50.報告と検証
ようやく、ルミアクアの力を発揮することが出来た。私はすぐに魔道具協会に協会員たちを集めた。
みんな、突然の招集に驚いていたけれど、どこか期待してした目を向けてきている。その期待に答える時が来た。
「みんな、聞いて。ようやく、ルミアクアの力を発揮することが出来たの」
私の言葉に協会員や協会長が勢いよく立ち上がった。
「そ、それは本当ですか!?」
「えぇ、これを見て」
私は魔石に包まれたルミアクアを見せた。すると、全員近くに寄ってそれを確認した。
「これは……魔石が周りに?」
「中心にルミアクアがあるぞ!」
「こんな方法があったなんて……」
物珍しそうにそれを見た。
「見ての通り、ルミアクアを魔石で包み込んだの。そしたら、浮遊する力を得ることが出来たわ」
「そんな方法が……。そ、それで……本当に浮遊が?」
「えぇ。今、見せるわね」
私はそれを手に持つと、魔石に魔力を籠める。石は淡く光り出して力を解放した。私の体が軽くなり、その足は床から離れる。その瞬間、部屋にどよめきが広がった。
「こ、これは!」
「本当に浮いている!」
「本当に、本当なんだな!」
見事に浮いた私を見て、協会員たちは驚きで声を上げた。そして、嬉しそうに喜びの声を上げる。
念願だった浮遊の力、これが現実のものになった。長年の苦労が報われた瞬間だ。
「ようやくこの時が……!」
「良かった、本当に良かった!」
「レティシア様、万歳!」
一人が万歳をすると、他の人たちも一緒になって万歳をする。部屋には協会員たちの万歳の声が響いた。
嬉しい気持ちは分かる、だけどこれで終わりじゃないわ。
「念願だった浮遊の力は手に入れたけど、これからこれを商品化しないといけない。色々考えることは山積みだけど、一つずつクリアしていきましょう」
「そうですね。まだ浮遊の力を手に入れただけです。商品化するにはまだやる事が残っています」
「まずはこの合成石の試作を進めていって、最大限の力を発揮する形を見つけるわ。その後、浮遊の力を商品に付与する方法を考える」
手に持っている石は初めて作った合成石。だから、完璧じゃない。まずはこの合成石を完璧な配合で作る必要がある。その後、商品の開発が本格的に始まる。
商品開発が終わりでない事を協会員たちは良く知っていた。みんな、真剣な顔をしてやる気を漲らせている。
「魔道具展示即売会は近づいてきている。それまでに、必ず商品開発を終わらせて、商品化を目指すわよ」
私の言葉に協会員たちは気合の入った声を上げた。ここからは一丸となって商品開発をするわよ!
◇
それから、私たちは製鉄所に集まり、ルミアクアの力を最大限に発揮する配合を求めた。様々な試作を繰り返し、形、量を細かく設定して完璧を追い求めた。
「これはどうかしら?」
「最高の物よりも一センチ低くなってます」
「次はこれね」
「えーっと……これは六ミリ高くなっています。次はこれを基準にしましょう」
様々な試作を繰り返し、最高の合成石を見つける。地道な作業だったけどみんなで協力したお陰で、完璧の答えにどんどん近づいていった。
そして、試作が百を越える頃――限界値が見えてくる。
「これ以上、浮遊の力は高くなりませんね」
「だったら、これが最高の配合なのね」
「ようやく、見つけられましたね」
「えぇ。今度はこれを量産して、具体的に商品と付与する作業に入るわよ」
沢山の試作を乗り越えて、私たちは最高の配合を見つけることが出来た。あとは、この合成石を商品化するだけだ。
今度は合成石を持ち寄り、実際の荷台に取り付けて見た。まず、初めに荷台に一つの合成石を取り付けてみる。すると、荷台は問題なく浮いた。
「一つでも浮きましたね。凄い力です」
「ここから検証を進めていくわよ」
浮いたからといって成功ではない。これから、これが商品になるか検証をしなければいけない。
まずは動きを確認する。浮いた荷台を押したり引いたりして、どんな動きをするのか確かめた。すると、荷台はグラグラと揺れて安定性がない。
「安定性がイマイチね。もしかして、合成石の位置が悪いのかしら?」
「なら、次は中央に配置してみます」
端に付けていたが、今度は中央に設置した。それから動かしていくが、やっぱりグラグラと動いて安定性がない。これだと、積み荷を落としてしまう危険性がある。
「次は四隅に設置してみましょう」
「はい」
端でも中央でもダメならば、広範囲をカバー出来るように四隅に設置してみる。それから動かしてみると、前よりは安定しているように感じた。だけど、もう一歩足りない。
「何か足りないわ……。どうしたら……」
『まだ安定性が足りないようですね。では、魔鉄の配線で繋いでみてはどうでしょう』
「配線で繋ぐ……そうよ! 力を流動させれば、あるいは! みんな、四隅に設置した合成石を魔鉄で繋げるわよ!」
叡智の助言にハッとした。私はすぐに指示をすると、職人たちは早速工具を取り出して、四隅に置いた合成石を繋ぎ合わせる。
そして、あらためて魔力を通して力を発動すると、荷台が浮かんだ。本題はここからだ。
荷台に手をかけて揺らしてみる。すると、全然グラグラしない。引っ張ってみても、押してみても、一定の感覚で動くだけで安定性が各段に上がった。
その様子に私たちは歓喜の声を上げる。
「やったわ、安定性が上がったわよ!」
「やりましたね! これだと、荷物が崩れません!」
「でも、これではまだよ。次は重さの調査をするわ。みんな、荷台に積み荷を入れてみて!」
安定性はクリアした、次は重さがどれくらいまで平気なのか確かめる。私たちはすぐに次の作業に入って、検証は続いていく。




