二十四話 洗脳
あれ?ここはどこだ?確か俺は知らない人の部屋で美香たちと寝ていたはずなのに、どうして真っ黒な空間にいるんだ?前に進んでみても景色が変わらないから歩いているのかすら分からない。それどころか天と地すら分からない。
アハハハハ
子供の笑い声だ。声の聞こえるほうに行ってみよう。そうすれば何か分かるだろ。
しばらくすると公園が見える。小さい砂場と滑り台がある公園だ。そこでは子供達と母親らしき人が数人いるな。みんな笑顔で楽しそうだ。このまま眺めていよう。
母親らしき人が子供達に手招きをしているな。公園の時計が五時を指しているな。もう帰るということか。ん?子供達が動かない。どうしたんだ?母親達も子供に近寄って声をかけても返事どころか一言も喋らないな。まさか……!
パァン
子供達の小さな体が弾け飛んだ。母親達も衝撃で腕を吹っ飛ばされた人や頭まで吹っ飛んだ人もいる。そういえば、どうして俺は冷静に見ていられるんだ?滑り台のところにいた母親は腕だけとなった娘と手を繋いで唖然としてるな。あ、公園にゴブリンが入ってきたな。母親達を銃で撃っているな。中には命乞いをしているが容赦なく頭を打ちぬかれた。
田中!
空から声が聞こえるな。
「いって!」
「起きたか」
アフ?それにカンタレもどうしたんだ?
「今、何か残酷な光景を見えてませんでしたか?」
「え?あぁ、見てたよ」
確かに残酷な光景は見ていたけども、内容を思い出そうとしても良く思い出せない。
「そうですか。私の力不足ですね」
なんだ?なんでカンタレが謝るんだ?
「田中さんが見ていたのは洗脳魔法の効果です。もう少し起こすのが遅ければ手遅れになっていました」
そうか、危うく洗脳されるところだったのか。危ない危ない。そういえば、美香の姿が見えないな。
「美香はどこに行ったんだ?」
「美香さんは……」
「田中、落ち着いてきてくれ。兄ちゃんの彼女さんは洗脳されて部屋を出て行ったんだ」
「どこだ!どこに行ったんだ!?」
「兄ちゃんの車に乗ってどこかへ走り去って行っちゃいました」
「カンタレ!あの周辺の景色が見える魔法を使って見せてくれ!」
「分かりました!見せます!だから胸倉を掴まないでください!」
カンタレが目を閉じたな。もうそろそろで頭の中に景色が見えてくるはずだ。来た。周りには人がいっぱいいるな。目の前には都庁だな。そして、目の前の道路には選挙カーだな。その上にはドラゴンの羽を生やした女性……佐藤か?いや、佐藤だ。手にはマイクを持っている。
『今の日本は腐っている!そんな日本をこれから君達と壊そう!』
「もう限界です」
あ、この映像を見せるのに時間制限もあるのか。カンタレが汗だくだ。これからは長時間使わせない様にしないとな。カンタレがぶっ倒れそうだ。
「それで場所はどこなんですか?」
「東京都庁だな」
「東京……とちょう?」
「あー、役所だな」
「役所ですね。それにしては大きいですね」
役所は異世界にあるのか。異世界には合ってこっちの世界には無い物の区別がわかんねぇな。
「ところで広場にいた人達は何だ?」
「あれは、昨晩のうちに洗脳された人達でしょうね。あんな演説をしても聞いてないのに意味が無いですね」
あの沢山の人は洗脳された人なのか。カンタレが助けてくれなかったら今頃あの中に混じっていたんだ。それにしても、勝手に語る部分まで実島は佐藤に埋め込んだのか。もっと必要な記憶とかがあったんだろうに。
「あれはあの姉ちゃんが洗脳したのか?」
「たぶんそうですね。ただ、見た感じ洗脳は浅いですね。洗脳を仕掛けた佐藤さんを気絶させれば洗脳は解けるかもしれません」
洗脳にも種類はあるのか?浅い?なんかよくわかんないな。魔法を知っている二人は会話が成立している。出来れば俺にもわかるように説明してほしいけども、俺もこっちの世界の用語をぺらぺら喋っているし、人のことを言えないな。
「あの、出来れば俺にもわかるように説明してくれない?」
「あれ?田中さんには洗脳に関する説明してませんでしたか?」
「してねぇよ!」
「洗脳は二種類あって永久型と簡易型があるんです。簡易型は多分佐藤さんが田中さんに掛けた洗脳ですね。洗脳を掛けた本人を気絶させるか、殺害すれば洗脳は解けます。永久型は佐藤さんや人間爆弾にされていた人達が掛けられていた奴ですね。あれは洗脳を掛けた本人を殺害しても洗脳は解けません」
長い説明だな。もう少し簡略化できなかったのか?とにかくだ、佐藤を一度殺せば美香の洗脳は解けるんだな。
「都庁と言う所へ急ぎましょう」
「でも、車は持っていかれているんだろ。移動手段はどうするんだ?」
「そこらへんの車を借りよう」
ま、無傷で返せるわけ無いんだけどな。持ち主の人ごめんなさい。
実際、乗り捨てられている車には鍵がかかっていた。非常時には鍵を刺したまま避難しろって教習所で教わらなかったのか?俺もそんな事出来そうに無いけどな。
「どうするんだよ。使えそうな車は上に赤いランプがついてる車くらいしかないぞ」
パトカーのことか。でも、トレーラーに衝突してボンネットがひしゃげて使えそうに無い。でも、トレーラーは使えそうだな。仮眠するベットも付いてるし3人乗ることできるだろ。確認したら鍵も刺さったままだし。
「あのトレーラーを使おう」
「後ろのコンテナは外すのか?」
「外し方分かるのか?」
「一応、魔王軍にいたときに習ったからな」
魔王軍すごいな。一体どこまでどこまで教育していたんだ?外せるならはずしてもらおうか。それだけで結構軽くなるだろう。
「外してくれ」
「任せときな」
トレーラーから牽引車を外しているの始めてみたな。アフの手際もいいし、運送屋でこのまま働けるんじゃないか?
「運転は俺がするな。向こうの世界でもトレーラーは運転してたからな」
アフ万能だな。カンタレも魔法を使えるし、俺いらなくね?俺は一体何が出来るんだ?……とくに無いな。
「やっぱり兄ちゃんが運転してくれ。都庁って場所どこにあるのか知らなかった」
俺はナビゲーションとしては役に立ってるみたいだな。
大型の免許は持ってないけどトレーラーヘッドだけなら普通車と同じ感覚で運転しても大丈夫だろ。さて、東京都庁に向かうか。
「ドラゴンが居ないな」
「多分日本の軍の人達がやっつけたんでしょう。しかし、その人達も多分洗脳されてます」
ゴブリンやドラゴンが少なくなったら人間を洗脳して人員補充か。きりが無いな。
「アフさん。作戦はあるのですか?」
「ない。このまま突っ込んで佐藤を殺す」
「その後に、俺とカンタレで佐藤を蘇生させると」
「そうだ。よく分かってるじゃねぇか」
都庁が見えたな。都庁の上にはドラゴンが数体飛んでいるな。その横には自衛隊の戦闘ヘリか。異色の組み合わせだな。
この交差点を曲がれば都庁の目の前だ。
「止まれ!」
アフがどうして叫んでるんだ?目の前には薄い円盤が並んで置いてあるな……まさか地雷!?
ブレーキを踏んだが地雷を左前輪で踏んでしまった。




