二十二話 液体魔法
もうすぐで高井戸に着くな。それにしても、一体どれだけの人が犠牲になったんだ?それに自衛隊は何をしているんだ?もしかして今の馬鹿総理大臣が自衛隊を出動させるのを渋っているのか、それとも自衛隊が壊滅しているか。
「車を停めてくれ!」
「どうしたんです?」
「生存者だ!」
生存者!?確かに十歳くらいの女の子が一人歩いているな。これはさすがに見捨てられないな。車を停めるとすぐに駆け寄ってみるが何か様子がおかしい。
「お父さんとお母さんは?」
「…………」
「今一人?」
「…………」
何だこの子は?いくら質問しても返事もしないし、手に持っているのは熊のぬいぐるみか?
「その子から離れてください!」
どうしたんだ?カンタレが怖い顔をしてるな。この子がどうしたんだよ?無愛想だけども助けないとまずいだろ。
「その子に液体魔法が掛けられています!人間爆弾にされてます!」
人間爆弾?異世界にいたときに写真を見せられたな。確か、部屋中が真っ赤に染まって真ん中には肉片があったような……。あれ?この女の子なんか膨らんでないか?
「逃げてください!もう爆発寸前です!」
カンタレの言う通りにした方がよさそうだ。とりあえず離れよう。
パァン
音のした方を見ると、さっきまで構っていた女の子を中心に真っ赤な液体が飛び散っていた。周りには肉片らしき物まで確認できた。実際に見るとえぐいな。
「不味いぞ!どんどん現れてきた!」
付近の民家やコンビニから続々と人が現れる。ただその顔は無表情だな。声を遠くから掛けてみても返事は無い。
「逃げるぞ!車に乗れ!」
こんなに人間爆弾がいるのか。とにかく逃げないと。目の前に人がいるが、もう人間じゃない。爆弾だ。洗脳されているんだ。
「クソッタレ!」
次々と人間が破裂していく。目の前にいる人間爆弾が車のボンネットに飛びついた。
パァン
くそっ!破裂しやがった!おかげでフロントガラス全体にヒビが広がったじゃねぇか。しかも血や肉片が視界を遮って何も見えないな。
「蹴り破るぞ!」
蹴り破るって何を言ってるんだ?まさかフロントガラスをけり破るのか?うわ、アフがマジで蹴り破りやがった。でも視界は良くなった。
「ここから先は人間爆弾が増えるかもしれない。気をつけろよ」
そんな事言われても見分け方なんて分からないだろ。もしかしたらあの中に普通の人がいたかもしれないし。
「見分け方はとにかく無表情で喋らないくらいですから見分けるのは難しいですね。とにかく怪しいと思ったら逃げることですね」
魔法に詳しそうなカンタレでも見分け方はそれくらいしか分からないのか。ひとまず怪しいと思ったら距離を置くことにするか。抱きつかれでもして爆発されたら……考えたくも無いな。
もうすぐで着くはずだ。無事でいてくれよ美香。
「おい!あの車じゃねぇか?」
カンタレが見せてくれたのと同じ光景が目の前に広がっているな。二時間近くこのままだったのか。それなら美香はパトカーの運転席にいるはずだ。
いた。運転席で美香が気絶している。見た感じ怪我は無いな。シートベルトはきちんとしてたのか。それのおかげで助かったみたいだな。アフが重症とかいうから心配したよ。
「おい!美香!」
「待ってください!車の上!」
コンテナを積んだトラックの上を指差してどうした?コンテナの上には狼のコスプレ?をした男が立っているな。でも唸り声は狼みたいだ。
「こいつは研究所で見かけた奴だな」
「そうですね。写真で私も見ました」
話が勝手に進んでいるが、こいつは異世界のオルガの町で改造された人間なのか。見た感じコスプレをしているようにしか見えないけどな。
「来ますよ!」
来るって言ったってどうすればいいんだよ。攻撃するにも持ってるダガーは使いこなせてないしな。ここはカンタレとアフに任せて俺は美香を助けよう。
「このっ!」
「身体能力まで上げてあるみたいです!」
アフが拳銃を撃っているが、まるで当たってないな。狼男が早いのかそれともアフの射撃が下手なのか……。カンタレの方は炎の玉を撃っているけども炎の玉自体が遅くて避けられているな。でも狼男を惹きつけてくれたおかげで美香を車に乗せることが出来た。
後は二人が車に乗ってくれれば車で逃げることが出来るはずだ。
「二人とも乗ってくれ!」
声をかけても二人は戦闘に夢中になってるな。違うな。今あいつに背中を向ければ後ろからあの大きな爪で斬られそうだな。援護した方が良いかもな。
とは思ったものの、どうすればいいんだ?ダガーはまともに使えないし、トランクにつんでいた小銃はオルガの町で城に行っていた間に持ってかれていし……あとは車載工具は、ダメだ。パンク修理キットだと工具はついてきてない。マジでダメだ。闘う手段が無い。
「すばしっこいな!手榴弾でもあればな」
手榴弾?そうだ!角にあるコンビニでジュースを買ってその中の液体を魔法で爆発させれば即席手榴弾になるな。
「しばらく惹きつけておいてください!」
「田中さん!?どこへ!?」
「コンビニです!」
「こんびに……?」
そっか、コンビニって言っても伝わるわけ無いよな。でも、ちゃんと惹きつけてくれているし今のうちに買ってくるか。
コンビニに入っても誰も居ないな。いや、レジで店員が体中を撃たれて死んでるな。
スチール缶が良いのか?アルミが良いのか分からないな。とにかくいろいろ持って行くか。どれも爆発するのは変わりないだろ。後はこれをカンタレのところに持って行けば爆発物に替えてくれるだろ。
「カンタレさん!これに液体魔法をかけてください!」
「これの中に液体が入ってるんですか?」
「おい!何やってんだよ!」
悪いなアフ。がんばって一人で惹きつけてくれ。
カンタレが缶ジュースに手を添えると缶の中の液体が何か沸騰してないか?缶も膨らみ始めてるな。
「今すぐ投げ捨ててください!爆発しますよ!」
え?今!?
「間違えて今爆発するように魔法をかけてしまったんですよ!」
それはすぐに投げ出さないと俺とカンタレが巻き込まれてしまう。アフが狼男の近くにいるけども逃げてくれよ。
「アフ!逃げろ!」
とにかく缶を投げる!狼男は不思議そうに缶を見て、アフはパトカーの陰に隠れたな。よし!爆発しやがれ!
ドゴォン
缶ジュース六本くらいで軽く大型トラックくらいは吹き飛ばせるんじゃないかってほどの威力だな。爆発の中心付近にいた狼男は肉片すら残らなかったな。
「今のは何だよ!死ぬかと思ったぞ!」
アフ、生きてたか。怪我もしてないのはすごい運だな。
「すいません。凡ミスですぐに爆発するように設定しちゃいました」
凡ミスか?下手したら死ぬんだぞ。まぁ、それは置いておいて缶を開けたら時間を少し置いて爆発するようにしてもらうか。
「この蓋を開けたら五秒後に爆発するようにしてくれませんか?」
「蓋を開ける?どこに蓋が有るんですか?」
そうか、蓋の開け方も知らないのか。見せた方が早いな。
「おお!こんな蓋見たこと無いです!……分かりました。五秒後ですね」
すごいな。そんな事まで出来るのか。これで武器は増えたな。




