二十七話 蘇生
ダガーが何か硬い物に当たったぞ。一体佐藤は胸に何を入れてるんだ?
「うわぁ!」
佐藤を抑えていたアフが投げ飛ばされた。カンタレは息を切らしているな。魔力かなんかを使い果たしたのか。
「一瞬焦ったが、胸のダイヤモンドのペンダントおかげで助かったよ」
佐藤の奴ガナスの町で貰ったダイヤモンドの板をペンダントにして首からぶら下げていたのか。服の下にあったせいで気が付かなかったよ。
「さぁ、今度は三人仲良く死んでもらおうか」
佐藤が腕を振り上げた。その方向にはアフが!
「アフ!避けろ!」
「へ?」
アフが胴体を真っ二つに切られた。そのまま展望回廊から上半身だけが落ちていった。こんなにも簡単に死んでしまうのか。かく言う俺も、気が遠くなってきた。斬られた右腕も最初は痛みがあったが、今ではもう何も感じなくなった。もうそろそろ俺も死ぬな。
「田中さん!受け取ってください!」
何だ?カンタレが缶ジュースを投げてきたぞ?
「それの中の液体を傷口に掛けてください!」
「余計なことをしやがって」
ブォッ
「うわぁ!」
何とかカンタレは避けることが出来たな。カンタレの言う通り缶ジュースの中身を傷口に掛けると、腕が生えた。腕が生える光景がこんなにも気持ち悪いとは思わなかった。
「魔法使いが小ざかしい真似をしやがって!」
「こちらも最後の手段です!」
カンタレが持っている杖が光り始めている。なんかやばそうな雰囲気が伝わってくる。ひとまず離れた方がよさそうだな。
「喰らえ!」
杖を投げた!魔法というか槍投げだ!
「こんなの避ければ……足が!?」
よく佐藤の足を見ると氷で固められてる。いつの間にそんな事をしたんだ?それよりも杖が佐藤に向かってすごいスピードで飛んで行ってる。
佐藤は羽で自分の体を包んで身を守ろうとしているが、どう見てもあの杖のスピードは防ぐことは出来ないだろ。
ドスッ
ほら、羽を突き抜けて腹に刺さった。
「もう限界です」
カンタレが倒れた。魔力でも使い切ったのか!?
「うぐっ……お前達……覚えておけよ」
こんなときでも捨て台詞か。悪役の鏡だな。って、そんな展望回廊の淵まで行ったら落ちる!流石にこの高さから落ちたら頭が原型を留め無いかもしれない。そうなれば、蘇生できるかも分からない。
あ、落ちた。死んだな。下に行く前にカンタレが無事かどうかを確認しないと。
「カンタレ!大丈夫か!?」
「私は大丈夫ですが、魔力がもう少し回復するまで動けそうにありません。先に佐藤さんのところへ向かってください。人間を蘇生するのに時間がかかりますからその間に私も行きます」
「分かった!先に行ってる!」
カンタレが無事そうで良かった。カンタレが死んだら俺が一人で蘇生させて俺が死んでしまう可能性があるからな。
エレベーターが使えればいいんだが……。
チン
使えた!奇跡だな。そう言えばカンタレにエレベーターのこと行ってなかったけれども、魔法の力で何とか降りてくるだろう。
エレベータに表示されているメートルがどんどん0に近づいていく。この高さから落ちたんだ。佐藤は死んで洗脳されていた人達は洗脳が解けたことだろう。それでも、都庁の目の前にいた美香は多分生きてる確率は低いだろうな……。
エレベーターが下の階に着いた。佐藤が落ちたのは確かスカイツリーの前の広場だったはず……。いた。あの高さから落ちても死体は綺麗だな。これなら蘇生させても問題は無いだろ。でも、一応死んでいるか確認しとくか。
「息はしてない、心臓は……まぁ、良いや」
確か、蘇生をするときは生き返れと念じれば始まるんだっけ?とにかく、やってみるか。
あれ?前に鳥を蘇生させたときはすぐに疲れたのに今回は疲れないな。それとも、蘇生に時間がかかるから少しずつ疲れるのか?
目の前にバイクが一台止まったな。あの猫耳型のヘルメットは美香のヘルメットだ。良かった。生きていたのか。
「美香、悪いけども今は取り込み中なんだ。話なら後でするから待っててくれ」
パン
え?今の音は銃声か?目の前の美香が拳銃をこっちに向けている。そして、なんかお腹の辺りが暖かくなってきた。何だこれ?血か?洗脳は解けたはずなのに、どうして美香が俺を撃ったんだ?
「馬鹿め!死んでないぞ!」
くっそ!こいつ生きていたのか!?しぶといな。だから、美香の洗脳は解けてなかったのか!
「いい加減に死ねよ!」
ダガーを振り下ろすと、今度はダイヤモンドの板のストラップに当たらずにしっかりと胸に刺さった。
「ぐふぉ!」
間髪いれずに何度も刺す!死ぬまで刺す!
「そこの女!こいつを撃て!」
パン
今度は左肩だ。だが、復活させてもらった右腕が有る!
一体、何回刺したんだろうか……。気が付くと美香も倒れているし、佐藤も胸のところが真っ赤に染まっている。俺も、腹からの出血がひどい。限界だ。でも、最後に佐藤を蘇生させてから気絶してやる!
「生き返れ!」
うぉっ!何だこの何かを吸い取られるような感覚は。ものすごい勢いで疲れていく。これは、意識不明になってもおかしくないな。もう少しだけ持ってくれ。せめて佐藤が目を開けるまで持ってくれ!
「うっ……」
佐藤から声が!そして、目を覚ました!でも、ヤバイ。意識が……。その後ろでは、美香が起き上がってるな……。良かった……これで二人を助けることが……出来たんだ……。
「ちょっと!一也!?大丈夫!?」
「しっかりして!」
美女二人に看取られて……最高だな。
田中和也はそこで意識を失った。




