二十一話 スピード違反
とにかく町に出ないことには何も始まらないな。今いるのは赤城山か、関越自動車道で行けば二時間くらいで上高井戸には着くな。
「ところで兄ちゃんよ」
「どうした?」
「来る途中でカンタレと話していたんだが佐藤って姉ちゃんを救う方法があるかもしれないぞ」
「マジで!?」
「佐藤を一度殺すんだ。その後カンタレと兄ちゃんで蘇生魔法を使う。そうすれば与える生命力も半分で済むって算段だ」
何で俺が蘇生魔法を使えるって知ってるんだ?あの教頭カンタレに話したのか?まぁその話はどうでもいい。何とか希望が見えてきたな。そう言えば佐藤はどこなんだ?あいつ空を飛べるから遠くまで行ってそうだな。
「佐藤の居場所を見てくれ」
「え?良いですよ。えーと、景色がいいですね。かなり高いところです」
かなり高い?富士山か?東京タワーか?ダメだ。情報があまりにも少なすぎて分からない。
「もっと他に分かることは無いのか?」
「めんどくさいですね。またお二人に送りますよ」
「カンタレ。兄ちゃんは運転中だ。止めとけ」
アフ、確かにながら運転はダメだな。教習所でもしっかりと習ったことを覚えてるぞ。
「他に分かることは?」
「自然の物では無いですね。あ、他に高い物人工物は見えませんね」
分かった。佐藤はスカイツリーにいるんだな。でも、まずは美香だな。
さっきから東京方面からやってくる車が多いな。みんな逃げてるのか。
「何か後ろから赤いのを光らせた車が着いてきてますよ」
え?パトカー!?まさか、今の時速は130キロ……。終わった。
ウーウー
『前のプリウス。パトカーについて来なさい』
こんなときに速度違反とはついてないな。ってか、警察も他にやることいっぱいあるだろ。
「振り切らないのか?」
無茶言うな。日本の警察はしつこいときはしつこいんだぞ。それよりもアフは魔法を掛けられている状態なのか?
「お兄さん。スピード出しすぎ。何キロ出てたと思う?」
「120くらいですかね……」
「はぁ~。とりあえずパトカーに乗って確認してもらえる?」
アフは大丈夫みたいだが、俺は免停か。
「メーター確認してもらえる?」
メーターには140キロと表示されてるな。これ壊れてるんじゃないか?
「それと、何であんなにベコベコなの?窓もヒビが入ってるし、バンパーも外れかけてる。どうしたの?」
なんて言ってごまかそう。どうせ異世界に言ってモンスターと闘ってたっていっても信じてくれないしな。
「運転下手なんですよ。あはは」
「……所持品検査もさせてもらうね」
マズイ。ダガーを持ったままだ。確実に銃刀法違反で署まで連れて行かれるぞ。捕まっただけでもかなりのタイムロスなのに署に連れて行かれたら美香が!よし!逃げよう。
「逃げようとしても無駄だよ。ロックがかかってるからね。さ、持ち物を出して」
大人しく出すしか無いのか。ん?運転席の警官寝てるな。横の警察官も眠たそうにしてるな。あ、眠った。
パァン
ビックリした!アフがパトカーの後ろの窓を割ったのか。大胆だな。
「何やってるんだ。カンタレが警察を眠らせてなかったらどうなってたか」
「ピンポイントで眠らせるの難しいんですよ」
「ありがとう。助かったよ」
それにしても、警察の言う通り愛車はボロボロだな。何か車体が微妙に歪んで見えるんだが気のせいか?というかリアバンパーはどこに消えた?
そんな事を考えてる暇は無いな。東京に向かおう。
とは言ったけどもこれは重症だな。ハンドルから手を話すと勝手に右に進んでいくし、謎の振動も有る。確実に廃車コースだな。
これって保険は適用されるのか?
「兄ちゃん、車を変えたらどうだ?」
「この車を買ったときに貯めてた金はすべて使ってもう新しい車を買う金なんてないぞ」
簡単に言ってるけども、このプリウスは三年かけて金をためて買った車なんだ。そう簡単に手放すわけ無いだろ。でも、車としてはもう使えないかもな。この問題が解決したら手放すか……。
気がつくと空には無数のドラゴンが飛んでいる。今はどの辺りだ?東京都の練馬区か、だいぶ近くまで来たな。ここからはどんな状況になっているかはまったく分からない。気を引き締めていくとしよう。
「ドラゴンが何かを持ってます!」
あの世界のドラゴンは物を落とす以外に攻撃方法は無いのか?それで、何を持ってるんだ?……あれはタンクローリー!?まさかとは思うが中身は空だよな!?
「もっとスピード上げろ!」
「言われなくても分かってる!」
なんで東京に入ったところから高速道路に車が乗り捨てられているんだよ!運転手はどうした?違うな。乗り捨てられた車はどれもひしゃげているな。ドラゴンに持ち上げられて落とされたんだろう。よく見ると運転手や同乗者が中で死んでるな。
ん?急に日陰が……。
「前!前を見ろ!」
ドラゴンが目の前にタンクローリーを落としたな。しかも、運転手つきかよ。
「私が吹き飛ばします」
パリン
カンタレよ。窓を開けるときは左手のところに有るスイッチを押せば窓を割らなくても開けられるんだ。
カンタレが謎の呪文を唱えるとタンクローリーの荷台部分が吹き飛んで火の海になった。突っ切れと?
「行け!」
あっちぃ!何とか火の海を駆け抜けれた。もう二度とこんなことはしたくないな。というか体験することは無いだろ。
高速は降りたし、後は最初の交差点を左折すれば後は直線だ。
「田中さん!ゴブリンがいます!」
どこだ?陸橋の上か!何かを構えているな。あれは……スナイパーライフル!?
「うおっ!」
あぶねぇ!フロントガラスにヒビが入った!撃ってきたな。でも銃弾がフロントガラスで止まっているところを見る限りカンタレが瞬時に守ってくれたんだな。
「そのまま走り続けてください!防御は任せてください」
頼もしいよ。それにしても町はひどい状況だな。道には死体が転がって、ゴブリンがコンビニや商店を荒らす。世紀末だな。バイクと肩パットを買っておくんだった。
目の前に銃を構えたゴブリンがいるな。こいつは一体何人の人を殺したんだろうか?そう思うと憎たらしく感じてきたな。このまま轢き殺すか。
ボン
ゴブリンを轢いたのは良いけども、一緒にエアバックが展開されたな。後ろのカンタレはエアバックにビックリするかと思っていたけどもそんなことは無かったな。アフの方がびっくりしてるな。




