三十四話 たこ焼き
海底トンネルの天井が崩れて海水が大量に流れ込んでくる。
「皆さん走って!」
全員言われなくても走っていた。それでも、迫り来る海水の方がスピードが速い。海水に飲み込まれる前に息を吸って……。
ガボッ
海水に飲み込まれた。周りでも救助者やゴブリンが出口に向かって流されているのが見える。息の続くうちに出口まで行かないと確実に死ぬ。確かこういうときは少しずつ息を吐いていくのが良いんだっけ?
すぐ近くにいる救助者の男性は……もう駄目だ。横のゴブリンも水中でプカプカ浮いている。その手に握られているのはピンの抜けた手榴弾か。……ピンの抜けた手榴弾!?
ドン
「ガハッ」
ヤバイ。少し離れたところだから衝撃で内臓がやられずに済んだけども、吸っていた空気を全部吐いてしまった。息が……。
少し遠くから人影が泳いでくる。あの姿は蛇女?ダメだ。意識が……。
「知らない天井だ」
「何かっこつけてんのよ」
佐藤が持っていたファイルで頭を殴ってきた。どっか怪我してるかもしれないのに止めてくれよ。
「とにかく、一也が無事で良かった」
「俺は一体……どうなってたんだ?」
「花山 純さんが出口まで運んでくれたんだよ」
「花山……?」
「蛇の人だよ」
蛇女はそんな名前だったのか。俺も人のこと言えないけども普通の名前だな。他の人はどうなったんだろう。
「このファイルを見ればこの作戦の結果が分かるから目を通しておいてね」
「お前はどこに行くんだよ」
「お偉いさんに呼ばれちゃって……ね」
「そうか。いってらっしゃい」
「うん。行って来る」
さて、ここは病院だろうな。ザ・病室って感じの部屋だ。……ファイルでも見るか。
被害者数、魔王軍残党27人、特別治安軍7人、要救助者9人死亡ってかなりの数だな。特別治安軍ってのは俺達のことか?そうだろうな。そんな変てこな名前だったのか。っと、続きを読まないと。
要救助者の救助に失敗。特別治安軍の重武装ゴブリンが海ほたる内に突入するが魔王軍残党が海ほたる内に仕掛けられたプラスチック爆弾で自爆。海ほたるは崩壊。海底トンネルも水没。
文字で見るだけでも、すごい被害だ。作戦は失敗だな。佐藤がお偉いさんの所に行ったのは謝りにいったんだろ。装備もここまで揃えて貰っておいて救助者の全員死亡に加えて海ほたるの崩壊、海底トンネルの水没。一体何億円の損失なんだ?
ピピピピ
ビックリした。スマホか。佐藤からだ。
『ねぇ。私はまだ帰れそうに無いから彼女さんにでも会って来れば?数人の東京の滞在許可は貰っておいたから』
「分かったよ。いつまで大丈夫なんだ?」
『二日後の正午にこの病院の待合室にいてね。あと202号室の大部屋に他の滞在許可を貰っている人達がいるから、このことを伝えておいてね』
通話を切られた。連絡用のアプリがあるんだからそれ使って一斉送信しとけよ。202号室だったな。
202号室に入ってみると、沢田さんや花山、他にも実験されてしまった人が数人いた。
「あ!田中さんだ!」
「どうかされたんですか?」
「佐藤から伝言がありまして……」
佐藤から伝えられた内容をそのまま部屋にいる人達に伝えると、全員喜んだ。
「これで家族に会うことができます」
「やった!お婆ちゃんに合える!」
皆それぞれ大切な人に会いに行くんだな。そりゃそうだ。連絡を取ることすら許されなかったからな。早速電話するか。コールをするとすぐに出てくれた。
『急にどうしたの!?』
「いや、滞在許可を貰って二日後の正午まで東京にいることが出来るんだ」
『それは分かったけども、今は仕事中だから六時に東京駅の正面で待ち合わせね』
「分かった」
『うん。じゃあ切るね』
電話を切ると時計を見る。三時か。何をして暇を潰そうかな。そうだ。何かおいしい物でも食べに行くか。えーと、今人気なのは浅草にあるたこ焼き屋……って、なんで東京でたこ焼きなんだ?人気なら食べに行ってみるか。
病院から外に出ると意外と暑かった。この中、中野区から浅草まで電車で行くのめんどくさいな。レンタカーでも借りるか。
「どの車にしますか?」
「コンパクトカーで二日間借りれますか?」
「えー、料金は一万三千円となりますが宜しいですか?」
「はい。それでいいです」
「それではこの紙に氏名、年齢住所をお願いします」
名前を書き終わってお金を店員に渡すと、鍵を渡された。
「車を返却する際はガソリンを満タンにして返してくださいね」
「分かりました」
車は1000ccのコンパクトカーか。街中を走る文には問題ないだろう。お、カーナビも付いているのか。でも、確か東京の地形自体が半年前の爆発で大きく変わってカーナビの道順通りに進めないんだよな。
『300メートル先右方向です』
さっそく都庁方面に向かおうとしている。そっち方面は消し飛んで建物どころか、地形すら変わってるから行けないんだよな。
『まもなく右方向です』
無視っと。
『ルートを再検索しました。次の交差点を右です』
ダメだ。もうカーナビには頼らない。
最初のカーナビの到着予想時刻よりも三十分くらい遅くなったが何とか浅草に到着した。たこ焼き屋はどこだ?あった。人は並んでないな。
「たこ焼き一つください」
「あいよ。ポン酢?ソース?」
「あー、ポン酢で」
たこ焼きが入ったパックを渡された。それと、ポン酢の入った容器だ。とりあえず横のベンチで食べるか。
たこ焼きを一個そのまま食べると熱い。でも、外はカリッとしていて中はふわふわしてる。中に入っている蛸はかなり大きい。六百円の価値は十分にあった。ポン酢をつけて食べると……うーん、ソースにすれば良かったかな?まぁ、おいしいけど。
たこ焼きも食べえたことだし、時間も今から向かえばちょうどいいだろ。さ、東京駅に行くか。




