三十話 弾薬チェック
「明日が出発の日か……」
「どうしたの?怖いの?」
佐藤と一緒に朝ごはんを食べているけれども、もしかしたら今日で最後になるかもしれないんだよな。
「佐藤は怖くないのか?」
「そりゃ怖いよ。でも、やらなきゃダメだしね」
「逃げれないのか?」
「敵前逃亡は重罪なんだよ」
佐藤が朝食を食べ終えて食器をキッチンに持っていった。俺も食べて、今日はゆっくりするんだ。
「あ、そう言えば武器の確認しに行くから手伝ってよ」
「え!?嫌だ」
「拒否権は無いよ。町長の命令だからね」
佐藤と一緒に町の一角にある軍事用品の置き場に向かうと数体のゴブリンと実験されたであろう人がいた。
「佐藤さん。久しぶりです」
「沢田さん。どうかしたんですか?」
「いえ、こういう武器とかには今まで縁がなかったものですから、珍しくて」
この犬耳を生やした中年男性は沢田というのか。せっかくなら女の人が犬耳を生やして欲しかったな。
「そちらの方は?」
「皆さんは知らないですよね。私を命をかけて救ってくれた田中一也さんです」
間違っては無いけどもその紹介はやめてほしいな。何だか恥ずかしい。
「それでは私達は行きます」
「明日頑張りましょうね」
澤田さん達は行ってしまった。てっきり手伝ってくれる物だと思っていた。
「それじゃあやるわよ」
「何を?」
「武器がちゃんと揃ってるかよ。弾薬の数まで数えてね」
「うっそだろ!?」
「大丈夫。後から他の人も来るから。んじゃ、そっちの武器庫からよろしく」
あー、めんどくせぇ。大体、今から数を数えたところで足りなかったりしても取り寄せるには遅すぎるだろ。えーと、まずは5.56ミリ弾からか……箱単位で数えればいいのか。
ー30分後ー
全部あった。次は9ミリ弾……気が遠くなりそうだ。
「頑張りましょうね」
そうだ。頑張らないとな。って……誰だ!?
「誰だ!」
「ごめんなさい。驚きましたか?」
20代の女性だな。頭には猫耳……よっしゃ!
「なんでガッツポーズをしてるんですか?」
「いえいえ、こっちのことです」
「まぁ、猫耳をつけてれば不思議がるのも当然ですよね」
「もしかして、実験された人ですか?」
「そうです。私の場合ご覧の通り猫ですけどね。私の名前は金澤 千歳です」
こんな若い子まで実験体にされていたのか。いや、俺と佐藤も若かったな。とりあえず手伝ってくれるみたいだし、作業がいろいろな意味で捗りそうだ。
「大変そうなんで手伝いに来たんですが邪魔でしたか?」
「そんなこと無いですよ。すごく助かります」
「どうすればいいですか?」
「そこの手榴弾の数でも数えてください」
「分かりました」
これで少しは早くなっただろ。それにしても、上手い具合に耳が同化してるな。佐藤もそうだったけど羽や耳、尻尾が自分の体の一部だったかのように動かせている。金澤さんも時々尻尾が動いているし。
「その尻尾とかは動かす練習したんですか?」
「いえいえ、洗脳から開放されたときに有る程度は動かせるようになってましたよ」
考えてみれば、東京で暴れていた狼男も爪とかを使っていたし、洗脳したときに何かしたのか?今となっては確かめようがなくなったけど……。
「えっと……名前聞いてませんでした」
「そうだった。名前言ってなかったね。田中一也です」
「田中さんはどうしてこの町にいるんですか?見た感じ実験体にされた様子も無いですし……」
そうか、この町で魔法を使ったことは一回も無かったな。使ったところで死ぬかもしれないんだけど……。
「俺は、蘇生魔法を使えるんですよ。人間に使ったら俺が死ぬんですけどね」
「そうだったんですか。この町で普通に生活してる人がいるのが珍しくて……」
この町では魔法とか実験されて身につけた能力を普通に日常生活で使ってるからな。俺みたいに能力を使わないで過ごしている人の方が珍しいからな。
「今は弾薬とかを数えよう」
「そうでしたね。目的を見失ってました」
金澤さんはその後、テキパキと武器や弾薬の数を数えてくれた。逆に俺が邪魔をしていたかもしれない。いや、邪魔をしていたな。
「数え終わりましたね」
「結局、全部揃ってて良かったよ」
「明日の作戦には参加するんですよね」
「参加するよ」
「私は救護班ですけど参加するので一緒にがんばりましょう」
金澤さんが拳を突き出している。これは俺も拳を軽く当ててやればいいんだな。
「では、私は帰りますね」
「おう。じゃあな」
佐藤も先に帰っているみたいだし、帰るか。
家に帰るとすでに佐藤が夕飯を作って待ってくれていた。今日はかつ丼か。縁起物だな。
「いよいよ明日だね」
「上手くといくと良いな」
「大丈夫よ。作戦に参加する人達はみんな訓練を受けているんだし、相手は所詮残党よ」
「そうだな。弱気でいたら勝てる物も勝てないからな」
佐藤の料理はいつも少し濃い目だ。でも、今日はちょうどいい感じの味付けだったな。美香よりも料理は上手かった。美香が下手すぎるだけか。
「おいしかった」
「んじゃ、片付けとくから先に寝といたら?」
「もう九時か。お言葉に甘えて先に寝さしてもらうよ」
ベットに入ると、目覚まし時計を日の出の一時間前にセットする。いよいよ明日だ。緊張するな。他の人達も同じように緊張しているんだろうか?そんな事を考えていたら眠れなくなってきたな。水でも飲むか。
キッチンに向かうと、佐藤が椅子に座って何かを見ている。写真か?
「何見てるんだ?」
「家族の写真。これしかないんだ」
佐藤が家族写真を見せてくれた。真ん中には佐藤だろうか?晴れ着を着ている。その両端には母親と父親らしき人がいる。母親は良く見ると妊婦だ。
「お母さんの出産予定日はあの事件のあった日なんだ」
「元気な子供が産まれてると良いな」
「ううん。お父さんは都庁に勤めていて、お母さんは新宿にある産婦人科に居たんだ。でも、爆発に巻き込まれたのか未だに行方は分かってないんだ」
「そっか……」
気まずいな……、佐藤には悪いけどもこういう時の慰めの言葉なんて俺は分からないから逃げさせてもらうよ。
「んじゃ、寝るよ」
「うん。おやすみ」
俺は部屋でベットに入ると、すぐに眠りに付くことが出来た。




