十八話 あっけない最後
異世界編最終回です。
朝になっても、横のベットで寝ている佐藤の姿は無い。考えれば、この世界に来たときからずっと一緒だったもんな。
「起きたか?」
アフ、ノックぐらいして部屋に入ってきてくれ。
「早速だが、作戦会議だ」
作戦会議?あぁ、佐藤を助け出すのか?
応接間に行くと、アフのゴブリン部隊とカンタレと同じような服装をした魔法使いが居るな。
「では、魔王の実島という人を倒すための作戦を説明します」
カンタレが説明してくれた作戦は、。数人の魔法使いで車を保護して城まで突っ込む。その後、研究所から実験体を助けて、大型トラックを強奪、脱出するらしい。その隙に、アフとカンタレで実島を殺害するという作戦らしい。
ずいぶんと無茶な作戦だな。ちなみに俺は運転手だそうだ。そりゃそうだ。戦闘経験なんてゴブリンの森だけなんだからな。
「それでは出発します」
町長の家の前にはすでに俺のプリウスと窓が鉄板で覆われているマイクロバスが止まっている。明らかにプリウスは選択ミスだろ。
「なんで俺の車があるんですか?」
「いや、4輪駆動の車は兄ちゃんのだけだからな」
それでも、場違いだろ。まぁ、運転手だから良いけどな。カンタレがバリアを貼って守ってくれるみたいだからな。
町の門には出迎えは無かった。一体どういう基準で出迎えてくれてたんだ?
今までは助手席には佐藤が定位置だったが、今はアフか……。しかも、後ろにはカンタレか。
「いいか兄ちゃん。前の車が城の木製の扉を破壊したら魔王の実島が居るところまで駆け抜けろ。この車のサイズなら通れることは兄ちゃんを助けたときに調査済みだ。ちなみにあの写真もあのときに撮った」
前回は二日かかっていたが今回は一日くらいでオルガの町に着いたな。それもそうか。前回のときはバッテリーだけで走行するために速度を落としていたからな。
早速、前を走るマイクロバスが守衛所を突破した。俺も続けばいいんだな。
「何か変だ……」
「アフさんどうしたんです?」
「門に居るはずの警備がいないんだ。さらに空に居るはずのドラゴンも」
そうだ。前回来た時は空を数体のドラゴンが飛んで、厳重な警備があったのに今回はそれが無い。
「どこへ消えたんだ?」
「とにかく城へ!」
「分かりました!」
バキッ
マイクロバスが城の扉を破ると、広場らしき場所で停車するが、警備は居ない。
「俺とカンタレさんと兄ちゃんで魔王のところに行くが、お前達は城の中を生存者がいないか探して来い!」
「魔法使いの人はゴブリン達の援護に回ってください」
それぞれ城の中にゴブリンと魔法使いが散っていった。俺は魔王の部屋へといけば良いのか?
「この通路を真っ直ぐ行けば魔王の居る部屋だ!」
城の中を車で走るなんて、なんか気が引けるな。
そういうことを考えている間に魔王の部屋らしきところについてしまった。ここに佐藤をあんな姿に変えさせた実島が居るのか。
部屋に入ると実島が外を眺めていた。悪役気取りかよ。
「良く来たね」
「実島!佐藤に何をした!?」
「佐藤……?あぁ、君と一緒に居た子か。あの子ならいい実験体になったよ」
「一体、どういう基準で合体させる固体との相性を調べたんですか?」
カンタレがいつになく怖い顔をしているな。今にでも魔法の力を使って実島を殺してしまいそうだ。
「検体に肉を与えてそれがおいしければその肉の正体と相性がいい。ということだよ」
「あなたには人間を破裂させたり、実験体にして罪悪感は無いのですか!?」
「無いね。部下もすでに実験体として使ってしまった。そして、実験体も部隊もすでに日本へと送った」
ダン
アフが隠し持っていた拳銃で実島の足を撃ったな。話に耐えられなかったんだろ。
「どうやって日本というところに兵を送った!?そこは別世界なんだろ!?」
アフはもう日本が別の世界だということは知ってるのか。
「偶然待ちの近くに霧が出始めてな、そこに兵と実験体を送った。霧が晴れると兵たちは居なくなっていた。私達がこの世界に来たときと同じことが起こったんだよ」
こっちの世界でも霧の中を進めば元の世界に返れるのか。
「おい!佐藤にドラゴンの羽と尻尾つけたい以外何もしてないだろうな!」
「……残念だったね彼女には洗脳を受けさせるときに私の思想も一緒に埋め込んだ」
この下衆野郎が!その首根っこを引き裂いてやる!
持っていたダガーで実島の首を狙う。実島は抵抗することなく素直に首を切らせてくれた。
「ゴポ……、君は日本が滅びる中、この世界で平和に暮らすんだな」
実島は死んだか。だが俺は元の世界に戻る。それだけだ。
「田中さん!今の話は!?」
「話は車でします!乗って!」
今は時間が惜しい。一刻も早く霧が出ているところを見つけて日本に行かないと!
「一体どういうことなんですか?」
カンタレだけが意味をわかっていないようだな。
「俺や、佐藤はこの世界とは別の人間なんです。そして、霧の中を抜けるとこの世界に来ていたんです」
「信じられませんね……」
「だか兄ちゃんよ、あては在るのか?」
「無い!」
「霧なら!ガナスの町から丘を越えたところにある森林の中の木の小屋周辺でよく出ていますよ!」
カンタレが言っているのは旧日本軍の戦車や武器を見つけたところのことだろう。あの周辺でも霧は発生してるのか。
「ガナスの町であなた達を降ろしたらすぐに私はその森林に向かいます」
この異世界の人間を元の世界に連れて行くのはリスクが大きい。カンタレは魔法が使えなくなるかもしれないし、アフに至っては捕らえられて見世物にされるかもしれない。
オルガの町にゴブリンの部隊や魔法使いを置いてきたけども関係ない。今はガナスの町へ戻るだけだ。
「兄ちゃん!もうちょっと優しく運転してくれ!」
そんな余裕は無い。今頃東京では戦争が始まっているに違いない。
ガナスの町にたどり着いた。最速記録だな。半日で到着した。
「二人は降りてください!私だけで行きます」
「いいえ。私達もついて行きます」
「俺もだ!」
やっぱり言うと思ったよ。
「気持ちだけでも受け取っておきます。ですが、カンタレさんの魔法が向こうの世界でも使えるとは限りません」
「……そうですね」
「その代わりに二度とこういうことが無いように霧の発生源を見つけてもらえませんか?」
「分かりました」
「アフは、この世界の治安を守ってくれ。お前は正義感が人一倍強いからな」
「……おう。元気でな」
適当に理由さえつけておけば良いだろ。
「お二人も元気で」
北門を抜けるとバックミラー越しでカンタレとアフが手を振っているのが見えた。最後までいい人ばかりだったな。
丘を越えて森に入ると霧が濃くなってきたな。この世界に入ってきたときのことを思い出すな。よく俺は死ななかったな。
そのうち砂利道が舗装路に変わった。




