十七話 ゴブリン部隊
確か、実島って言う爺さんの話があまりにもやば過ぎて逃げようとしたら、足を撃たれたんだっけ?佐藤は……いないな。
「おーい。誰かー」
「うるさいぞ!」
鉄扉を叩かれた。一応見張りは居るようだ。さて、ここからどうしようか?左足は使えそうに無い。一応、消毒くらいはしてくれたみたいだな。
あれから何日経ったんだろうか?佐藤は無事なんだろうか?たしか、検体がどうって言ってたな。ということは何か人間を使った実験でもしてるのか?人間を兵隊にする……実験……駄目だ。さっぱり分からん。まぁ、時間はたっぷりあるし、じっくりと考えるか。
あいつは日本を壊したいとか言ってたな。ということは日本に戻るすべはもう見つけてあって、後は準備だけってことか?
「ギャオー」
「おい!第一研究室だ!急げ!実験体が暴れだした!」
外が騒がしいな。でも、今の言葉を聞いて確実に分かった。ろくでもない研究をして、実験体かなんかを抑え切れてないな。映画とかドラマだとよくある話だな。博士が化け物を生み出して、その化け物が博士を殺すって。
「おい!なんだお前は!……ぎゃあああ!」
何だ?今度は扉の前で戦闘か?こっちには来ないでくれよ。まだ死にたくは無いんだ。
バガン
「お!兄ちゃん!ここに居たか!」
扉が開いて入ってきたのはゴブリンのアフだ。 何故お前がここに?
「立てるか?……足を怪我してるな。今治療してやる」
アフが傷口に手をかざすと見る見るうちに傷が治っていく。ゴブリンでも魔法は使えるのか。
「なんで、お前がここに?」
「話は後だ。ここから逃げるぞ」
牢屋から出ると、アフの仲間らしきゴブリンが棍棒や、剣で武装している。そんな装備でこの施設に入ってきたのか。
『全職員に告ぐ。研究室から実験体が逃げ出した。職員は麻酔銃で実験体を眠らせろ』
施設内にアナウンスが響いてる。さっきの泣き声のことを言っているのか?
「この混乱に乗じて兄ちゃんの車で逃げる」
「ガソリンと鍵が無いぞ」
「大丈夫だ。もう入手してある」
あ、俺の車の鍵、なんだこの優秀なゴブリン部隊は?
「上に上がればすぐ地上だ」
ゴブリン部隊について行くと、最初に城に入ってきたときの駐車場に出てきた。
「運転は俺がする。後部座席に乗ってくれ」
自分の車の後部座席に座るなんて初めてだな。いや、佐藤に無理やり乗せられていたか。
「行くぞ!捕まってろ!」
「おい!他の奴らは!?」
「あいつ等は武器を盗んできてから合流する予定だ」
後ろを振り返ると、空に人間くらいのドラゴンが見える。というか、人間にドラゴンの羽と尻尾をくっつけた化け物だ。でも、その人間部分には見覚えがある。佐藤だ。
「車を止めてくれ!佐藤が!」
「無理だ!」
オルガの町で暴れる佐藤を見ながら、車はガナスへと向かっていた。
「ガナスの町に着いたぞ」
もう何が起こっているか自分の頭でも理解できない。なんで佐藤があんな姿になっていた?アフは何故助けに来た?
「いろいろ聞きたいことがあるだろうが、町長の家でカンタレとともに話そう」
町長の家に入ると、アフの仲間とカンタレが座っていた。
「それで、話してくれるんだな」
「慌てるな。時間は無いが、慌ててもしょうがない」
時間が無い?アフは何を言ってるんだ?
アフの仲間が机の上に置いた写真を見ると、写真にはあたり一面赤色に染まった部屋が写っている。何だこれ?トマト祭りか?
「その写真は、人間爆弾の写真だ」
「あ、補足については私がしますね。液体を爆発させる魔法を覚えてますか?」
「魔王軍と戦ったときのですか?」
「そうです。それの液体を人間の血液としたんです。それは、この世界では禁止事項となっています」
え……。それじゃあ、さっきの写真の赤いのは人間が破裂した後……。
「次にこっちだ」
次の写真にはいろいろな動物の体の一部が移植された人間の写真が写っている。その中には佐藤の姿があった。
「これはな、洗脳をした後の人間を改造している写真だ」
これだ。これについて知りたかったんだ。
「佐藤は!?佐藤のあれはどういう状況なんだ!?」
「お、落ち着け! 洗脳さえ解ければあの姉ちゃんは戻る!……姿は戻らないが」
「洗脳のとき方は!?」
「それについてですが……」
カンタレ!魔法を使えば洗脳くらい楽勝に解けるだろ!そうだと言ってくれ!
「その絵を見る限り、殺すしか洗脳を解く方法はなさそうです」
「嘘だろ!?」
「落ち着け!まだ話は終わってないぞ!」
「それと、洗脳ですが、洗脳を受けた者は会話することが出来ないみたいです」
佐藤を助けることが出来ない……。
「それと、兄ちゃんよ。日本という単語を知っているか?」
「あぁ、知っている」
「魔王軍は、二日後に日本の東京というとこに行くらしい」
東京?日本の首都の東京都のことか?魔王軍は東京から攻め落とすのか?いかん、頭が混乱してきた。
「アフさん。今日はもう遅いですから休ませてあげてください」
「そうだな。時間は無いが、休憩することも大事だからな。兄ちゃん、頭の中を整理しとけよ」
そうだな。一晩眠れば少しくらいは頭の中は整理がつくはずだろう。多分……。
いつもは、佐藤が居るはずの部屋もあいつがいないと寂しく感じるな。




