53.魔道具展示即売会(1)
とうとう、魔道具展示即売会の日がやってきた。朝早くに起きた私はしっかりと朝食を食べ、身だしなみを整える。
「どうかしら?」
「とても、よくお似合いですよ」
『似合っています』
ロイヤルブルーのドレスを身にまとい、装飾はネックレスだけにした。髪も綺麗に整えて、準備万端だ。
「なんかドキドキしてきたわ。ちゃんと、やり遂げられるかしら?」
「レティシア様なら大丈夫ですよ。いつものように自信満々に挑んでください」
『いつも通りにすれば、きっと成功するでしょう』
「二人ともありがとう。お陰で力が湧いてきたわ」
ちょっと、緊張して弱気になっちゃったけど、私らしくないわ。二人の言う通りに自信満々に突き進むべきよ。
「それじゃあ、決戦の地へ行くわよ」
顔をしっかりと上げて、私は部屋を出て行った。
◇
会場となる通りに行くと、沢山の出店が並び、そこで働く人々が動き始めていた。活気のいい声が響き、以前の沈んでいた空気はどこにも見当たらない。
その様子を見て、とても嬉しい気持ちになった。なんとかここまで町を復興することが出来たからだ。
『ここまでの道のりは険しいものでしたね。まだ、安堵出来るような状況ではありませんが、確実に良くなってきているでしょう』
「そうね……。ここで終わりではないもの、感傷に浸っている暇はないわ。しゃきしゃきと動いていかなくっちゃ!」
大事なのはこれからだ。ここでやり切った感を出してしまうと、本番に躓いてしまう可能性がある。気を引き締めて、会場の本部へと訪れた。
そこにはすでに魔道具協会の協会長や協会員たちが待ち構えていた。
「レティシア様、ようこそおいで下さいました」
「今日はよろしくね。準備は進んでいるかしら?」
「はい、滞りなく進んでおります。あとは、時間になるのを待つばかりですな」
準備は問題ないらしい。これならば、問題なく開催出来るだろう。でも、油断は禁物だ。
「じゃあ、段どりを確認するわ。みんな、集まって」
私の声に本部にいた人たちは私の傍に集まり、短い時間で段取りを確認していく。
◇
そして、魔道具展示即売会の開催の時間がやってきた。本部前に設置したステージの前には沢山の人が詰めかけている。
この町の住人やこの町に店を構えている商人、他の領からやってきた商人たちだ。初めての試みだというのに注目度は高く、みんながこの時を待ちわびてくれたことが分かった。
司会がステージに上がり、開会式の進行が進んだ。この魔道具展示即売会の事を詳しく説明して、注意事項もしっかりと伝える。
「では、ここで領主レティシア・アナスタージ様よりお言葉を頂戴したいと思います」
私の出番だ。私は席から立ち上がり、ステージに登った。軽くお辞儀をすると、人々に向かって語りかける。
「皆さま、本日はお集まりいただき、誠にありがとうございます。
この魔道具展示即売会は、我が領にとって初めての取り組みです。復興のただ中にあるこの町に、活気と希望、そして新たなつながりを生み出すことを目的として開催いたしました。
この町の産業が上手くいかず、皆さまの暮らしも一時は大変厳しいものとなりました。しかし、私はこの目で見てきました。どれほど多くの方がこの地を信じ、共に力を合わせて歩んできたかを。
そして今、この通りには活気が戻り、人の笑顔が戻りました。魔道具を手にした職人たちが知恵を絞り、技術を注ぎ込んだ数々の品々が、この場に集まっています。
ここにあるのはただの道具ではありません。皆さまの生活をより良くし、時に助けとなり、未来を変える可能性を秘めた希望の形です。
本日の展示即売会が、新たな出会いを生み、皆さまにとって実りある一日となることを心より願っております。そして、今後も我が領が、皆さまと共に歩む土地であり続けられますよう、私は全力を尽くしてまいります。
どうか、最後まで楽しんでいってくださいませ!」
長い挨拶を終えると、ステージ前に集まっていた人から拍手が鳴り響いた。どうやら、感触は良かったらしい。
「では、これより魔道具展示即売会を開会します!」
司会の言葉で集まってきた人たちはワッと盛り上がる。その盛り上がりようは、普通の祭り以上で、この日を待ちわびた人たちの心が見えてくるようだ。
それから、ステージ前に集まっていた人たちは通りに並んだ出店へと向かっていった。その様子を見て、私はすぐにステージから降りる。
「次のイベント、フロートキャリーの発表を進めるわよ。みんな、準備をして」
私が声を掛けると、本部の人達は真剣に頷いてそれぞれの持ち場へと向かっていった。
魔道具展示即売会の掴みは良い。あとは、どれだけ新しい魔道具に人々が注目してくれるかにかかっている。その為にはフロートキャリーのお披露目を成功させないといけない。
ここからが正念場だ。




