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異世界にエコカーで行く  作者: タコ中
現実世界編
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二十八話 協力要請

 一也が意識を失ってから半年が経とうとしている。私のように実験された人達や、異世界からやって来たゴブリン達、ドラゴンは富士の樹海に作られた町に集められて自衛隊の監視下に置かれながら生活をしている。


「佐藤さん、田中さんの様子はどうですか?」

「変わりません。ずっと眠ったままです」


 カンタレさんはこの町で診療所を開いてくれてこうして定期的に一也の診察に来てくれる。ついでに私の羽の治療もしてくれた。


「たまには羽を使って飛んでくださいね。そうしないと、羽の筋力がすぐに落ちてしまいますよ」

「分かってますよ。でも、飛べるのは町の上空百メートル以内ですけどね」

「そうですよ。それを超えると自衛隊によって撃ち落されますからね」


 この町から出るときは幾つもの書類を書いてお偉いさん達の判子を貰わないと出られない。まぁ、この町には電気屋から車屋まであって、生活には不便はしないんだけどね。


「あれから半年が経ちましたけど、すごい被害ですね」

「死者と行方不明者を合わせて百万人だったよね」

「あ、時間は大丈夫ですか?」

「おっと、もうこんな時間ですか。診療所に戻りますね」

「今日はありがとうございました」

「また明日この時間に来ます」


 カンタレさんの診療所は毎日終わるまで人がいっぱい来てるから大変そうだね。かく言う私も、この町の町長としていろいろ頑張らないとダメなんだけどね。


「佐藤さんもお出かけですか?」

「はい。これから東京の方で偉い人達とお話があるんです」

「バイクで行くんですか?」

「はい。羽が邪魔で車に乗るとシートを破っちゃうんですよ」

「大変ですね」

「本当は飛べると楽なんですが航空法がなんとかで許可が下りないんですよ」

「羽があるのに自由に飛べないんですか……」

「あ、もうこんな時間だ!行ってきます!」


 本当に毎回自分で東京に行くのも疲れるけども、いくら送迎をお願いしても断られるしな……。しかも、高速道路を走ってると羽を閉じてても空気抵抗がすごいんだよ。それでも、高速代と燃料代は出してくれるんだけどね。

 こうして、高速道路を走ってると、毎回マスコミが追いかけてくるんだよね。ほら来た。今日はひーふーみー、三台か。


「佐藤さん!少しお話を!」


毎回どこから情報を仕入れてくるんだろうか?どうせ今回もバイクの機動力を生かして逃げ切るのに懲りないなぁ。


「いい加減にしてよ!一般の人に迷惑がかかってるでしょ!」

「そう思うなら停まって下さいよ!」


 確かに私が取材を受ければ済む話だけども絶対に捏造されるに決まってる。


「国民の皆さんはあなた達のことを知りたがっているのですよ!」


 あー、いい加減うっとおしくなってきた。パンクでもさせてやろうかな。爪をちょっと振ってっと……。


パァン


「どうした!?」

「パンクした!」

「おい!路肩に寄せろ!」


 マスコミの車が追い越し車線で停車した。そんなところで停まったら追突されるよ。


ガシャン


 あーあ。大型トラックが追突した。ちょっとやりすぎたかな?でもこれで懲りたでしょ。

今回は、首相官邸だっけ?どうせ前回も話した賠償とかそんな事なんだろうな。そんな事を考えてるうちに東京だ。新宿と羽田空港周辺は更地になって何も無い。今のところ東京都庁の跡地に集団墓地を建設してるんだよね。


 首相官邸の前に着いたけどもバイクはこのまま前に止めて置けばいいのかな?


「佐藤歩さんですね。こちらへ」


 正面にいたのは小銃を持った自衛隊か。まだ、魔王軍の残党がビルに隠れていたりするから東京の中では武装は外せないらしい。私も、懐に拳銃を持っているんだけどね。


「佐藤さん、銃はこちらに」


 流石に、総理大臣に会うのに銃を持ったまま会うことはできないよね。


「総理はこちらです」


 案内された部屋はよくテレビで見ていた部屋だ。ここに入るのは初めてだよ。


「始めまして。内閣総理大臣の阿蘇あそ 神路かみじです」

「私は、町長を勤めている佐藤歩です」


 総理大臣の手は案外綺麗だ。良いハンドクリームでも使ってるのかな?


「早速本題に入りますが、今回の件の主犯である実島については内密でお願いします」


 そう来るとは思っていたよ。自衛隊員が今回の主犯だと世間に知れたら政府の信用は地に落ちるかもしれないからね。


「それで?私達に何を要求する気なのですか?」

「要求は唯一つです。日本政府に協力してくれませんか?」

「協力ですか……?一体何を協力しろと言うのですか?」

「それはですね……、今は報道規制で何とか隠せていますが、そちらの世界の魔王軍の残党が手強いのです。そこで、殲滅をお願いしたいのですがよろしいですか?それで、前回話していた賠償金の話は無かったということで」


 これは、かなりおいしい話だ。前に国会で話をしたときは賠償金額が日本の国家予算の十倍でカンタレさんが腰を抜かしていたっけ?


「分かりました。私達の方で部隊を編成して残党狩りを行います。ですが、私達に動かれては政府も困るんじゃありませんか?」

「それについては問題ありません。魔王軍の残党の位置は特定できていますが、自衛隊が動くと一部の国民から……ね」


 あー、政府も苦労してるんだね。お疲れ様です。


「武器や、車両については米軍の払い下げの物を使ってください。日本政府が必要な分を購入しておきます」

「そうですか。町に戻って早速ですが部隊を編成しておきます」




 樹海の町に戻ってきた。帰りは送迎してもらったし、バイクは送ってくれるみたい。これから政府の対応が変わってくれると良いな。


「佐藤さん!戻ってきていたんですか!」

「あ、カンタレさん。話したいことが……」

「そんな事よりも診療所に来てください!」

「一体どうしたんですか?」

「田中さんが……目を覚ましたんです!」


 診療所に向かい、一也がいるという部屋の扉を開けると……一也が外を眺めている。その姿を見たら自然と涙が流れてきた。

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