十一話 鐘の音
初めて銃を撃ったが意外と簡単に当たるもんなんだな。銃の性能が良いのか、それとも腕が良いのか……
「ちょっと、子供たちドン引きじゃない」
子供たちは今にも泣き出しそうな感じだった。
「あんな硬い筒が簡単に吹っ飛んだんだ。これは危険な物だと分かったか?」
三人の子供たちは首を縦に何回も振る。この様子ならもう振り回すことも無いだろ。かと言っても、このままこれをここに置いておくのもマズイよな。
「お兄ちゃん達ならあのデカイのも分かるんじゃないか?」
「ヤマイ君どうしたの?」
「小屋の横に有るあれも分かるの?」
小屋の横に大きな鉄の塊があるのは知っていたが、ツタが全体を覆っており、その姿は少ししか見えない。
「ツタを燃やせる?」
「ミケならツタだけを燃やせるよ」
ミケは優等生だな。ツタが一気に燃えて、後ろの鉄の塊が姿を現す。それも、第二次世界大戦で旧日本軍が使っていた戦車だ。
「結構、古そうな戦車だけど、なんて戦車か分かる?」
「アニメで見たこと有る奴だとすれば九七式戦車だな」
「せんしゃ…?きゅう・・・なな?」
完全に子供達を置いてけぼりにしているけれども今はそんな事を気にしている場合ではない。こんなに大量の武器があるとすれば魔王を倒せるかもしれない。
「今日はもう帰ろうか」
「それ持って帰るの?」
佐藤は不安そうに肩に担いでいる小銃を見ているが、そこまで劣化もしてないし、弾薬も大丈夫そうだ。車に積んでおけば盗まれる心配も無いだろう。
「唯一の武器だからな。佐藤も持って行けよ」
佐藤は嫌そうな顔をしているが小銃を一丁持ってきて、弾薬もそれなりに持ってきていた。
子供達と一緒に車まで戻ると、トランクに小銃二丁と弾薬を乗せる。
「良いかい?このことはお父さんとお母さんには内緒だよ」
「どうして?」
「どうしてって…」
「こんな危ない物で遊んで居たのをお父さんとお母さんが知ったら心配するでしょ」
佐藤、ナイスフォロー。
ガナスの町に着くころには当たりは暗くなっていた。子供達を魔法学校で降ろすと、町長のカンタレの家へ戻る。
「遅かったですね。夕飯はどうしますか?」
「いただきます」
夕食を食べ終えると、応接室に佐藤とともに呼ばれる。
「どうしたんですか?」
「あなた達は魔王を倒しに行くんですよね」
「倒すかどうかは分かりませんが、会いに生きます」
「今日ですが、物騒なことを聞きましてね。オルガの町にいた住民が全員居なくなったそうです」
「それってどういう意味ですか?」
「分かりません。しかし、オルガの町は最近不可解なことが起こっています。夜なのに街は明るく、空には大量のドラゴンが昼夜を問わずに飛んでいます。普通では考えられないです」
俺達はそんなところに行こうとしてるのか。
「それでも、行くのですか?」
「「はい」」
同時に返事をすると何だか照れくさいが、魔王に会えば元の世界に帰れる手がかりが何か掴めるかも知れない。
「そこまで言うのでしたら、最低限の装備をこちらで選んで用意しておきましょう。それまではゆっくりしていて下さい」
この世界の偉い人たちは、行動力があってすごいな。日本の政治家達にもこの世界の偉い人たちの姿を見せてやりたいよ。
佐藤と、部屋へ戻る。スマートフォンを取り出してみるが、画面全体にヒビが入っており、電源も着かない。佐藤も、スマートフォンを見ているが同じように使える状態ではなかった。
「あの戦車って使えないかな?」
「無理だな。使い方どころか、乗り込み方すら知らない」
「そっか……あれなら魔王を簡単に倒せそうなんだけどな」
なんか気まずいな。こういう時って本当にどうすればいいんだろ?
「佐藤って元の世界ではどんな感じだったんだ?」
「え?私ですか?…私は都内に住んでいるただの大学生ですよ」
「一人暮らし?」
「そうですよ……そういう、田中さんはどうなんですか?」
「俺も都内の葬儀場で働いているサラリーマンだよ」
「だから死体とかも見慣れていたんですね」
「まぁね」
「銃とかはどうして使い方が分かっていたんですか?」
「休日には戦争系のゲームばかりしていたからね」
彼女とは、ここ最近連絡すら取れてなかったな。元の世界に戻れたら真っ先に会いに行くか。
「今日はもう寝ましょうか」
「そうだな」
ベットに入る前にランタンの火を消すと、部屋は暗くなる。そんな中、佐藤の寝息だけが聞こえてくる。ヤベ……ムラムラしてくるな。
カーンカーン
突然町中に鐘の音が響き渡る。




