二十六話 360メートルの東京スカイツリー
東京スカイツリーの展望デッキの上に佐藤の姿が見える。その周りには自衛隊員の姿も見えるな。このまま目の前に降りても大丈夫なのか?とにかく向かうしかない。
「人がいるところで降ろしてくれるか?」
「ガウ」
佐藤が自衛隊員たちをスカイツリーの中に引き上げさせた。一対一で話し合うつもりか?それとも何か他に考えがあるのか……。
ポチが展望台に着陸してくれた。本当によく飼いならされたドラゴンだよ。
「ありがとうな、ポチ」
「ガウッ!」
ポチは羽ばたいて都庁の方向へ飛んでいったな。アフの救援にでも向かったんだろう。
「よく来たね」
喋り方が実島にそっくりだ。こいつは佐藤の皮をかぶった実島だ。
「いい加減に諦めろ!」
「諦める?残念だが諦めるのにはまだ早いな」
「どういう意味だ?まだ何か策でもあるって言うのか?」
実島のことだ、策の事を聞けば勝手に語りだしてすべて話してくれるだろう。
「残念だが計画は順調に進んでいるんだよ」
計画?これだけ異世界から連れてきたドラゴンとゴブリンを失って果てには洗脳した人達の制御もまともに出来てないのに計画が進んでいる?
ん?佐藤の後ろで光の柱が見える。それも一本では無い。いたるところで白い光が空に向かって伸びている。
「あの光も計画の一部か?」
「よく分かったね。あの光は洗脳した魔法使い達から出ているんだが、どうやら自爆まで出来るらしくてな」
よく光の位置を見てみるとお台場に皇居……それに羽田空港方向にも。
「気が付いたかね?魔法使い達の自爆は一人当たり広島の原子爆弾程度の威力だったよ。それでも、これだけ爆発させれば首都としての機能は終わるだろう」
「てめぇ!」
「おっと、時間だ」
時間?佐藤が見る方向には羽田空港が……まさか!?
羽田空港周辺に大きなキノコ雲だ。衝撃波がここまで伝わってきた。一体今ので何人の人が犠牲になったんだ。
「おい!今すぐ止めさせろ!」
「次は……都庁だ。何かに捕まっていたほうが良いぞ爆風がこっちまで来るからな」
都庁にはアフとカンタレ、それに美香もいるはず……。
目の前が光に包まれると、体が飛びそうになった。必死に地面にへばりついて耐えた。もう少しスカイツリーが新宿に近かったらスカイツリーから紐なしバンジーをしていたかもしれない。
しばらくして煙が晴れると新宿副都心の高層ビルは跡形も無く消し飛んでいた。何が広島の原子爆弾と同程度だよ。それ以上はあるだろ。
「美しい光景だと思わないか?」
「美香……」
「おや、君の彼女か?もしかして都庁にいいたのか、それは残念だったね」
殺す!絶対にこいつは殺す!本体の佐藤には恨みは無いが後で蘇らせてやるからな。
「ほう、そのダガーで私と張り合うつもりか?良いだろう」
ブォン
佐藤が手を振り下ろしたのと同時に右手で持っていたはずのダガーが落ちた。違う。腕ごと落ちたんだ。腕?
「あああああああああああぁああああ!」
「君の力は所詮そんなものだよ。大人しく都庁であの集団に殺されていればこんなに痛い思いはしなくて済んだはずだ」
痛い。痛い。イタイ。でも、美香やアフ、カンタレそして佐藤の敵を討つんだ。
「まだ動けるのか。たいした生命力だ」
異世界のときは足を撃たれた時に気絶したから佐藤がこんな姿になったんだ……今回は何が何でも気絶はしない……!
「しょうがない奴だ。楽にしてやろう」
佐藤がまた手を振り上げた。今度は体を真っ二つか……。
「ガォォ!」
「赤い鱗のドラゴン!?」
ポチだ!ポチがスカイツリーに向かって飛んできている!足に掴んでいるのは俺の愛車だ。そして背中に乗っているのはアフとカンタレ!
「助けに来ましたよ!」
「ポチ!車をあいつに投げ捨てろ!」
ポチが愛車のプリウスを佐藤に向かって投げ捨てた。でも、振り上げていた手を飛んできたプリウスに向かって振り下ろすとプリウスが真っ二つになる。でも、中で一緒に缶ジュースも切られてるな。あれは確か即席でカンタレに液体魔法をかけてもらった缶ジュースだったような……。
ドォォン
こっちには腕を切られた人間がいるんだ。もっと静かな殺し方は無かったのか?いや……殺せてないな。羽で全身を包んで爆風から身を守ってやがる。
「ええい!ちょこまかと!全員まとめて殺してやる!」
佐藤の後ろにアフがいる。一体いつの間に回り込んだんだ?
「今だ!俺が押さえてる間に心臓にダガーを刺せ!」
分かっている。ただ体が言うことを聞かないんだ。佐藤が暴れているな。
ブォッ
嘘だろ……スカイツリーが斬られた!?展望デッキより上が落ちていく……そこまでのパワーがあるのか!?
「田中さん!私も魔法で抑えてますが力が強すぎて……限界が近いです!」
失敗は許されない。しっかり左手でダガーを握って佐藤の心臓を一突きすればすべてが終わる。
「うぉぉぉぉ!」
「や……止めろ!」
いまさら佐藤の顔で泣いても遅い。もう刺さる寸前だ。
ガギィン
甲高い音が360メートルになった東京スカイツリーに響き渡る。




