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異世界にエコカーで行く  作者: タコ中
現実世界編
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三十七話 ご制約者

 これは本格的に不味いぞ。この話が本当なら俺達は政府を相手にしないといけないってことか。


「もしかして佐藤さんからの電話ですか?」

「え?どうしてそれを……」

「それくらいの情報はもう知ってますよ」


 異世界の時もそうだったがどこも潜入する奴のレベルが高すぎないか?


「電話越しに少し聴こえていましたが政府が動いたみたいですね」

「そうみたいですね」


 橋本さんが電話で誰かに通話し始めた。すると、駅構内のスピーカーから音声が聞こえ始めてきた。


『事前に説明したように救出班は町に散らばっている特別治安軍の人を保護して!残りは待機!』


 この声は美香だ。店の外では武器を持った人が駅のホームに向けて走っている。


「田中さんも一緒に」


 こうなったら付いて行くしかなさそうだ。ところで武器が無いな……。


「武器はこれを使ってください」


 渡されたのはリボルバータイプの拳銃だ。予備の弾は無いらしい。


「では、私達も出発地点へ急ぎましょう」


 橋本さんに付いて行くと駅のホームへ付いた。線路内には様々なバイクが並んでいた。どれもナンバープレートは外されていた。そして、武装集団の前には美香が拡声器を持っていた。


「救助すべき人は現在中野区の病院、他は東京都内に居ることはわかっている。各自見つけ次第保護してここに連れてきて!佐藤さんと大山さんは現在上空で自衛隊のヘリから逃げているとの情報が入っている。これは私と一也、橋本で対処するから安心して。……それでは出発!」


 武装集団がバイクに乗り込むと走り去っていった。線路には美香のバイクと、教習でよく使われているらしいバイクが残っている。ってか、作戦とか聞いてないんだけど?


「とりあえず私の後ろに乗って上空で逃げている二人を備え付けの発炎筒で誘導して」


 とりあえず言われたように美香のバイクの後ろにまたがると、バイクの側面に発炎筒が貼り付けてあった。これを使えばいいのか。


「それじゃあ、行くね」


 美香の運転するバイクは真っ暗な地下鉄の線路を猛スピードで走る。


「銀座に出るよ!」


 バイクが駅のホームに入り、階段に板をかけただけのスロープを登って外に出た。


「何だよこれ……」


 外では交差点内や、道は車で埋め尽くされて空には自衛隊のヘリや、警察ヘリが何機も飛んでいた。


「一也、スマートフォン使える?」


 スマートフォン?東京にいて使えないことって無いだろ……あった。インターネット回線は切断されて、電波は圏外だ。


「使えない」

「政府だけじゃないわね……。橋本!付いて来て!」


 バイクで車道を走るにしても、車が所狭しと並んで人がその間を通るのも難しい状態だぞ。


「しっかり捕まってて!」


 正気の沙汰じゃない!今、美香はクラクションを鳴らしながら歩道を走っている!


「二人はいた!?」


 空を見上げると、佐藤と大山さんがいた。二人とも警察のヘリに追われている。


「十二時の方向に!」

「発煙筒!」


発炎筒を焚いて空に掲げると上空の佐藤が気づいてくれた。横を併走していた大山さんと何かを話した後、佐藤だけこっちに飛んできた。


「斉藤さん!?後ろに一也を乗せてどうしたの!?」

「話は後で!佐藤さんは上空にいる人を連れて浅草近くの建設中のビルに逃げてください!私の仲間が安全なところまで案内します!」


 佐藤は頷いた後上昇して大山さんの所へ飛んでいった。あれ?これで俺達の仕事は終わって帰るだけじゃないのか?来た道とは間逆の方向に進んでいるような……。


「おい!もう帰るんだろ!」

「あと一人助けなきゃいけない人が居たの!」

「誰だよ!」

「カンタレという魔法使いよ」


 あー、納得。カンタレはあの世界では凄腕の魔法使いだったから助けることが出来れば、かなりの戦力になるだろう。でも、富士の樹海に有る町に一足先に帰ったんじゃなかったけ?


「どこに居るか分かっているのか?」

「富士の樹海よ。彼を見つけ出さないと不味いことに……」

「前!」


 路地から車が飛び出してきた。美香がブレーキを掛けているがこの速度でこの距離じゃ間に合わない。


ガシャン


 よく事故の瞬間はスローモーションに見えるって言うけども本当なんだな。飛び出してきた車のボンネットに横から突っ込んでいるバイク。そして宙を舞う俺と美香。その向こうでは橋本さんがこっちを見て驚いている。あぁ、死んだかも。


「ぐえっ!」

「がっ!」


 二人とも地面に背中から叩きつけられた。痛い。息が出来ない。息を吸っても吐くことが出来ない。


「しっかりしてください!」


 橋本!美香を先に助けるのは良いけども俺の事も気にかけてくれよ。


「私は大丈夫だから一也を!」


 ようやく来てくれた。でも遅い。もう息が出来るようになってるよ。路地から出てきた車の人はハンドルを握ったまま何かをぶつぶつ言っている。ショックで現実逃避を始めたな。俺も最初に事故を起こしたときはこんな感じだったらしい。


「バイクはもう使えそうに無いわね」

「それよりもここから早く離れた方が」


 周りを見てみると人が集まって写真を撮っている。インターネットは使えないからSNSには投稿はされないだろう。同じ場所に留まればそのうち警察がやってくるだろう。


「そこらへんの人から車を奪うのは流石にね……」

「向かい側に中古車屋がありますよ」


 通りを挟んだ向こう側に大手中古車ショップがあった。まさか買うのか?


「とりあえず行きましょう」


 中古車ショップにいくと小奇麗な中古車が並んでいる。店の脇には積載車に車を積み込もうとしている男性がいた。


「とりあえず店の中で店員を脅す……交渉しましょう」


 おい。さっきは奪うのはアレとか言いながら盗む気満々じゃねぇか。


「おい!何勝手に入ってきてるんだよ!今は休業中だ!」

「車を一台貰えない?」

「何馬鹿げたことを……お前らテレビで見たことあるぞ!凶悪犯の斉藤じゃねぇか!」


 斉藤、有名人だな。あ、店員が積み込み作業の途中で逃げた。


「店の中の人も居なくなったみたいだし、勝手に持って行きましょう」

「ちょっと待ってくれ」


 積載車に積み込もうとしている車に見覚えがある。三菱のアウトランダーの白……、車内にはご制約車の張り紙。そして、ご制約者の名前は田中一也だ。


「この車がどうかしたの?」

「この車、俺が買った車だ」

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