン人形だ。後部座席にも人形が座ってこっちを見ている。ということは、後ろのパトカーも……。
「後ろのパトカーも人形が運転してます!」
「嘘だろ!?」
「横!横!」
横のはしご車がさらに幅寄せしてきた。これ以上は中央分離帯に擦る!ブレーキを踏んで後ろに付いた方がよさそうだ。
「次の八王子で降りようよ!」
出来れば降りたいけども走行車線にはSUVタイプのパトカーが2台ブロックしているし、後ろには覆面数台、前にははしご車だ。どう考えても当たり負けするのは目に見えている。
「前見てください!」
前のはしご車のはしごが動いて、その上には人形が数体はしごに乗っている。まさかこっちに飛び移る気か!?
「あいつ等を撃てよ!」
「そうだった」
美香が窓を開けて拳銃を撃った。
バキャッ
人形の頭部が吹っ飛んではしごから落ちていった。この調子で頼むぞ。
「橋本さんは横のパトカーを!」
橋本さんが窓を開けて横のパトカーを狙っている。
パン
バスン
真横のパトカーがスピンして後続車を数台巻き込んで事故を起こした。タイヤを狙ったのか。その機転はありがたい。
もうすぐ八王子インターだ。橋本さんが作ってくれたチャンスを無駄には出来ない。
「無理です!」
橋本さんがすごい形相で言っているのがバックミラーで見えた。そして走行車線に入って出口を見ると大型タンクローリーが道を塞いでいた。ここまで先回りされていたのか。
「すぐ八王子料金所よ!」
そうだった!ここで高速を降りることしか考えてなかったから、料金所のことを忘れてた。
ドガッ
両サイドからパトカーに挟まれた。このまま料金所のゲートにぶつける気だ。けど、そんな事はさせない。この車のパワーを見せ付けてやる。
「押し返す気!?」
「あぁ!」
料金所が迫ってくる。行ってくれ!
ゴシャッ
両サイドのパトカーは料金所のゲートに衝突した。何とか難関は越えた。でもまだ後ろには覆面数台に正面にははしご車か……、こっちの戦力は拳銃三丁……何とかなるだろ。
「ダンプカーが迫ってきます!」
こんなときに追加なんて勘弁してくれよ!……ダンプが後ろの覆面を中央分離帯に挟んで潰し始めた。あ、覆面が中央分離帯を突き破って対向車線のトラックと激突した。あのダンプは俺達の仲間か?
「やっほー」
車の横を佐藤が飛んでいる。地下鉄の基地に行ったんじゃなかったのか?
「何か大変そうだから付いて来た。後ろに大山さんもいるよ」
本当だ。対物ライフルを持っている大山さんがいる。そんな事よりも残っているパトカーをどうにかしてくれ!
「どうせ後ろのパトカーに手を焼いているんでしょ」
佐藤が拳銃を取り出して覆面に撃ち始めた。
「飛びながらはきついんだよね」
そんな事いいながらも全弾人形に命中しているじゃねぇか。俺にもそんな腕があれば良いんだけどな。気が付くとパトカーや覆面はいなくなっていた。
『山梨県に入りました』
カーナビから女性の声が聞こえてきた。




