二十話 便利な魔法
体中が痛い。バスが首都高から落ちたんだっけ……?とにかく外に出ないと。
よくあの事故で私生きていたよね。運が良いのか、それとも悪いのか分からないわね。
「助けてくれ……」
バスの中から声が聞こえるけど、ごめんなさい。助けてる暇は無いの。今は一刻も早く東京から離れないと。
ここはどこだろう?上北沢?近くに駅があるみたい。そこから電車に乗って少しでも遠くに!
上北沢の駅に着いたけれども人でごった返していて次の電車が来ても乗れないみたい。タクシーを使おうにもタクシーは見当たらないし。考えている間に電車が到着したみたい。
「うわああああ!」
「きゃあああああ!」
え?電車の車内が真っ赤に染まっている?あれって人間の血?窓にへばりついてるのはもしかして肉片……?
「うげえええ」
気持ち悪い!胃の中が空っぽになってもまだ胃液がこみ上げてくる。これが現実で起こっていること!?いや!夢なら覚めて!
電車の中から誰か降りてくる。あれは狼のコスプレをした男性?でも、体中真っ赤にしてる。
「大丈夫か?」
「救急車!誰か!救急車呼んで!」
でも、遠くからしか見えないけどどこも怪我をしてる様子は無いけど何で真っ赤なんだろ……もしかして人を襲ったとか?
「うぎゃあ!」
手当てをしようとしていた男性の首から血が出ているのが見えた。嘘!?電車の中の犯人はあいつなの!?一人でやったの!?ここもダメ!みんなも逃げてるし。
「逃げろ!」
あ!逃げる人の中に線路に入ってる人がいる!危ないよ!
「危ないよ!戻って!」
プァン
こんなときに対向列車!?みんな逃げるので必死で気づいてない!
「電車が来てる!お願い!聞いて!」
目の前で数人の人が電車の陰に消えた。何で電車も止まらないの?こんなのおかしいよ。助けてよ一也……。
「グルルルル」
そんな事を言っても一也は助けに来ない。自力で何とかしないと。幸いあの狼人間は人を食べるのに夢中になってるみたいだし今のうちに電車に注意しながら駅から逃げないと。
「手をあげろ!」
警察も来てくれた!これで狼人間を倒してくれる!
「今すぐにその人を食べるのを止めて手を上げるんだ!早く!」
「グルルルル」
パン
警察の人が銃を撃った。でも、狼人間がいない。どこに行ったの?あ!ホームの屋根!
「上にいます!」
「クソッ!化け物が!」
パンパン
今度はどこに行ったの?でも、今なら狼人間は警察の人の方に注意がいっているから今のうちに逃げれるかも。気がついたら周りの人達も逃げていないし。
「ぐあっ」
警察の人が喉を切られた!周りにいるのは……私だけか。これだと狙われるのは私だろうな。やっぱり私を見てる。
「グルルルル」
追いかけてきた。逃げるにしても徒歩だと無理はあるだろうし、警察の人が乗ってきたはずのパトカーがあるはず……あった!
よし!鍵もついたままだしこれなら逃げれそう。って、狼人間が走ってきてる!
えーと、ブレーキを踏んでキーをひねると。よし!エンジンがかかった。次はブレーキを踏んだままシフトをドライブに入れて……
ドン
え!?何!?もしかして狼人間が屋根に乗ったの?とにかく車を走らせて逃げないと。
車を蛇行運転させても狼人間は落ちない!それどころか天井から爪が突き出てる。このまま走らせれば落ちるでしょ。
『緊急事態だ!応援をもっと回せ!けが人が多数いるんだぞ!』
『渋谷駅交番!緊急事態発生!応援求む!』
東京は今どこもこんな感じになってるのかな。まず、上の狼人間をどうにかしないと!このままだと天井をはがしてきそうな感じがする。そう考えてたら本当に剥がしてきた!車の屋根ってそんなに薄くは無いでしょ。
目の前の信号は赤だけども緊急事態だし警察がいても多めに見てくれるでしょ。というか。私が運転してるのはパトカーだった。サイレンを鳴らせば合法だね。
あ、目の前にコンテナを積んだトラックが。停まれない。今日一日で私事故りすぎじゃない?
私は、トラックにぶつかる瞬間に目を強く閉じた。
くそっ!何で群馬県の山奥なんかに出てきたんだ?俺が異世界に行ったときは東京都だったんだぞ!戻ってくるときはランダムで戻るのか。とにかく今は東京の様子が気になる。スマートフォンは異世界にいたときに壊してしまったみたいだし、カーナビのテレビでも見るか。
『現在東京周辺は大変危険な状況となっています。なるべく東京方面から離れるようにしてください。なお、空に大きな鳥が見えた場合は速やかに屋内へと避難してください』
あぁ、遅かったのか。すでに東京ではパニックが起きてるな。テレビの映像を見る限りまだ警察が対応してるんだな。自衛隊は何をしてるんだ?
それにしても、霧がまだ薄っすらと出てるな。
ドン
「いってぇ!」
誰だ!俺の愛車に追突した奴は!?文句言いに行ってやる!
「よう!田中」
「あ、どうも」
何でアフとカンタレが追突してきた車に乗ってるんだよ。
「悪いな。あの後すぐに後を追いかけたんだ」
「これが日本というところですか」
カンタレは助けに来たというよりは興味本位で着いてきたんだな。というか、カンタレは人間だから良いけどもアフは東京で暴れてるゴブリンと見た目は変わらないし見つかると厄介だな。
「アフ、お前車のトランクに隠れてろ」
「どうしてだ?」
「お前の種族は今東京で暴れてるんだぞ!間違われて撃たれたらどうするんだ!?」
「それに関しては大丈夫だ。カンタレが人間に見えるように魔法を掛けてくれる」
本当に魔法って便利だな。卑怯だぞ。
「それで、お前の相棒を助けに行くんだろ」
「いや、佐藤の前に彼女を助けに行く。多分東京にいるからな」
「場所は分かってるのか?」
「まったく分かってない」
「カンタレに任せておけ。魔法で彼女さんがいる周りの風景を見ることが出来るんだ」
魔法なら何でもありだな。死んだ人間でも生き返らせることが出来るんじゃないのか?あ、俺できるんだった。
「見えますよ……。でも、文字は読めませんね。めんどくさいんでお二人に見えてる物を送りますね」
送る?どういうことだ?と思っていたら頭の中で風景が見えるな。高井戸陸橋?上高井戸駅の近くか。交差点で事故っているパトカーがいるな。その中にいるのは……美香!?
「分かりましたか?」
「場所が分かった。車に乗れ」
「もしかしてあの重症の女か!?」
「そうだ。だから急ぐぞ」
急がないと美香がヤバイ!




