十二話 魔王軍
鐘の音?火事か?とりあえずカンタレのところに行くか。
「田中さん、佐藤さん無事でしたか」
「何があったんですか?」
「魔王軍がやってきました。あなた達はすぐに避難場所の魔法学校へ」
「はい」
「え?ちょっと…」
佐藤は何かを言いたそうだがそんな事は後回しだ。佐藤を無理やり車に乗せると魔法学校へ急ぐ。魔法学校へ向かう途中には女性や子供の姿が目立った。男達は、魔王軍にでも立ち向かうのだろう。
「ちょっと!みんなを見捨てるの!?」
「しょうがないだろ!なにで戦うって言うんだ!?車か?それとも後ろの銃か!?」
「これだけ有れば加勢くらい出来るでしょ!」
「馬鹿言うな!この車は戦車じゃねぇんだぞ!後ろの銃だって俺達はまともに扱えない!」
「グダグダ言うんじゃねぇ!」
バキッ
イテェ!今殴られた?嘘だろ。佐藤ってこんな性格の子だっけ?
「今すぐ車を停めろ!」
「は、はい!」
今逆らったらまた殴られそうだ。佐藤が車から降りると、運手席に回り込みドアを開けてくる。
「降りろ」
本当に佐藤はどうしてしまったんだ?たしかにゴブリンの森のときも凶暴化はしたけども、俺に危害を加えるほどではなかった。
「さっさと降りやがれ!」
車から引きずり出されると、無理やり起こされ、後部座席に乗せられる。
佐藤は車を急発進させると、町の曲がり角や交差点をスピードを落とさずに走り抜ける。
ガン
道端の看板にぶつけやがったな。でも、今言ったら確実に殴られるだろうな。後部座席から前を見るとすでに西門に到着していた。マジで加勢する気なのか。
佐藤はトランクから小銃を降ろすと、弾を込め始めている。弾を入れるところを見てそれを一発で覚えたのか。
「来たのですか!?」
カンタレが佐藤に話しかけているのが後部座席から見える。
「えぇ、いろいろお世話になったので恩返しみたいな物ですよ」
口調が優しくなったな。マジで何なんだよ。
「状況はどうなっていますか?」
「魔王軍は、現在遠くのほうに陣地を構えています」
「高いところから見ることは出来ますか?」
「門の横から城壁の上へ上がれますよ」
「行くよ」
佐藤は小銃を渡してくる。その目は何人か殺っている目だ。
門の横に有る階段から上に上がると、すでに城壁の上には杖を持った男が何人も立っていた。
「あいつらは何をしてるんです?」
「分からない。さっきから何かを組み立てているようなんだが」
佐藤は一人の魔法使いの男から双眼鏡を受け取ると魔王軍の陣地を見ている。
「あんたも見て。私はこういうことに詳しくないから」
双眼鏡を受け取り、魔王軍の陣地を見ると、明かりとして松明をともしておりその横には鉄板をガラスにはめて作られた国産のSUVのテクニカル数台とタンクローリーが見える。ゴブリン達は拳銃や、機関銃を持って武装していた。
「ここは中東かよ」
「何か分かったの?教えて!」
「あいつ等の持っている武器は元居た世界のばかりだ」
「え?もしかして自衛隊が基地ごとワープしてきたの?」
どう考えてもそれは無いだろう。自衛隊がゴブリンどもに負けるとは考えにくい。それに、負けたとしても車や、兵器の使い方は誰が教えた?ゴブリンの森と言い、疑問が残るな。
「田中さん。何か案は無いですか?」
カンタレが城壁の上まで上ってきていた。指揮官が現場に出るなんて考えられないな。
「そうですね・・・あの集団の中にでかい一撃でも当てられれば数を減らせることが出来そうなんですが…」
「それならいい魔法があります」
カンタレが話してくれた魔法は液体を大爆発させる魔法だった。ただ問題はどうやって液体を持っていくかだ。
「どうやってあの集団まで液体を持っていくんだ?」
「それなら私にいい考えがあります」
「佐藤、いい考えがあるのか」
「はい。バイクで突っ込みます」
こいつは馬鹿か?あんなところに突っ込んでいけば蜂の巣になって死体が原型を留めていればマシな方だ。
「ばいく…とは何ですか?」
「バイクというのは私がこの町にやって来たときに乗っていた物ですよ」
「あんな物のどこに液体が入るというのですか?」
「入る場所があるんです。今から取りに言ってきます」
まぁ、百聞は一見しかずって言うしな。持ってきたほうが早いな。
「それにしてもあなた達は不思議な物ばかり持っていますね。その筒もなんですか?」
「これは銃と言います。鉄の塊を発射することが出来るんですよ」
「ふーん」
その態度は信じてないな。何か狙ってやるか。
周りを見ると、100メートルほど離れたところに火の見櫓的なものが見えるな。鐘でも狙ってやるか。
タァン
カーン
カンタレを含め周りにいた人は音に驚いてるようだ。撃った俺も驚いているけどな。
「何ですかそれは!?そんなもの50年生きてきて始めて見ましたよ!」
カンタレは30代くらいだと思っていたが50年も生きていたのか。これも魔法の力なのか?
「魔王軍はこんな物を一体に一丁ずつ持っています。うかつに近づけば撃たれますよ」
「それに関しては大丈夫です。あれくらいの威力なら物理魔法で防ぐことが出来そうです。試しに、撃ってみてください」
こいつ頭可笑しいんじゃないのか?
「本気で言っていますか?」
「えぇ、本気ですよ」
そこまで言うなら自信があるんだろう。心臓でも狙ってみるか。
タァン
なんでそんな平然とした顔で銃弾をバリアみたいなので止めてるんだよ。
「確かに、なかなか脅威になりそうですね」
魔法なら何でもありかよ。これなら別にバイクで突っ込む必要なんて無いんじゃないか。そうこうしている間にバイクに乗って佐藤が戻ってきていた。
「これのどこに液体が?」
佐藤が給油キャップを開けるとガソリンが並々と入っていた。カンタレはガソリンタンクに指を突っ込むとガソリンを指に付けて臭いを嗅ぎ、指ざわりなどを確かめている。あとでベタベタするぞ。
「これだけ燃えやすそうな液体なら相当な威力になります」
「それなら佐藤が先に走って、その横を俺が走る。近くなったらバイクのハンドルのアクセルレバーにコインを指して俺のボンネットにでも飛び乗れ。バランスは魔法使いが何とかしてくれるだろ」
「はい。バランスを取る魔法もあります」
「でも、撃たれるんじゃ…」
「それも大丈夫だ。バリアを貼ってくれる」
「物理魔法を数人であなた達に掛けますが、持っても20分です」
「それだけあれば十分です」
門の前ではプリウスとオフロードバイクが並んで門が開くのを待っていた。
「門を開けるぞ!」
門がゆっくりと開いていく。




