47.開発着手
「さぁ、浮く魔道具作り、始めるわよ」
執務室に用意された専用の机。その前に座って、魔道具作りを開始する。
「それで、魔道具はどんな作りになっているの?」
『様々な形はありますが、動力部、配線部、可動部に分かれています。動力部には加工した魔石、配線部には魔鉄で作った配線、可動部はその力を発揮する部分です』
「なるほど、大体の構造は分かったわ。じゃあ、実際に作ってみましょう」
『その前に職人たちが試行錯誤した設計図を見ましょう。どんなやり方があるのか、事前に見ていた方が良いでしょう』
それもそうだと思い、机の端に寄せておいた過去の設計図を手に取る。中を見て見るとそこには、動力部、配線部、可動部が詳細に書かれている図が載っていた。
「へー、色んな形があるのね。あっ、その後の経過も載っているわ」
『ですが、どれも良い経過ではなかったみたいですね』
「こんなに試行錯誤して良い経過が出ないのは、それだけ今回の魔道具作りが難しいってことね」
職人たちの努力の結晶を見ながら、この魔道具作りの難しさを感じていた。私にそれが出来るのか? 少し不安に思ったが、そんな思いはすぐに忘れた。
「一通り試作品は読んだわね」
『はい。これをもとに新しい試作品を作りましょう。作り方は何通りもあります。一つずつ試していきましょう』
「そうね。数をこなせば、いつかは当たりを引くはず。それまで、試しまくるわよ!」
こうして、浮く魔道具作りが始まった。
◇
用意した板の上で加工された魔石を溶けた魔鉄で囲う。その離れたところで青くて透明な石、ルミアクアを設置してそれも溶けた魔鉄で囲う。それから、二つを溶けた魔鉄で繋げて、固まるのを待つ。
「さぁ、次はどんな感じかしらね」
魔鉄が固まるのを待つと、今度は魔石に魔力を補充する。すると、魔石に溜まった魔力が魔鉄を通じてルミアクアに流れていく。
そして、板の様子を見る――が、浮く気配はない。試しに手に持ってみると、板が紙のように軽くなっていた。
「軽くはなっているけれど、浮かなかったわね。試作六は失敗」
『記録しました。では、試作七に移りましょう』
次の試作品――試作七では、ルミアクアの位置を変えてみた。今度は魔石の真上に配置し、よりダイレクトに魔力が流れるように接続してみる。
「さっきより効率的に魔力が伝わるはず……これで、どう?」
『魔力の流れは良好です。ルミアクアに良い魔力が流れています』
「本当!? なら、魔石に魔力を流すわよ!」
期待して魔力を魔石に溜めて、そっと手を離してみる。が、またしても板は浮かない。ただ、今度は先ほどよりも明らかに軽くなっていた。
「惜しい……っ。でも、方向は間違ってない気がする」
『良い感じに魔力は流れていますが、まだ足りないみたいですね』
「ルミアクアに魔石が近いと効果が高いような気がする。今度はルミアクアを囲うように、魔石を配置していくわよ」
試作七もダメだったが、可能性は高まった。まだまだ、諦める段階ではない。この魔道具は完成する。その思いで試作八へと移っていった。
◇
「これが我々が作った試作品の設計図です」
「こんなに沢山……。私も持ってきたわ」
「お、お一人でこれほどの試作品を?」
「私と叡智とだから、二人でよ」
「そ、そうですか……」
試作品を作ったら今度は魔道具協会で、お互いに作った試作品の設計図を見せ合う。
「どれも、あまり効果はなかったみたいです。レティシア様の方はどうでしたか?」
「ルミアクアと魔石が近いと軽さが強まった感じがするわ」
「そうでしたか! なら、今度は両方の石を近づけさせるようにしましょう」
自分たちの経験を共有して次に繋げる。そうして、少しずつ正解に近づいていく。
今日も魔道具協会は職人たちが集まり、様々な意見交換をしていった。その時間はとても有意義なもので、時間を忘れて魔道具について語り合った。
みんなの心が一つになったようで、とても気持ちのいい時間だった。この調子なら、絶対に浮く魔道具は完成する。確証もないそんな自信が沸いてきた。
◇
領主としての仕事と魔道具の開発。どちらも手を抜けず、全力で当たっていく。
「……ふぅ。今日の報告書、これで全部っと」
夜の執務室。月明かりと魔灯だけが部屋を照らす中、私は山積みだった書類をようやく処理し終えた。すべて大切な仕事。だけど、心のどこかでは、ずっと魔道具のことが気になっていた。
『お疲れさまでした。これで本日の行政業務は終了です』
「ありがとう、叡智。よし、それじゃあ……夜の部、開始よ!」
『これからやるのですか? これ以上の労働は体に障ります。止めましょう』
「ちょっとだけ、ちょっとだけでいいから!」
魔道具開発の事が気になりすぎて寝られない。叡智に懇願すると、叡智はため息を吐いた。
『では、試作は一つだけですよ』
「分かったわ! とんでもない試作を作ってやるわよ!」
『時間がかかるので、普通の試作にしてください。明日に疲れが残るといけないので、ほどほどにしてくださいね』
叡智の厳しい言葉を向けてくるが、今回の試作で完成させる気満々だ。作業用の机に移動すると、早速試作を開始した。




