十四話 殺人
「良いよ」
なんだこのゴブリン?以外にあっさりとしてるな。
「それで何から話せばいい?」
「今の魔王についてだ」
「長くなるぜ」
「時間はたっぷり有る」
本当にゴブリンの話は長く、途中途中で自分の自慢を始める始末だ。結局分かったことは
・一年前に五人の人間が現れてすごい兵器と連係プレーで魔王を倒した。
・モンスターたちをまとめて日本語や簡単な計算を教えた。
・この世界の町を支配下に置こうとしている。
・このゴブリンはドラゴンの飼育係だった。
ぐらいだった。
魔王は俺や佐藤と同じく日本からやって来た人間ってことか?それならすごい兵器の説明もつく。しかし、モンスターを使ってこの世界を支配下に置く?何を考えているんだ?
「これだけ教えたんだ。もう満足だろう」
「いや、まだだ。何故お前のようなゴブリンとは違い、森で人間を襲っているゴブリンが居たんだ?」
「あぁ、あいつ等のことか。あいつらは統率の取れたことが嫌いだそうで、魔王軍を辞めたんだ」
ゴブリンにも長く続かない奴は居るもんだな。
「ところでお兄さんや」
「なんだ?」
「お前さん、何か闇を抱えてないかい?……そうだな、人を殺したとか」
なんだこいつ……、なんでそれを……
「へー、その話に私も興味あるな」
佐藤!いつの間に居たんだ!?
「大丈夫、今来たところだよ。ところで、その話聞かせてくれない?ゴブリンさん」
「俺にはアフって名前があるんだ。そっちで読んでくれ」
「わかったよ。アフさん」
そのねっとりボイスを止めろ。鳥肌が立つ。
「俺は人間が人間を殺したときに見えるオーラみたいなのが見えるんだ」
良かった。うそ臭い話になった。これなら……
「この世界だと、居ても町に一人二人くらいだ。今だと、お前さん達二人にそのオーラが見えている」
佐藤が人を殺してる……?
「あ、バレた?」
嘘だろ。嘘だといってくれ。そうじゃないといろいろ困る。
「元の世界に居たときに高速道路を徘徊していたお爺さんを轢いちゃってね。多分そのことを言ってるんだと思うよ」
佐藤の言うことは元の世界でもニュースになっていたな。たしか、高速道路で認知症の爺さんが徘徊してそれを軽自動車を運転していた女性が轢いたって話。たしか、不起訴処分となってたな。
「そこのお兄さんは二人殺ってるな」
そこまで分かるのか……。ここまできたら逃げられそうに無いな。
「あぁ、確かに殺してるよ」
「そうは見えないけど……」
「彼女と家に居たらナイフと拳銃を持った強盗が入ってきてな。それを台所においてあった包丁で殺してしまったんだよ。後で裁判所から言い渡されたのは正当防衛で一応釈放されたよ」
まさかこのことを話すことになるとは思っても無かったよ。その感触は今でもこの手に残ってるよ。必死に刺してるときに包丁の刃が骨にカチカチ当たる感覚が……
「ごめんよ兄ちゃん」
「いや、気にしないでくれ」
「でも、手が震えてるぜ」
え?本当だ。手が震えてる。
「もう今日は休んだら?」
「……そうさせてもらうよ」
今日はもうかなり早いけども寝よう。
「あれ?お休みですか?」
「はい。ちょっと気分が」
「医者でも呼びますか?」
「いいえ。一晩寝れば大丈夫です」
カンタレはいい人だ。拷問部屋を持っているのは気になるが、それでも、町の人たちから愛されているだけはあるな。それはともかく今日は寝よう。思い出したくも無いことを思い出したからな。
ゴソゴソ
ん?布団に誰か入ってくるな。どうせ佐藤だろ。
「今日はごめんなさい」
あ、今日のことを反省してるのか。別に反省しなくても良いのに。律儀な子だ。今日くらい甘えさせてもらうかな。




