42.最終チェック
数えきれないほどの魔鉄を製造してきた。私の教えはしっかりと工員たちに届き、少しずつ指示が無くても動けるようになってきた。
その様子を見て、私は決心した。私の手を離れる時だと。まだ、不安なところもあるけれど、今まで十分に教え込んできた。知識は技術として身についてきただろう。
私の決心を叡智は了承してくれた。叡智がそう言うのだったら、きっと大丈夫だ。私は工員たちを信じ、魔鉄製造を一任する事にした。
「さぁ、今までの成果を見せる時よ。今日は約束通り、私の指示なしで魔鉄を作ってもらうわ」
工員たちの前でそう言うと、工員たちは真剣な表情をして頷いてくれた。みんな、自信のある顔をしてくれていて、これなら任せてもいいと感じた。
「では、魔鉄製造始め!」
私が最後の指示を出すと、工員たちは返事をして動き出した。
まずは材料の分量を計るところだ。注意深く材料を計り、規定量をきっちりと守る。何度も計ってきたのか、数値はもう頭の中に入っていたのだろう、テキパキと分量を計り終える事が出来た。
次は溶鉱炉の温度を上げる。水車の力で動くふいごの風で溶鉱炉の温度はどんどん上昇していく。その傍では工員たちが適切な温度を計り、材料の入れ時をしっかりと見極める。
ここまでは順調そうだ。全く問題がない。でも、口を出したい気持ちに駆られる。ずっと続けてきたことだから、身に染みてしまった。
ここは我慢。私は黙って工員たちの作業を見守った。
「温度オーケー! 材料を入れろ!」
工員の指示で溶鉱炉に材料が入れられた。みんな、その様子を真剣に見つめている。あとは、しっかりと溶けだすのを待つだけ。
この待っている時間も工員たちはしっかりと見守っていた。一つの間違いを犯さないように、誰もが真剣な顔をしている。
あと、もう少しで溶けだした鉱石を取り出す時間だ。
「みんな、そろそろだ。準備はいいか?」
私が言わなくても工員が自主的に言ってくれた。そうやって、みんなと意思疎通をすることで、やるべき時をみんなで見極める事が出来る。良い判断だわ。
そして、工員の合図で溶けた鉱石を取り出し始めた。鉄の器にそれを入れると、適切な温度になるまで待つ。ここはいつも私がしっかりと指示を出していたところだ。工員たちはちゃんと適切な温度を見極められる?
「……もうそろそろか?」
「そうだな。あと、もう少し」
そうやって工員たちが声を掛け合って、適切な温度を確かめていく。口を出したい気持ちをぐっと堪え、適切な温度になった時工員たちが動き出す。
「よし! 混ぜ合わせるぞ!」
「滑車を引け!」
「ゆっくり、焦るなよ!」
私が思ったタイミングで工員たちがテキパキと動き出す。鉄の器は宙づりにされ、大きな鉄の鍋に流し込まれる。そして、溶けあった二つの鉱石が一緒になり、骨粉が中に入れられる。
すると、工員たちが鍋の中をかき混ぜ始めた。その動きは慣れたようで、文句のつけどころがない。これなら、いい魔鉄が出来そうだ。
そう思って見守っていると、かき混ぜる作業が終わり、運命の金型に流し込む時が来た。慎重に大鍋を持ち上げて、口を開くと溶けだした鉱石が流れてくる。
それを金型に流し入れていく。この作業まで来たら、もう心配はない。あとは出来上がりを待つだけだ。
◇
「それじゃあ、取り出すぞ」
金型に入れた魔鉄が固まった。工員たちは緊張しながら、金型から魔鉄を取り出す。見た目は良い感じだけど、中身はどうかな?
「お願いします」
「うむ」
工員は以前の魔鉄職人の老人に魔鉄を手渡した。老人は魔鉄を手にして、色々と確かめていく。工員たちが固唾を呑んで見守っていく中、老人が唸る。
「これは……」
「どうだ?」
「上手く出来たか?」
「頼む!」
老人が口を開くとすると、工員たちがいてもたってもいられず詰めかける。すると、老人はにこりと笑った。
「今まで同じ、最高品質の魔鉄が出来たぞ」
「本当か!?」
「やった……やったぁ!」
「俺たちだけでやったんだ!」
老人の話を聞いた工員たちは飛び上がって喜んだ。みんなで肩を抱き合い、お互いを励まし合っている。その様子を見て、私は胸がいっぱいになった。
沢山の苦労を積んでここまで仕上げてきた工員たち。その努力が実を結んで、とても嬉しい気持ちだ。共にやり遂げた気持ちが膨らんで、顔から笑顔が離れない。
『工員たちの動きは完璧でした。これならば、魔鉄製造を一任しても大丈夫でしょう』
「叡智がそう言ってくれるなら、心強いわ!」
叡智のお墨付きだ、これならばあとは工員たちだけで魔鉄製造に携われるだろう。
「みんな、叡智がもうあなたたちだけで魔鉄製造をしても大丈夫だって!」
「叡智様がそんなことを? それは自信になります!」
「やった、俺たち……叡智様に認められたんだ!」
「これからは俺たちだけでやっていけるんだ!」
叡智の指導の下、魔鉄製造をしてきたお陰か叡智はみんなにとって身近な存在になっていた。叡智の言葉を受けて不思議そうにする人はおらず、みんな喜び合う。
その変化がとても嬉しい。叡智は私にしか声が届かないから、こうして認知をして声を掛けてくれると、叡智の孤独も癒されると思った。
「ほら、今回もみんな叡智に感謝をしているわ。何か言葉を返さないと」
『……恐れ入ります』
「もう、消極的なんだから!」




